北朝鮮が対米交渉で一転、強気な背景

「鉄道、道路、海上運送協力に関する議定書」を交わす露朝当局者(出展:露大使館)

 今年上半期まで米朝交渉で受け身の立場にあった北朝鮮が後半は一転、強気に出ている。10月初旬にスウェーデンで開催された実務交渉を一方的に打ち切って、席を立ってしまったことがその証左である。 

 北朝鮮がここまで強気な背景には中露の存在がある。両国からの経済支援やサポートがあるからこそ、態度を豹変させたと言っても過言ではない。

 ストックホルムでの会談以降、北朝鮮の高官が入れ替わり立ち代わり、談話を発表し、「年内まで新たな解決案を提示しなければ、新たな道を歩む」と米国を威嚇したかと思えば、最高政策決定機関である国務委員会までが表に出てきて、「我々が止むを得ず選択するかもしれない『新しい道』が『米国の未来』に今後、どんな影響を及ぼすか深く考えるべきだ」と、警告まで発していた。

 昨日(17日)も外務省が「今後朝米会談が開かれたとしても米国が敵視政策を撤回する問題が対話の議題に上がるのならば話は別だが、その前に核問題が論議されることはない」と「先制裁撤回、後核交渉」と、米国の「先核放棄、後制裁解除」の主張を逆手に取っていた。

 米国務省のビーガン対朝鮮政策特別代表の交渉相手である金明吉巡回大使に至っては「米国が対朝鮮敵視政策を撤回するための根本的な解決策を提示せず、情勢変化によって一瞬で反故になり得る終戦宣言や連絡事務所開設のような副次的な問題を持って我々を協議へ誘導できると打算するなら、問題解決はいつになっても見込みがない」と主張し、北朝鮮が求める平和協定に繋がる朝鮮戦争終結宣言や国交正常化の前段階である連絡事務所の相互設置を米国が提示しても、妥協する気はないと、ハードルを上げる始末だった。

 中国は昨年の3度にわたる中朝首脳会談と今年1月の金正恩委員長の訪中、さらには6月の習近平主席訪朝により関係が修復、強化された北朝鮮への援助に乗り出しており、今年に入ってすでに約3、500万ドル規模の無償援助を行っている。

 先月29日に発表された中国の公式統計によると、2019年の中国の対北無償援助は総額で約3、513万ドルに達していた。これは、8月までの集計で9月以降の援助額は含まれていない。今年は中朝国交樹立70周年(10月6日)に当たることから援助が増額されていても不思議ではない。

 援助額の内訳は、1月の金委員長訪中から3か月後の4月に340万ドル、5月に約2、400万ドル、6月に約744万ドル、7月に約9万ドル、8月に約20万ドルとなっている。このうち肥料支援が約3,457万ドル(約9万8千トン)で、無償援助の大部分は肥料の輸入に使われているが、7月と8月の無償援助については何に使われたのか、明らかにされていない。中国は金委員長が3度訪中した昨年(2018年)には約5、604万ドルの無償援助を行っていたが、この時もほとんど肥料に関する支援だった。

 この肥料支援とは別個に習主席の訪朝の際にコメ80万トンとトウモロコシ20万トン併せて100万トンの食糧支援が行われているが、今年は中朝国交樹立70周年の年に当たることから最終的には援助はさらに増えるものとみられる。

 また、中国人観光客の増加も外貨獲得に大きく寄与している。

 北朝鮮を訪れた昨年の外国人観光客は20万人だが、中国人観光客はそのうち9割(18万人)を占めている。仮に観光客一人の費用を少なく見積もって5万円として年間90億円になる。中断状態にある韓国人観光客による金剛山観光(年間34万人)の収入(2,038万ドル=2007年) の約4倍以上になるので大変な恩恵をもたらしていることになる。

 人道支援も観光も国連安保理の制裁に抵触しないこともあって、米朝核交渉が妥協し、国際社会が制裁を解くまでこの分野で中国は北朝鮮を支えていく方針のようだ。

 ロシアも中国同様に北朝鮮との経済関係を強めようとしている。

 まず、今年4月にウラジオストクで金正恩委員長と首脳会談を行ったプーチン大統領は北朝鮮に対して「露朝間の貿易、経済を一層活性化させ、両国の互恵的な経済貿易関係を一段高いレベルに引き上げるためあらゆる分野で積極的な対策を取る」ことを約束したが、実際に5カ月の間に目に見える協力が行われている。

 具体的には北朝鮮とロシアとの間で鉄道、道路、海上運送協力に関する議定書が今月12日に交わされている。

 トカレフ交通部次官が率いるロシア代表団が北朝鮮との間で通商、経済、科学、技術協力のための露朝政府間会議に出席するため訪朝した際に議定書が締結されたが、議定書そのものは国連制裁決議違反にはならないが、これが実行に移されれば、米国による制裁、圧力が骨抜きにされることになる。

 ロシアは来年5月の戦勝記念式典に金委員長を招請しているが、仮に実現すれば、プーチン大統領の平壌答礼訪問も現実味を帯びる。そうなれば、外交だけでなく、経済分野での協力関係も一層深まることになるだろう。

 中露両国との関係が強化される一方、トランプ大統領が大統領選挙を意識し、外交成果を上げようと前のめりになればなるほどを米朝交渉は今後、北朝鮮のペースで進んでいくような気がしてならない。

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動開始。98年 ラジオ「アジアニュース」パーソナリティー 。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。著書に「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人、残念な日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など25冊

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