Yahoo!ニュース

春の衆議院補欠選挙3選挙区、中盤戦の情勢と今後の展望

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
国会にたどり着く候補者は誰か、目が離せません(写真:イメージマート)

いよいよ衆議院議員補欠選挙の告示まで約10日となりました。今年春の衆議院議員補欠選挙は、長崎3区、島根1区、東京15区で行われます。それぞれの情勢については、序盤戦の記事(長崎3区島根1区東京15区)でお伝えしましたが、中盤戦の情勢をお伝えします。

長崎3区

長崎3区は、立憲民主党公認で社民推薦の山田勝彦氏(比例現職)と、日本維新の会公認で教育推薦の井上翔一朗氏(新人)との戦いの見込みです。自民党は長崎県連内にさまざまな意見があり、具体的な候補予定者の名前も報道などでは出ましたが、最終的には党本部が候補擁立を見送りました。

弊社の独自調査では、現状、比例現職でもある立憲・山田勝彦氏がリードし、維新・井上氏が追う展開とみられます。山田氏は前回の衆院選で谷川弥一氏(辞職)に惜敗しましたが、このとき旧長崎3区のうち離島(対馬・壱岐・上五島・五島・小値賀)では山田氏を上回り、それ以外の地域はすべて山田氏が谷川氏を上回りました。当時の総選挙では大票田の大村市で、山田氏が大きく上回っており、今回も長崎における野党共闘の枠組みである七者懇の支援を受けて、大村市などではリードしているとみられます。一方、井上氏は県北地域ともいわれる佐世保や東彼に活動をシフトしており、自民党が公認候補を出さないなかで保守層への食い込みと知名度の浸透に躍起です。

しかし、この長崎3区の補欠選挙は、あくまで「3区補欠選挙というリングで山田氏・井上氏が戦っている形だが、実際はそれぞれ別の敵と戦っている」というのが実状です。公選法改正により小選挙区減少が決まっている長崎県において、山田勝彦氏は新2区、井上翔一朗氏は新3区で戦う予定です。旧3区は、大村市や壱岐市、対馬市が新2区に移行し、佐世保市の一部や東彼杵郡3町、五島市が新3区に移行します。山田氏は新2区で自民党の加藤竜祥氏(旧・安倍派)と、井上氏は新3区で自民党の金子容三氏(旧・岸田派)と戦うこととなっており、この補欠選挙はその前哨戦としての意味合いが強く、それぞれの新選挙区を見据えた顔見世の意味合いもあるのが実状です。衆議院議員総選挙が2年以内にはあるなか、補欠選挙で1回多く名前を書いてもらうことの強さは大きく、また自民党候補者が出ていないことにより一定の自民支持層を切り崩して投票してもらうことは、総選挙に向けて山田氏・井上氏ともにメリットが大きいともいえます。従って、この長崎3区の補欠選挙は、それぞれの候補者の思惑がすれ違うなかで、地域でどれだけの票を掘り起こして総選挙に繋げるかが鍵ともいえます。

島根1区

島根1区は、自民党公認の錦織功政氏(新人)と、立憲民主党公認の亀井亜紀子氏(元職)、次世代の為の自由福祉党の佐々木信夫氏(新人)の戦いです。

前回の記事でも触れた通り、細田前議長の逝去に伴う弔い選挙ではあるものの、弔いとしての大義名分がなかなか表立って言われないところにくわえ、自民党を巡る政治資金パーティーなどの問題が引き続きメディアを賑わしているなかで、錦織氏の苦戦が伝えられています。対する亀井氏は元職や元参議院議員の知名度を生かし優位に進めてきました。亀井氏は自民党の逆風は立憲民主党の追い風とばかりに活動を広げていますが、一方で自民党が公認候補を島根1区に絞ったことから、党としてのリソースの大半が島根1区に注がれることを踏まえれば、最終盤に向けて錦織氏の猛追から逃げ切れるかどうかが鍵となります。

ここまでの情勢について、俗に「1区現象」と呼ばれる野党>与党の構図が起きているという見方もある一方、そもそも小選挙区が2つしかない島根県で「1区現象」という型にはめた見方よりも、無党派層の自民忌避が広がっているとの見方もでき、錦織氏からすれば、新人候補でこれまでの政治問題とは無縁である新世代の候補であることをどれだけ終盤にアピールして猛追できるかが勝負のポイントです。ここまでは知名度不足との声も大きかったものの、4月に入り広報戦略も効果が出てきているのにくわえ、メディアによる報道も増えてきたことから、当初の知名度不足は解消されつつあります。一方、自民党の支援という観点からは、派閥が解体されたなかで、党としての支援の枠組みや応援弁士の発言などによっても終盤の情勢は変わる要因になりうるとみられます。また、自民党からすれば唯一の公認候補である錦織氏の当落は、(長崎3区や東京15区を、推薦候補などの勝敗に関わらず、公認候補の擁立見送りをもって「不戦敗」を位置付ければ)党勢に直結するとの見方があり、最終盤にかけての展開に注目です。

東京15区

長崎3区や島根1区と異なり、まさに「混沌」としているのが、東京15区です。立憲民主党公認の酒井菜摘氏(新人)、日本維新の会公認で教育無償化を実現する会推薦の金澤結衣氏(新人)、日本共産党公認の小堤東氏(新人)、参政党公認の吉川里奈氏(新人)、無所属の秋元司氏(元職)、無所属でファーストの会副代表の乙武洋匡氏(新人)、無所属で元参議院議員の須藤元気氏(新人)、日本保守党公認の飯山陽氏(新人)と、現時点では8名の争いです。与野党それぞれが相手の出方を待つ戦いでしたが、先に都民ファーストの会が先の参院選東京選挙区にも出馬した『五体不満足』で著名な乙武洋匡氏の擁立を発表すると、立憲民主党が先の区長選で次点だった酒井菜摘氏の擁立を発表。自民党は乙武氏の推薦を目指す一方、公明党は乙武氏への推薦が難しいのではとの声もあり、また共産党は野党共闘を踏まえ酒井氏への一本化をするかどうかの判断も迫られており、最終的な各政党のスタンスは直前までわからない状況です。

東京15区は、まずは自民党の対応に注目です。このタイミングで自民党東京都連は東京都議会議員補欠選挙(7月7日投開票)の公認候補を発表し、山﨑元区長の子息、山﨑一輝氏の擁立を発表しました。江東区のこれまでの経緯から考えれば、自民党としても早期から乙武氏支援に回るなど、江東区内での対立構図とは無縁の戦いをすることで挙党態勢をつくることが重要とみられていましたが、都連がこのタイミングで山﨑氏の都議補選公認発表をしたことで、15区補選と都議補選の両睨みの戦いになるとみられます。保守票という観点からは、元職の秋元氏や参政党の吉川氏、日本保守党の飯山氏も手を挙げていることから票の分散が危惧されるところです。さらに、貴重な固定票である公明党が乙武氏に推薦を決めるか、それとも自主投票に留まるかで、(選挙戦が続いている江東区の投票率が下がるという見立ての中、)票の上積み計算は大きく変わることから、公明党の乙武氏推薦可否が現時点では、当落結果に影響を及ぼすとみられます。

一方、野党です。与党の出方を伺っていましたが、都ファ乙武氏の擁立が公表された直後に、立憲民主党は酒井氏の擁立を決めました。酒井氏は、先の江東区長選では2着でしたが、当初よりも当選者(大久保新区長)との差が開いたとの見立てもあり、陣営のなかには酒井氏の出馬に後ろ向きの声や不安の声もありましたが、最終的には党幹部が意向をほのめかす形での出馬という流れとなりました。この背景には立憲民主党から無所属になった須藤元気氏の存在があります。須藤氏は全国知名度もあり、野党が一本化できない場合に票を割る影響は「乙武氏による保守票分散」と比較しても大きいとみられます。さらに区長選では成立した共産党との野党共闘一本化の調整が、今回も行われるかどうかもポイントとなるでしょう。

これらの与党野党の「候補者構図づくり」のなかで、独立した動きをしているのが維新金澤氏です。従来から15区で活動をしていることで一定の知名度があり、ここまでの運動量も他の候補者と比較して多く、維新内での期待度も高いとされています。一方、直近の調査では酒井氏・乙武氏が先行しているとされることや、先の江東区長選挙で維新推薦候補が惨敗したことなども影響しており、いわゆる「維新東京組」の支援のみならず「維新大阪組」の全力支援があるかどうかが今後の情勢を握ると考えられます。先の衆院総選挙のような維新フィーバーを起こすことができれば、都心部での維新支持を掘り起こすことにつながり、混沌とする与野党候補の渦中から、さらに伸びる可能性もあるでしょう。

すでに告示まで10日となるなか、候補者の顔は出揃ったものの、構図づくりの調整がぎりぎりまで続くとみられます。乙武陣営は公明党の推薦可否と自民党の挙党体制づくり、酒井陣営は須藤票分散の抑止と、共産党との候補者一本化調整が、それぞれ鍵となります。現時点ではこの両者の戦いに収束する動きを見せていますが、維新の選挙期間中の動きも見逃せません。首都東京の小選挙区ということもあり、様々な応援弁士が入りやすい東京15区ですが、浮動票も多く、また都心部だけあって調査の数字もぶれやすいとされるだけに、最終盤までわからない展開となりそうです。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

大濱崎卓真の最近の記事