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カンヌ最高賞で、女同士の濃厚ラブシーンを演じた青い髪の女優は?

斉藤博昭映画ジャーナリスト

2時間59分の青春ストーリーに栄冠

第66回カンヌ国際映画祭は、是枝裕和監督の『そして父になる』が審査員賞を受賞するなど日本でも大きく報道されたが、最高賞のパルム・ドールを受賞したのは、下馬評どおり『アデルの人生(原題)』だった。

チュニジア生まれで、6歳のときにフランスに移住したアブデラティフ・ケシシュ監督の作品で、審査員長のスティーヴン・スピルバーグが壇上で「3名に授与する」と宣言したように、監督と主演の2人の女優に栄誉がもたらされた。これは授賞式では、とても稀なケース。つまり、主演2人の熱演も受賞に値するということだ。

『アデルの人生』は、15歳の少女アデルが、年上の女性エマに出会ったことで、自身に眠っていたセクシュアリティーにめざめる物語。女性同士のラブストーリーが、カンヌで、しかもスティーヴン・スピルバーグ審査員長によって栄冠を勝ち取るのは意外な気もするが、上映時間は2時間59分という超大作! 青春映画としてみずみずしい光を放っている点が評価されたようだ。

この作品、女同士の濃密なセックスシーンが延々と続く点も、カンヌでの上映で話題となっていた。アデル役は19歳の新進女優アデル・エグザルチョプーロスが演じているが、注目してほしいのは、エマ役のレア・セドゥだ。劇中では青い髪で登場し、少女の運命を導く“指南役”。本作のカンヌでの受賞により、レアは真のトップスターの地位に引き上げられたと言っていい。

映画界のサラブレッドは自力でスターになった

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レア・セドゥは、これまでもクエンティン・タランティーノの『イングロリアス・バスターズ』、リドリー・スコットの『ロビン・フッド』、ウディ・アレンの『ミッドナイト・イン・パリ』と、錚々たる監督の作品に出演してきた。『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』で、ドバイのブルジュ・ハリファに現れる敵の美女を演じた女優…と聞けば、その顔を思い出す人も多いだろう。

2012年に来日した際にインタビューした際、自分を演出した名だたる監督たちについて聞くと、「あえて誰とは言わないけど、この人、バカじゃない? と思ったことがあるわ」と大胆発言! そう、かなり気の強い女優なのである。

じつはレアはフランス映画界のサラブレッドでもあり、祖父はフランスの映画会社「パテ」の会長で、大叔父も映画会社「ゴーモン」の会長でCEO。ところが女優になったきっかけについて本人は「祖父たちの力は一切、借りてない。祖父と親しい映画関係者から声をかけたもらったこともないわ。女優になったのは、あくまでも個人的な決心から」ときっぱり。やはり自意識の強さを示していた。

鉄の女の表情が崩れたのは、共演したい俳優について聞いた瞬間だった。

「レオナルド・ディカプリオ! 最高の俳優でしょう!」とレアは目をキラキラと輝かせる。要するにこの人、とことん自分に素直な人柄なのだ。こんな自由奔放な生き方が、今回の『アデルの人生』のエマ役にぴたりとハマったのだろう。青い髪のレア・セドゥの魅力は、これから公開される各国でさらに注目を集めるはずだ。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、ヤングマガジン、クーリエ・ジャポン、スクリーン、キネマ旬報、映画秘宝、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。

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