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韓国のメディアは「元徴用工敗訴」の判決をどう伝えているのか?

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
韓国の大法院(最高裁判所)(韓国裁判所HPから)

 日本企業16社を相手取り損害賠償を求めた元徴用工らの訴訟でソウル中央地裁は昨日(7日)原告の訴えを却下する判決を言い渡した。地裁の判決が日本企業に賠償を命じた2018年の大法院(最高裁)の判決とは正反対となったことで韓国でも大きなニュースとなり、各紙が一斉に取り上げていた。

(参考資料:慰安婦問題 日本は国際司法裁判所に提訴して勝てるか?)

 主な新聞記事の見出しと社説をチェックすると、最大部数を誇る保守系大手紙「朝鮮日報」の見出しは「徴用被害者1審で敗訴」となっているが、オンライン用では「大法院の判決が覆った・・・金命洙(大法院長官)大法院判決を1審が条目ごとに反駁」の見出しに変わっていた。記事では「2018年の大法院の判決が所詮無理だった」との元裁判官の言葉を引用していた。

 また、「前例のない司法混乱、選挙用の反日狩りの必然的な結果」との見出しを掲げた社説では「過去史(歴史問題)を政治利用してきた文在寅政権と超法規的な判決を行った金命洙司法部の責任である」と断じていた。その上で、今回の判決は「国民情緒に従い、国際法を無視すれば、国際社会の支持を得られないだけでなく、我が司法部内でも同意を得られないという事実を見せつけた」と結んでいた。

 同じ保守紙の「中央日報」も1面で「徴用賠償大法院判決を1審判事が破った」との見出しの下、記事にしていたが、総じて客観報道に徹していた。

 社説は「食い違った強制徴用判決・・・外交的妥協で解決すべき」との見出しに表れているように「原告団が控訴し、再び大法院の最終結論が出るまでどれだけ時間がかかるかわからない。明白なことはひたすら司法部の判断だけを待っていられないということだ」として文政権を批判せず、文大統領に対して日本との交渉を進めていた。

(参考資料:文大統領には皮肉にも「助け船」となる「慰安婦原告敗訴」判決 韓国政府が補償へ)

 保守紙であるが故に進歩層から「朝中東(チョチュンドン)」のレッテルを貼られている「東亜日報」の記事は1面ではなく、10面扱いで「強制徴用被害、日本企業に責任問われず・・・3年前の大法院と正反対の判決」の見出しを掲げていた。同紙は社説では扱ってなかった。

 政府系とみなされている「ハンギョレ新聞」は1面に「法院、日帝強制徴用訴訟を却下『米・日との関係棄損』との荒唐な理由」の見出しで記事を載せていた。記事では「非常識的で、非合理的な判断である」とする進歩系弁護士の組織である「民主社会のための弁護士の集い」の声明文を載せていた。また、「大法院判例を無視した荒唐無稽な論理」と題した社説では「上級審で正すべきである」と主張していた。

 「ハンギョレ新聞」ほどではないが、政府寄りの「ソウル新聞」は「一体、どこの国の裁判所か」と、敗訴した被害者の言葉を見出しに使っていた。

 同紙は「下級審の裁判所が大法院の判決を覆すケースは珍しいことではない。良心的兵役拒否事件が代表的な事例である。それでも、最終審で13年かかった裁判が僅か2年8か月で正反対にひっくり返されたことは論議を呼ぶことになるだろう」と書いていた。

 同じく政府寄りの「京郷新聞」は1面でなく、8面で取り上げていたが、「徴用被害者損害賠償『却下』・・・大法院判決を覆した下級審」との見出しの記事は「大法院の判決に従わないのは違法ではないが、異例の判決である」とした上で「個人の請求権が消滅していないと判断しているならば、被害者らはどこに対して慰謝料を請求すべきかの審理が不十分だ」として、判決で被害者らの権利救済に対する判断が漏れていることを問題にしていた。

 中立系では「韓国日報」(「慰安婦に続き食い違った強制徴用判決・・・大法院と正反対判決」)、「国民日報」(「強制徴用被害者に事実上の敗訴判決した韓国法院」)、「世界日報」(「『徴用損害賠償』敗訴・・・大法院判決がひっくり返った」)が関連記事をそれぞれ1面で取り上げていた。

 その中で「韓国日報」は「法曹界には事実上予告されていた判決との見方がある」とし、その理由について「裁判長である金ヤンホ部長判事が3月21日に日本政府に訴訟費用を取り立てることはできないとの判決を下し、また4月21日にも慰安婦被害2次訴訟を却下していたからである」と書いていた。

 同紙もこの件では社説を載せているが、「混乱を招く遺憾な判決である」として、今回の判決を批判していた。その上で「原告の控訴により2審の判決を待つことになるが、法的な言い争いよりも、外交的解決策を模索すべき」と「中央日報」同様に政府に対して外交による解決を促していた。

(参考資料:日本企業資産「現金化」時の日本の報復措置への韓国の対抗措置「プランB」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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