日韓は米国の対北先制攻撃を制止?それとも同意?

米国が誇るステルス戦略爆撃機「B-2]

北朝鮮がまた、ミサイルを発射した。トランプ政権が原子力空母「カール・ヴィンソン」を再度、朝鮮半島沖に派遣するなど軍事的圧力を一段と強め、また中国の習近平政権も北朝鮮へのより強い経済制裁に乗り出した矢先の一発だ。

幸い失敗に終わったが、これは米中の圧力には屈しないとする北朝鮮の反抗の意思表示でもあり、来るべきICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射及び6度目の核実験に向けての「烽火」と言えなくもない。

(参考資料:作動する米中合作の「金正恩除去隠密作戦」

トランプ政権は北朝鮮が核とミサイル開発を断念しなければ、阻止手段として軍事攻撃を選択肢の一つとして検討しているが、対北攻撃は先制攻撃が必須であることは言うまでもない。

米国にとって攻撃こそが最大の防御である。同盟国の日韓の被害を最小限に食い止めるには北朝鮮の反撃能力を削ぐことだ。先制攻撃こそが最も効果的手段である。しかし、北朝鮮もまた、「先制攻撃は米国の専売特許ではない」と同じく先制攻撃を口にしている。「米国が少しでも動けば、先に攻撃を仕掛ける」と米国を恫喝している。従って、米国が先制攻撃をする場合、機先を制するため不意を衝く奇襲攻撃でなければならない。

米国は北朝鮮を本気で攻撃しようとしたことが一度あった。北朝鮮の核疑惑で一触即発となった1994年の時で、クリントン政権は北朝鮮への空爆は、全面戦争に発展する恐れがあったにもかかわらず、驚いたことに戦場地となる韓国政府の同意なく、実行に移そうとしていた。そのことは、当時、金泳三政権下で大統領秘書室長の職にあった朴寛用氏が以下のように赤裸々に語っていた。

(全面戦争を覚悟したクリントン政権時代の「北朝鮮攻撃計画」

「米国は自らの戦略に沿って動いていた。私は2000年夏からスタンフォード大学で米国防長官をしていたウィリアム・ペリー教授の講義を受けた。ペリー教授は『1994年夏、米国は北朝鮮と戦争一歩手前までいった』と当時の戦争準備状況を詳細に説明していた。米国が紛争当事国の韓国に最小限度の通告も、説明もなく全面戦争に発展するかもしれない軍事作戦を展開しようとしていたとの話には本当に衝撃を受けた」

「当時、鄭鍾旭青瓦台(大統領府)外交安保首席補佐官がどこからか『駐韓米大使館が数日以内に米軍家族らに退去命令を出す準備をしている』との情報を聞き出してきた。確か1994年6月のことと記憶している。駐韓米大使を呼び、事実関係を確認した後、金泳三大統領はクリントン大統領に電話をして『戦争は絶対にダメだ』と強く抗議した。クリントン大統領が国家安全保障会議を招集し、戦争に備えた兵力増強を論議していることを我々は全く知らされてなかった」

「軍事行動直前にはおそらく米国は通報してくるだろうと思っていた。韓国軍と米軍が一緒に行動しなければならないわけだから。しかし、1998年9月にワシントンに行った時、1994年当時ホワイトハウス国家安全保障会議のメンバーだったダニエル・フォーネマン非核拡散担当特別補佐官からとんでもない話を聞かされた。彼は『当時米国は韓国への通告や武力展開、駐在員の避難などの事前措置は北朝鮮に先制攻撃の口実を与えかねないと判断し、現状のままで直ちに攻撃する考えだった』と言い放った。私はもう驚きを飛び越え、我が国の運命がこのように決定していたのかと、虚脱感みたいなものを感じた」

「戦争はやってはならないと駆けまわる以外に我々に手だてがなかった。実際、金泳三大統領がそうだった。米国はあの時、金日成(主席)が米国の軍事的脅威に屈服してなかったら韓国政府に戦争に同意するよう相当な圧力を加えてきたかもしれない。朝鮮半島の軍事情報は全部米国が握っていた。米軍が我々に言わないのは我々に対する圧迫手段となる。『北朝鮮の核開発状況がここまで来ているのにそれでもお前らはいいのか』と迫られれば、我々に選択の余地はない」

韓国にはこうした苦い過去があるだけに韓国の大統領候補らはいずれも、口を揃えて「韓国の同意が必要である」とトランプ政権に釘を刺している。日本もまた、トランプ政権に事前協議を求めている。北朝鮮が反撃に出れば、その火の粉を浴びるのは間違いなく韓国、日本である。至極当然の要求である。

北朝鮮は昨年、最高司令部の名による重大声明なるものを発表したが、それによると、朝鮮半島有事の際の第一次攻撃対象が韓国大統領府及び政府機関施設、そして第二次攻撃対象が太平洋上の米軍基地及び米本土となっていた。太平洋上の米軍基地の中に在日米軍基地が含まれているのは自明である。そして、この重大声明に沿って北朝鮮は昨年3月から日本をターゲットにした中距離弾道ミサイル「ノドン」や「北極星」と称される潜水艦弾道ミサイル(SLBM)、さらには地上型に改良した新型の中距離弾道ミサイル「北極星2型」、そして「スカッドER」の発射実験を重ねてきた。

新型の中距離弾道ミサイル「スカッドER」は今年3月に4発発射され、そのうち3発が日本の排他的経済水域に落下したが、北朝鮮は初めて在日米軍基地を攻撃するミサイル部隊の存在を明らかにした。また、人民軍総参謀部は太陽節(4月15日)の前日に発表した談話で「日本本土や沖縄の米軍基地も照準内にある」と、攻撃対象が在日米軍基地にとどまらず、日本の本土に及ぶことも初めて公言している。

日韓両国の要請にトランプ政権は承諾したと伝えられているが、トランプ政権が軍事行動を決断し、通告してきた場合、日韓両政府は制止するのだろうか、それともゴーサインを出すのだろうか?止めるべきか、同意すべきかの二者択一を迫られ、「ハムレット」のような立場に立たされるかもしれない。

仮にトランプ政権が攻撃を開始すれば、北朝鮮は日韓両国が事前協議の結果、攻撃を承認したと受け止め確実に報復してくるだろう。どちらにせよ、トランプ政権が「米国第一主義」の旗の下に米国民の安全を守るため自衛権を行使して北朝鮮への空爆を決めたら、日韓は反対できないだろう。

周知のように日韓両政府共に「すべてのオプションはテーブルにある」(ティラーソン国務長官)とのトランプ政権の立場に理解と支持を表明している。「すべてのオプション」の中には軍事攻撃も含まれていることからトランプ政権はすでに日韓の承諾を取り付けたのも同然だ。

米NBCテレビは13日、複数の米情報機関当局者の話として「(トランプ政権は)北朝鮮が核実験を実施するという確証を得た段階で攻撃する」と伝えたが、この報道が事実ならば、事前協議の余裕はない。日米韓3国の間では、北朝鮮がレッドラインを越えた場合の取るべきオプションについてすでに合意しているのかもしれない。仮に北朝鮮が米国の先制攻撃の動きを察知して、先に攻撃を仕掛けてきたらそれこそ「飛んで火にいる夏の虫」である。

落としどころが見えないトランプ大統領と金正恩委員長の「究極のチキンレース」は中国が憂いているようにブレーキが効かないまま衝突に向かっていることだけは確かなようだ。

(参考資料:北朝鮮に対する米軍の先制攻撃はいつでも可能な状態

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊。1986年 テレビ、ラジオで評論活動を開始。1998年 ラジオ短波「アジアニュース」パーソナリティー。1999年 参議院朝鮮問題調査会の参考人。2003年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~2015年3月)を歴任。外国人特派員協会会員、日本ペンクラブ会員。著書に「世界が一目置く日本人、残念な日本人」(三笠書房)「大統領を殺す国 韓国」(角川)「金正恩の北朝鮮と日本」(小学館)「北朝鮮100の新常識」(マサダ)「韓国人と上手につきあう法」(ジャパンミックス)など20数冊

有料ニュースの定期購読

「辺真一のマル秘レポート」サンプル記事
月額540円(初月無料)
月3、4回程度
テレビ、ラジオ、新聞、雑誌ではなかなか語ることのできない日本を取り巻く国際情勢、特に日中、日露、日韓、日朝関係を軸とするアジア情勢、さらには朝鮮半島の動向に関する知られざる情報を提供し、かつ日本の安全、平和の観点から論じます。

Yahoo!ニュース個人編集部ピックアップ