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ウルヴァリン役との別れを語る。ヒュー・ジャックマン インタビュー

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『LOGAN/ローガン』のアジアプレミアで自身の人形に喜ぶヒュー・ジャックマン(写真:ロイター/アフロ)

多くのスター俳優は「当たり役」というものを持っている。シリーズ映画が常態化している現代のハリウッドにおいては、映画がヒットする→キャストがスターになる→映画がシリーズ化→同じ役を何度も演じる、という流れに逆らうことはできない。ジョニー・デップならジャック・スパロウ、ダニエル・ラドクリフならハリー・ポッターなど、役のイメージが俳優としての個性を決定づけ、時にはそのイメージから脱却できなくなることも。

ヒュー・ジャックマンにとって、それは「X-MEN」シリーズのウルヴァリだろう。『レ・ミゼラブル』など他に代表作も多いヒューだが、彼をスターにしたのは、カギ爪で戦うこのミュータント役であり、2000年以来、17年間も演じ続けてきた(ウルヴァリンとしての出演は計9作!)。最新作『LOGAN/ローガン』で、ヒューはそのウルヴァリン役と、ついに別れる決心をした。『ローガン』の日本公開のプロモーションでヒューは来週、来日も果たすので、筆者が取材した最後のウルヴァリン役への思いをお届けする。

代役でつかんだウルヴァリンが17年間も続く

2000年のシリーズ第1作『X-メン』に出演するまで、ヒュー・ジャックマンが映画俳優として国際的スターではなかった。地元オーストラリアではTVや舞台で活躍し、イギリスの王立劇場などに進出してキャリアを積み、ようやくつかんだ大役がウルヴァリンだった。当時の経緯をヒューは改めて振り返る。

「『X-メン』のウルヴァリン役は、すでに他の俳優(ダグレイ・スコット)に決まっていた。しかし別の作品で彼のスケジュールが合わなくなり、急遽、追加のでオーディションが行われたんだ。僕はそのオーディションを2回受けたのだが、1回目のときは確実に落ちたと思ったよ。オーディションの後、当時アシスタントだったケヴィン・ファイギ(現在はマーヴェル・スタジオの社長)が僕を車に乗せて、食事へ連れて行ってくれた。空港まで送ってくれるだけかと思った僕は『マーヴェルって、すばらしい人がいる会社だな』とうれしくなったのを覚えてる。おそらく僕はウルヴァリン役の『第5候補』くらいだったんじゃないかな(笑)。役が決まって本当にラッキーだったよ」

まさかそれから17年間もウルヴァリンを演じるとは、ヒューも予想していなかったことだろう。ここまでのスターの当たり役の場合、「引き際」のタイミングが自身に委ねられるケースも多い。ウルヴァリン役と別れる決意をした経緯を、ヒューは次のように語る。

「ある晩、友人のジェリー・サインフェルドと夕食に行った。彼はアメリカで有名なTVシリーズ(「となりのサインフェルド」)を9年間も続けていた人だ。僕は9年間も続いたシリーズをどうやって終わらせたのか質問したんだ。そのときのジェリーの答えはこうだった。『自分が枯れてしまうまで続けてはいけない。まだアイデアが残っているうちに辞めれば、次の創作に移ることもできる』。僕はその言葉を聞いて、ウルヴァリンを辞める決意をしたよ。そしてまたある晩、午前4時に目が覚めたとき、最終作のトーンや方向性が頭にひらめいた。午前4時に目覚めたということは、前の夜に飲み過ぎたせいかもしれないけどね(笑)」

こうして、ヒュー・ジャックマン=ウルヴァリンの最終作『LOGAN/ローガン』は生まれた。撮影現場では最後ということで、ふだん以上にヒューの気合いも大きかったようだ。

「最後の作品だから、完成したときに後悔だけはしたくなかった。だから撮影中、ジム(監督のジェームズ・マンゴールド)には何度も『今のでいい? もう一度やろうか?』と提案してよ。そのたびにジムには『OKを出してるから大丈夫。少しは監督の僕を信じて』と説得されていた。現場では『面倒くさいヤツ』と思われてたかな(笑)」

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そして『LOGAN/ローガン』が初めてお披露目されたベルリン国際映画祭で、ヒューは予想外の感動を味わうことになる。

「ベルリンでジムとパトリック(・スチュワート)と並んで初めて作品を観たとき、僕はあまりの感激で涙を流してしまい、思わず隣に座るパトリックの手を握ってしまった。達成感と安堵感で、ものすごくいい気分だった」

このヒューの言葉どおり、『LOGAN/ローガン』は興行成績で大成功したのはもちろん、作品の評価の面でも各国で絶賛を集めている。これまでのアメコミヒーロー映画の常識を覆す感動作として、日本のマスコミにも歓喜で迎えられ、公開日を待っている状態だ。

「あの後、まわりから『もう二度とこのシリーズには関わらないんですよね?』と聞かれるけど、それはちょっと違う。同じ食卓を囲むけど、もう料理はしない。そういう感覚なんだ」

こう語るヒュー・ジャックマン。その真意は、ウルヴァリン役が今後、誰かに受け継がれたとき、全面的にバックアップする用意があるということだ。

「1作目の『X-メン』でウルヴァリン役に決まっていたダグレイ・スコットに、後に会う機会があった。なんだか役を横取りしたようで、緊張する僕に対し、彼は『こういう風に役が他の俳優に移ることはよくある。だから気にするな。思い切り演じろよ』と激励してくれた。とてもカッコいいと思ったよ。だから僕も後継者に同じことを伝えたい。だって、このすばらしい役が今後、映画に出てこないのはもったいないだろう? 重要なアドバイスもある。僕が最初のウルヴァリン役で肉体の準備をした期間は、3週間だけだった。まったく足りなかったよ(笑)。次にウルヴァリンを演じる人には『最低、6ケ月はトレーニングしておけ』と教えたいね」

不老不死の治癒能力をもっていたウルヴァリン=ローガンも、今回の『LOGAN/ローガン』では年齢を重ね、パワーが衰えている。この取材が行われたとき、ヒューも皮膚ガンの治療で鼻に絆創膏を付けており、「このとおり、僕も年齢とともに治癒能力が弱くなってきたね」と笑っていた。たしかに48歳という年齢を考えると、アクションスターとしての限界も見えてきているのだろう。

今がいちばん、幸せかもしれない

17年もの間、同じ役を演じ続けること。俳優にとっては、大きな喜びである一方、プレッシャーはどんどん大きくなっていく、その役が足枷だと感じる瞬間もあったはずだ。すべてを終え、これまでにない満足の表情を浮かべるヒュー・ジャックマン。「年齢とともに幸せが増している気がする」という彼の言葉が、素直に響いてくる。

次回作では、伝説のサーカス興行師、P・T・バーナムを演じる。ヒューにとって得意のミュージカルであり、すでに次のアカデミー賞候補になるのでは……という予想も出始めている。

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『LOGAN/ローガン』

6月1日(木) 全国ロードショー

配給/20世紀フォックス映画

(c) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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