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北朝鮮の「重大問題」とは何か?核実験と大陸間弾道ミサイル発射中止の撤回か!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
「米国が制裁と圧迫を続けるならば、新しい道を模索する」と予告していた金正恩委員長

 北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」は今朝(4日)、「今月下旬に労働党中央委員会第7期第5次会議が開かれる」との一報を伝えていた。

 招集は党中央委員会政治局常務委員会の決定(3日)によるもので、招集理由は「朝鮮革命発展と変化する対内外的情勢の要求に合わせ重大な問題を討議、決定するため」としている。

 政治局常務委員会は金正恩党委員長と崔龍海党副委員長兼最高人民会議常任委員長、それに朴奉柱党副委員長(前総理)の3人で構成されている。一昨日(2日)行われた「革命の聖地」である白頭山の行政区域にあたる三池淵郡開発地区第2段階工事の完工式に3人揃って出席していた。おそらく、白頭山で党中央委員会会議招集が決定されたのであろう。

 開催時期については「今月下旬」とされ、正確な日時は定められてなかったが、今年4月10日の第4次会議は前日に、また一昨年4月の党中央委員会第7回第3次全員会議も前日の19日に開催が発表され、翌日(20日)には開かれていた。

 今回に限って随分先の「下旬」としたのはトランプ大統領への猶予でもあり、未練でもある。金委員長が今年4月12日に行った最高人民会議での演説で「米国が正しい姿勢で我々と共有できる方法論を求める条件下で第3回朝米首脳会談をやろうと言うならばもう一度やる用意はある。今年末まで忍耐を持って米国の英断を見守りたい」と言った手前、待たざるを得ないのだろう。

(参考資料:北朝鮮が対米交渉で一転、強気な背景)

 トランプ政権の譲歩次第ではすでに何らかの決定を下していたとしても書き換えは可能だ。しかし、中旬までに反応がなければ、早ければ17日の父・金正日総書記の命日に、遅くとも24日の金正恩最高司令官就任日に合わせて会議が開かれ、重大決定が発表される公算が高い。

 

 そのことは、すでに外務省の李泰成米国担当次官が昨日(3日)「我々が米国に示した年末の時効が日々迫っている。後は、米国の選択のみだ。来るべき(トランプ政権への)クリスマスの贈物を何にするかは全的に米国の決断にかかっている」と予告していることからも明らかだ。最悪の場合、クリスマスの日にミサイル発射の可能性もないとは断言できない。北朝鮮が一昨年(2017年)7月4日に準ICBMの「火星14」を発射した際に「傲慢な米国への独立記念日の贈物」とした悪例があるからだ。

 前々回(2018年4月20日)は「革命発展の重大な歴史的時期の要求に合わせ、新たな段階の政策的問題を討議、決定する」との議題の下、核の兵器化の実現を宣言すると共に核実験と大陸間弾道ミサイルの試験発射の中止を発表し、経済建設に総力を挙げる路線を打ち出していた。

(参考資料:「先軍政治」の旗は下ろされるのか―音無しの構えの「朝鮮人民軍」)

 前回(2019年4月10日)は「醸成された革命情勢の要求に沿った新たな闘争方向と方途を協議、決定する」ことが議題で、「米国が一方的要求を取り下げ、双方の利害関係に符号する建設的な解決策を提示する」ことを条件に「今年末まで忍耐を持って米国の英断を待つ」との方針を打ち出していたが、その一方で「米国が今のような政治的計算法に固執するならば問題解決の展望は暗く、非情に危険なものになる」とトランプ政権に警告を発していた。

 今回も議題は「朝鮮革命発展と変化する対内外的情勢の要求に合わせ重大な問題を討議、決定する」こととされているが、過去のケースから考えられるのは、一昨年の戦略的決断である「核実験と大陸間弾道ミサイルの試験発射の中止」撤回表明である。

 金委員長が10月中旬に白馬に跨り、白頭山を登上した際、北朝鮮のメディアは「再び世界が驚く、我が革命を一歩前進させる雄大な作戦が計画されている」と伝えていた。

 北朝鮮はこれまでトランプ政権に対して体制保障を優先させなければ、「新たな道」を選択せざるを得ないと公言してきた。仮に大量破壊兵器の発射、実験に踏み切れば「新たな道」とはまさに「元の道」への回帰となる。即ち、北朝鮮が完全なる非核化を決断するまで「北との交渉は急がない、慌てない」方針のトランプ政権を動かすにはお家芸の瀬戸際外交に回帰するほかないと金正恩委員長が判断していることに他ならない。

 しかし、北朝鮮が「瀬戸際外交」の手段として、巷間言われているように新型潜水艦からSLBM(北極星3)を発射するのか、それとも「火星」と称される長距離弾道ミサイルを持ち出すのか、あるいは核実験を再開するのかは予断を許さないが、どれもこれも米国にとっての「レッドライン」であることには変わりはない。国連安保理の制裁強化に留まらず、米国の軍事行動を誘発することになり、そう簡単に切れるカードではない。

 人工衛星の発射もしかりである。

 北朝鮮は2021年までを第2次国家宇宙開発5か年計画に定めている。国家宇宙開発局の幹部は一昨年11月に訪朝したロシアの軍事専門家との面談で「数メートルの解像度を持つ重さ100kg以上の地球観測衛星と静止軌道に投入する数トン以上の通信衛星をほぼ完成させた」ことを告げていた。

 一時解体を表明していた平安北道・東倉里にある西海衛星発射場の復旧・補修工事は今春には終了している。発射台にロケットを載せれば、いつでも発射可能な状態にあるようだ。

 北朝鮮は第1次国家宇宙開発5か年計画の最終年度の2016年2月に「光明星4号」を発射して以来、人工衛星を発射していない。「光明星」と称するロケットによる人工衛星の発射は2006年7月、2009年4月、2012年12月、2016年2月とほぼ3年スパンで行ってきた。時期的にはそろそろ発射してもおかしくはない。

 しかし、人工衛星の発射も北朝鮮に限っては国連決議違反となる。核を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を大気圏外に運搬する用途として活用できるからだ。従って、北朝鮮がミサイルと人工衛星は別物と開き直っても、米国はレッドラインに設定している。

 但し、北朝鮮は2012年2月29日にオバマ政権と交わした合意で「実りある会談が行われる期間は長距離ミサイルの発射を行わない」ことを約束したにもかかわらず、4月13日に衛星を発射していた前例があるだけにこれまた油断禁物である。

(参考資料:「ハノイ会談」決裂から強気に転じた北朝鮮 北朝鮮要人らの相次ぐ「強硬発言」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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