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世のオヤジたちを猛烈激励! 50代からアクションスターに覚醒したリーアムの奇跡も間もなく見納め!?

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『ラン・オールナイト』

ラッキーだった変貌の陰に、悲しい事実も

人間、50歳を過ぎても、まだまだ進化できるーー。

そんな事実を教えてくれたスターがいる。

リーアム・ニーソンだ。

もともと『シンドラーのリスト』など演技派俳優として認知されていた彼が、56歳で主演した『96時間』の予想外のヒットにより、無敵アクションスターのトップランクに入ってしまった。それ以前も『スター・ウォーズ』シリーズのクワイ=ガン・ジン役などでアクションを披露していたものの、「アクションスター」と呼ばれることは一切なかった。トム・クルーズなど若い時代からアクションスターを継続している人はともかく、中年期でのリーアムの豹変は、世のオヤジたちに間違いなく勇気を与えている。

2008年、誘拐された娘を助ける元CIAの無敵パパを演じた『96時間』はシリーズ3作が製作され、リーアムの十八番の芸に! その他にも、交通事故後、見知らぬ男が自分になりすます『アンノウン』や、飛行機内で凶悪な相手と闘う『フライト・ゲーム』と、孤独なバトルを強いられる役を演じ続け、いい意味で、観客の期待に応えるパターンを形成してきた。

『96時間』の後の2009年、妻である女優ナターシャ・リチャードソンをスキー場での事故で失い、私生活では激しいまでの悲しみを体験したリーアム。そんな不幸な現実が、彼が演じる孤高のヒーローに重なり合う時期もあった。偶然とはいえ、その事実を知って演技を見れば、より切実さが増したのだ。

日本では2作が連続公開

これから初夏にかけても、『ラン・オールナイト』、『誘拐の掟』という、“孤高の最強リーアム”が活躍する主演作が、立て続けに日本で公開される。

前者は、殺人事件を目撃したことで命を狙われる息子を救おうとする殺し屋役。残された時間は一晩(オールナイト)という、家族の絆&タイムリミットの要素で、『96時間』を彷彿とさせる、リーアムの「お家芸」的な一作だ。リーアムのアクション成功作は、必ず家族との屈折した関係も描かれる。このあたり、脳まで筋肉のアクションスターとは違い、演技派としての面目を保っており、だからこそ、パッと見は無謀なオヤジアクションに説得力が加味されるのかもしれない。

そして後者はタイトルどおり、誘拐がテーマ。この点も『96時間』と同じ! リーアムが演じるのは、心に傷を抱えた元敏腕刑事と、またもや得意のキャラクターだ。残虐で冷酷な誘拐犯に対し、プロフェッショナルな交渉と、全身全霊の肉体技を駆使するその姿は、やはり唯一無二な最強オヤジの輝きを放っている。捜査に協力する少年との疑似親子愛がもたらす感動も、リーアム映画らしい。

近年の出演作で、ここまで同じパターンが打ち出されるのは異例だが、おそらくリーアム自身もまんざらではないようだし、下世話だが、ある程度のヒットが見込めれば、高額のギャラも望めるというもの。大スターといえど、年齢を重ねれば、「当たり役」に巡り会う機会が減っていくのが、映画界の現実。メリル・ストリープらわずかな例外を除けば、女優の場合はより深刻だし、男優でも、たとえばロバート・デ・ニーロアル・パチーノといった名優たちも、50代以降のキャリアは、過去の栄光を知っているファンにとって、演じる役への物足りなさは否めない。

失敗例はショーン・ペン、成功例はキアヌか

こうした現実の下、リーアムの“オヤジアクションスター覚醒”は、ひとつの奇跡的な指針になったともいえる。オヤジアクションスターたちが復活をかけて、大成功した『エクスペンダブルズ』も、『96時間』の2年後の公開なので、リーアムの活躍が刺激になったはずだ。

とはいえ、誰もがこの路線で成功するわけではない。一例を挙げると、ショーン・ペン

アカデミー賞スターでもある彼が、引退を決意した国際的工作員に挑み、先ごろ、全米で公開されたのが『The Gunman』だった。しかも監督は、『96時間』のピエール・モレル! 第2のリーアムになるかと思いきや、批評はさんざん。観客からもソッポを向かれる結果に…。誰がトライしても、うまくいくわけではないし、監督が同じということで、逆に新鮮味が失われたのかもしれない。いずれにしても、ショーン・ペンのオヤジアクションスター化計画は、ここでストップされたのは確実だ。

では、復活の「成功例」は他にいるのか? リーアムと比較するのは、ちょっと違うが、キアヌ・リーブスを挙げたい。『スピード』や『マトリックス』のアクション超大作でスターになったキアヌも、今や50歳。最近はややキャリアが迷走気味(『47 RONIN』とか!)で心配だったが、新作『ジョン・ウィック』で、アクションスターとして鮮やかすぎる復活を果たしている。「オヤジ」という形容詞はまだ似合わないキアヌだが、今後も体を張った役に大いに期待したい。

リーアム・ニーソンも間もなく63歳。「あと2年くらいでアクション映画は引退」とコメントしており、おそらく『96時間』シリーズの新作は望めそうにない。

しかし50代になってからの彼のこの偉業は、今後も語り継がれることだろう。

最後に、夏公開『テッド2』でのリーアムもお楽しみに!

『ラン・オールナイト』

5月16日(土)全国ロードショー 配給/ワーナー・ブラザース映画

(C)2015 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

『誘拐の掟』

5月30日(土)全国ロードショー 配給/ポニーキャニオン

『ジョン・ウィック』

10月、全国ロードショー 配給/ポニーキャニオン

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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