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アカデミー賞(R)前哨戦、まさかの『マッドマックス』が一番乗り!

斉藤博昭映画ジャーナリスト

年末になり、アカデミー賞に向けた前哨戦の賞レースが本格的にスタートした。

その皮切りとなる「ナショナル・ボード・オブ・レビュー」が12月1日に発表され、驚いたことに作品賞に輝いたのは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』だった。たしかに今年度は、現在のところ「大本命」となる作品は不在の状態。これから続く、各前哨戦の結果によって、アカデミー賞の結果は大きく変わっていくものと思われる。

有力視されている作品は、女性同士の愛を赤裸々に描き、同じく前哨戦のNY映画批評家協会賞で作品賞に輝いた『キャロル』、カトリック教会の少年への性的虐待を告発する新聞社のドラマ『スポットライト(原題)』、昨年も作品賞に輝いたアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督で、レオナルド・ディカプリオの受賞も期待される『レヴェナント:蘇えりし者』。ここ数年、賞レースの常連となっているデヴィッド・O・ラッセル監督の『ジョイ(原題)』、リドリー・スコットのSF超大作『オデッセイ』、スティーヴン・スピルバーグの『ブリッジ・オブ・スパイ』、クエンティン・タランティーノの『ヘイトフル・エイト』、世界で初めての性別適合手術をテーマにした『リリーのすべて』…と、ほぼ横一線の様相だ。

ちなみに、このナショナル・ボード・オブ・レビュー、過去10年の作品賞と、アカデミー賞の結果を照らし合わせると

2005年『グッドナイト&グッドラック』 →作品賞ノミネート

2006年『硫黄島からの手紙』 →作品賞ノミネート

2007年『ノーカントリー』 →作品賞受賞

2008年『スラムドッグ$ミリオネア』 →作品賞受賞

2009年『マイレージ、マイライフ』 →作品賞ノミネート

2010年『ソーシャル・ネットワーク』 →作品賞ノミネート

2011年『ヒューゴの不思議な発明』 →作品賞ノミネート

2012年『ゼロ・ダーク・サーティ』 →作品賞ノミネート

2013年『her/世界でひとつの彼女』 →作品賞ノミネート

2014年『アメリカン・ドリーマー 理想の代償

と、昨年度を除いて超高確率でアカデミー賞での作品賞に絡んでいる。『マッドマックス〜』もノミネートはもちろん、作品賞の可能性も視野に入ってきたのだ。

さらに後押しになるのが、この『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は、2015年度の国際批評家連盟賞を受賞している点だ。世界各国の映画批評家の投票で決まるこの賞は、昨年、『6才のボクが、大人になるまで。』に与えられている。『6才〜』は昨年度、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』とアカデミー賞作品賞を最後まで争った一作であることから、『マッドマックス〜』も賞レースでいい位置につけたと言ってよさそう。

とはいえ、アクション娯楽作がなかなか栄冠に輝きづらいのも、アカデミー賞。

でも本命不在の年こそ、こうした血湧き肉踊る、映画の王道を極めた一作に票が集まってほしいものである。

いずれにしても今後の賞レースの傾向がどうなっていくのか、本年度はかなり面白くなりそうな予感がする。

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

(C) 2015 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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