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国政3補選、「各選挙区の開票結果からみる分析」と「これからの展望」

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
街頭演説にのぞむ酒井なつみ候補(4月19日、東京都江東区、筆者大濱崎卓真撮影)

国政3補選は、情勢報道の見立て通り、立憲民主党公認候補が3勝する結果となりました。政治とカネの問題で岸田政権への不満が高まっているなか、野党にとっては3候補ゼロ打ちというインパクトのある大きな勝利であり、また与党にとっては厳しい結果になったことは言うまでもありません。この記事では、国政3補選それぞれの選挙区の開票結果から、各候補の勝因や敗因を分析しつつ、これからの展望についてみていきます。

長崎3区

長崎3区では、立憲・山田勝彦氏が維新・井上翔一朗を破りました。以前の記事にも書いたように、旧長崎3区は次の総選挙では無くなる選挙区であり、立憲・山田氏は新長崎2区から、維新・井上氏は新長崎3区から出馬する予定です。

山田氏は、旧長崎3区の大票田である大村市ほかすべての開票区(基礎自治体)で井上氏を上回りましたが、地域差もみられました。

NHK選挙WEB(https://www3.nhk.or.jp/senkyo2/nagasaki/20506/skh54851.html)などをもとに、筆者が図表作成。自治体名の右の◯数字は新選挙区。
NHK選挙WEB(https://www3.nhk.or.jp/senkyo2/nagasaki/20506/skh54851.html)などをもとに、筆者が図表作成。自治体名の右の◯数字は新選挙区。

上記図表にある通り、山田氏は離島での支配率が高く、井上氏は本土での支配率が高い結果となりました。また、井上氏は選挙事務所を置いた佐世保市で山田氏と10pt差程度と健闘したほか、東彼杵郡でも倍差まではつかなかったことから比較的健闘したといえます。新3区を見据えた選挙戦を展開した結果が一定程度あったとみるべきでしょう。

一方、山田氏は離島を抑える戦略をとりました。立憲民主党は、国境離島への移動にかかる航路航空路の割引運賃の対象者の拡大や、国の負担割合の引き上げを含む有人国境離島法の改正案を提出しました。島根1区にも隠岐の島があるなど、選挙を前にした戦略であったことは間違いありませんが、離島振興を中心に行ってきた谷川弥一前衆議院議員の辞職に伴い、離島在住者の生活にかかる政策を打ち出したことが、今回の集票に繋がったとみられます。壱岐や対馬は新2区にあたり、投票率が通常は高い離島で山田氏が支持層を獲得できたのであれば、狙い通りというところでしょう。

新2区では、立憲・山田勝彦氏が自民・加藤竜祥氏(現職)が戦う見込みで、新3区では、維新・井上翔一朗氏が、自民・金子容三氏(現職)、立憲・末次精三氏(元職)と戦う予定で、山田氏と井上氏の戦いは、この補選が最初で最後になる見込みです。今回の補選を山田氏、井上氏は支持固めや知名度向上も含め、総選挙に向けてステップとして使えたかどうかが、次回試されます。

島根1区

島根1区では、立憲・亀井亜紀子氏が、自民・錦織功政氏を破りました。立憲と自民の直接対決でしたが、こちらも知夫村と隠岐の島町をのぞく全ての開票区で亀井氏が錦織氏を上回り、約24,000票差をつけて勝ちました。

錦織氏は、細田前衆議院議長の後継として出馬しました。新人であることから政治とカネの問題についてしっかりと対応することを訴え、党本部の全面的なバックアップのもと、選挙戦前からはSNSなども強化して戦うなど、まさに総力戦でした。候補者の演説も日増しによくなる一方で、NHKの期日前出口調査(日毎)によれば、前半から後半にかけて差はわずかに詰める一方、その差は10pt以上開き続けており、思ったほど活動量が票に出なかったとも言えます。

特に選挙戦の組み立て序盤において、自民公明の枠組みでは負けることはないだろうという先入観が自民党の一部で根強くあったことにくわえ、職域団体などでも「なんだかんだ自民が勝つだろう」「出回っている数字は引き締め」という言葉が飛び交うなどしていました。これまで自民党が小選挙区で負けることがなかった島根だからこそ、「負けるイメージがない」という弱点を突かれた格好で、保守王国・島根の「王国」だったことそのものが裏目に出たともいえます。

亀井氏は、政治とカネの問題について訴え続けたことが、立憲支持層にくわえて保守支持層や無党派層にも大きく響いたとみられます。細田前衆議院議長も政治とカネの問題の追及を受けた一人であり、この問題を終わりにしてはいけないという訴えが響いたともいえ、保守王国島根の終わりを予期させたとも言えるでしょう。

参議院予算委員会での岸田首相
参議院予算委員会での岸田首相写真:つのだよしお/アフロ

島根1区には、岸田首相が2回(21日、27日)と島根入りしましたが、21日の演説会は動員も低調で演説会自体も地元メディアなどで厳しい論調で書かれました。岸田首相自ら地域や職域の関係者に電話をするなどの引き締めも行いましたがそれでも一部の保守層が離反するなどしたことが、錦織氏の票が伸びなかった理由ともいえます。

亀井氏は今回(82,691票)、前回(66,847票、2021年)から投票率が下がったにもかかわらず、票を伸ばす結果となりました。錦織氏は、2年以内には行われる総選挙に島根1区から出馬するのかどうかが問われます。総選挙における島根1区が同じ構図になるとして、今回の票差を錦織氏が「逆転のにしこり」でひっくり返すことができるのか、それとも亀井氏が盤石な体制を敷いて保守王国の終焉を確実なものにするのかにも注目です。

東京15区

街頭演説にのぞむ酒井なつみ候補(4月19日、東京都江東区、筆者大濱崎卓真撮影)
街頭演説にのぞむ酒井なつみ候補(4月19日、東京都江東区、筆者大濱崎卓真撮影)

色んな意味で、今回の衆院3補選の話題の中心は、東京15区でした。自民党候補がいないなかでの9候補による乱戦、選挙妨害と演説日程非公表、有名弁士による連日の応援演説など、異例ずくめのなかで選挙戦は進みました。

結果として酒井氏が他の候補を上回る票を獲得しましたが、この流れは選挙戦の構図の組み立ての時点から変わっておらず、結果としてはこれだけの乱戦にもかかわらず順当な結果だったと言えます。

筆者は選挙プランナーとして、この東京15区の選挙をみるにあたって「選挙に勝つ候補は、『負ける理由が無かった』もしくは『負ける理由が相手より少なかった』」と説いてきました。この観点から、各候補(得票順)について寸評の形でみていきたいとおもいます。

酒井候補は、江東区議選、江東区長選と1年間で3回の選挙を戦ったことになります。知名度はもとより、陣営の組み立ても区長選と同じ枠組みだったことで、これまで積み上げてきた資産(人的リソース、ポスターなどを貼る場所など)があったことが大きいでしょう。岸田政権における補選の位置付けから、早々に共産党が共闘体制を敷いたことも重要で、構図決定の時点で強い候補であったことは間違いありませんでした。

須藤候補は、元参議院議員としての知名度にくわえ、地元江東区生まれ育ちを前面に出す選挙戦を展開しました。いわゆる選挙妨害の影響も少なく、人柄が伝わった選挙を展開できたとみられるほか、無所属だったことも一定の効果があったと思われます。選挙期間中にポスターを変えるなど、試行錯誤の結果が(当初の想定よりも)上振れした要因だったとも言えるでしょう。一方、地元票以外の固定票がない中での選挙は、投票率が上がらない限り、限界があったのも事実です。今後どの選挙に出るのかにも注目ですが、「地元江東区」を前面に出したことなどからこのまま15区を狙うことも、参院選東京選挙区を狙うこともあり得るとみられます。

金澤候補は、これまでの活動量が大きいことなどから注目されていました。東京維新のなかでは活動量の多さに加え、維新支持層が多いとされる所得の高い層が豊洲地域などに多いことなどから、区南部の地域では有利な選挙戦だったとみられます。維新らしい演説が日々行われていましたが、終盤にかけて候補者の訴える内容(政治とカネの問題など)と、応援弁士の訴える内容(立憲を敵視する姿勢など)とに乖離があるなど爆発力に欠いた点が気になったところです。いずれにせよ僅差での3着でしたが、前回総選挙よりは票を減らしており、次期衆院選(東京15区)に向けて無党派層の取り込みを再度戦略を立て直す必要があるとみられます。

飯山候補は、日本保守党の国政初陣でした。初陣ということから得票がどの程度延びるのかダークホース的な位置付けでしたが、結果的には4着という結果でした。しかしながら、補選とはいえ24,264票は初陣としては十分な成果とみられ、多くの(国政政党クラスではない)政治団体が国政選挙への候補擁立ができないなか、最初の関門を突破したともいえます。自民党支持者の囲い込みに今回どの程度成功したのかにくわえ、街頭演説などのロジ周りに課題を残した選挙戦だったこともあり総選挙では候補をある程度絞った選挙戦ではないと難しいのでは、との見立てもあります。

乙武候補は、参院選に引き続き2回目の国政選挙でした。無所属でファーストの会、都民ファーストの会、国民民主党による推薦で、小池都知事や玉木代表が全面的に支援する形となり、情勢調査でも上位に名前が上がることもありましたが、結果的には5着でした。陣営の感触は良かったとのことでしたが、結果的に無党派層の取り込みに苦戦していたことなどから、乙武氏の過去の週刊誌報道が最後まで影響したことは明らかです。衆院補選最中に投開票を迎えた目黒区長選挙でも都民ファーストの会の元都議が落選したことなどをふまえると、小池都知事の神通力も少し陰りがでてきたのかもしれません。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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