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つばさの党の「選挙妨害」、法律違反が問われる可能性を逐条解説で検証する

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
六法全書(写真:アフロ)

衆議院議員補欠選挙のうち、東京15区では、つばさの党・根本りょうすけ陣営による「選挙妨害」が連日行われ、マスメディアでも大きく取り上げられました。

選挙期間中ほぼすべての日程で選挙妨害は行われたため、多くの陣営が街頭演説日程を公表しなかったり、演説会そのものを中止するケースもありました。これらの行為が各陣営にとって迷惑行為であったことは間違いありませんが、少なくともつばさの党・根本りょうすけ陣営の関係者が現行犯で逮捕されることはありませんでした。これらの選挙妨害は違法性がないのか、また今度どのような対応がなされるのか、考えてみます。

筆者も現場で見た「選挙妨害」の実態

筆者自身も、この「選挙妨害」を現場でみることがありました。4月19日金曜日夕刻の日本保守党による豊洲ビバホーム前での街頭演説での出来事です。短時間だがどのような妨害があったかわかる動画を載せておきます。

日本保守党の街頭演説が行われているあいだ、約40分にわたりこの状況が続き、最終的に日本保守党は演説を最後まで終えることができたものの、この演説会の直前も、両者は場所取りなどで揉めて会場を変更するなどの対応に追われていました。つばさの党としては「先に(ららぽーと豊洲前で)演説をやっていたのは根本陣営で、後に飯山陣営が被せてきた」という主張でしたが、もともとららぽーと豊洲での演説会告知を行っていた飯山陣営の日程を確認して根本陣営は来ていたものとみられ、かつ飯山陣営が移動してもなお根本陣営の車両はその後ろをついてきて、上記ビデオの状況になったという経緯があります。

このほかにも、筆者は現場にいませんでしたが、①別の陣営での街頭演説の最中、その場にいた地方議員を転倒させる(根本陣営は「相手の暴行、妨害行為から始まっている」「体重をかけて妨害(された)」などと主張)、②Uターン禁止の表示がある交差点でUターンする(道路交通法)、などの行為が映像で残っており、SNSなどで広がっています。また、③公衆電話ボックスの上にのぼる、④太鼓を鳴らすなどの行為も同様に映像などで確認されており、報道もされています。

適用条文の確認

選挙演説の妨害というと、一義的には公職選挙法225条違反(選挙の自由妨害罪)を問うことになります。

法225条では、選挙に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、四年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。とした上で、第1項に「選挙人、公職の候補者、公職の候補者となろうとする者、選挙運動者又は当選人に対し暴行若しくは威力を加え又はこれをかどわかしたとき。」、第2項に「交通若しくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、又は文書図画を毀棄し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき。」と書かれています。

演説を妨害し、の認定ですが、「故意に演説妨害を企図してなされた以上は、演説者をののしり、約1分間にわたり連続拍手をして演説の続行を困難ならしめた事案であっても、演説妨害罪を構成するものとし(大判昭7.5.1判例集番号620)」「所謂演説の妨害とは必ずしも演説の続行を不能ならしめ又は困難ならしむる状態を惹起せしむることを要せず、単に会場を喧騒に至らしめ一時聴衆をして演説の趣旨を聴取し能わざらしめる状態に陥らしむるを以て足る(大判昭11.7.13判例集番号621)」(警察庁刑事局捜査第二課『公職選挙法解説 選挙運動と選挙罰則 付犯罪事実摘示例十一訂版』p.554-555)との判例があります。

上記動画からはこれらの判例をもとにすれば、故意性はともかく、「演説者をののしり」「単に会場を喧騒に至らしめ」「一時聴衆をして演説の趣旨を聴取し能わざらしめる状態に陥らしむる」あたりの事実認定は可能のようにも思えます。少なくとも現地にいた私は、2回目のビバホーム前での演説の冒頭、長谷川幸洋氏の応援演説の最初の10分ほどは聞き取りにくい状況でありました。一方、少なくともこの日のこの演説は最後まで行われたことから、「演説の続行を困難ならしめた」の認定は難しいかも知れません。(もっとも、この日以外の街頭演説では中止となったケースもあります)

また、一部SNSでは、つばさの党の候補者が別陣営の地方議員を転倒させたようにみえる動画が出回っています。これについては、転倒させられた地方議員が選挙運動員であったのかどうか、転倒させた行為が暴行とみなされるかどうかが225条第1項適用の判断のポイントになるとみられます。さらに、太鼓を鳴らす行為は140条で違反とされている「気勢を張る行為」に該当するとの解釈があります。

候補者であることの特例の有無

さて、前段で「故意性はともかく」と故意性について留保したのは、本件の特徴である、妨害の行為者が同一選挙の立候補者ないしは立候補者の選挙運動員であることです。公職選挙法では、この法225条について、立候補者やその選挙運動員が免責になるとの明文はありませんが、行為者は自らの選挙運動として「車上街宣をしていた」「連呼行為をしていた」との抗弁をすることが容易に想像できます。実際につばさの党の候補者は「先にこの場所にいた」「標旗があれば演説として成立する」などと主張をしています。

しかし、行為者が選挙立候補者や選挙運動者であることについて、同条の明確な免責がない以上、あとは①候補者としての演説としての趣旨があったのか、もしくは妨害の意図があったのかどうか(意図)、②公職選挙法上の趣旨ないしは憲法上の権利との天秤、あたりが焦点になってくると考えられます。

他にも、先ほど紹介した動画については、選挙妨害演説が街頭演説用標旗を掲げてなければ、車上連呼行為になるべきところ、車上連呼の内容を超えているのではないか、などの論点も残りますが、これらは余罪的性質があり、なおかつ走行中の選挙カーでの連呼が事実上連呼になっておらず演説になっている候補者はそれなりにいるとも思えるので、この線は厳しいでしょう。

また、具体的な検挙においても、つばさの党の候補者は同選挙に届出して立候補している候補者ですから、逮捕や拘留には極めて慎重にならなければならないことは明らかです(大きく言えば、三権分立の観点)。現に、別の陣営での街頭演説の最中、その場にいた地方議員を転倒させた事案では、警察官が現認しているようにみえますが、現行犯逮捕は行われませんでした。一方、立候補者であることを以て選挙運動期間中にわたってこれらの選挙妨害を他の候補者や有権者らが受忍しなければならないのか、という命題が出てきます。

公職選挙法以外の適用法令

なお、①選挙妨害における演説中に出てくる演説内容が事実に反していれば、その演説の目的によっては虚偽事実公表罪が、②演説内容が他人の名誉を毀損したり侮辱を含んでいれば刑法上の名誉毀損罪や侮辱罪が問われることも附記しておきます。こちらも、選挙の演説という性質上、主義主張を述べるわけですから、多少なりとも過激な内容になることは致し方ない部分もあり、表現の自由との兼ね合いなどから受忍しなければならない部分も相応にあるとの見方もあります。さらにこれらのトラブルのなかで器物損壊があったとの主張などもあるほか、自由妨害の内容によっては暴行や傷害という刑法犯罪が問われることもありえます。今回の補選では、乙武陣営において、つばさの党とは関係ないところで運動員に対する暴行がありましたが、逮捕時は暴行罪で逮捕されたものの、起訴された際には選挙の自由妨害罪となったケースもありました。選挙の自由妨害罪の適用には、その意図なども十分に調べる理由があることから、当初は暴行などで逮捕したうえで、取り調べによって選挙の自由妨害罪を適用するケースが多くあります。

今後の対応と法改正の可能性について

今回のケースでは、「選挙妨害」にわたったのが候補者ならびに候補者陣営であったことで、現行犯逮捕にはなりませんでした。しかし、多くの警察官が現場を現認していることや、映像等が多く残っていることから、どのような行為が行われたかを立証することは難しくなく、今後捜査は比較的速やかに進むものとみられます。今後、場合によっては選挙カーのドラレコなどを調べるなど捜査を進めた上で、事件化の可否を検討するものとみられますが、つばさの党側の主張(あくまで演説の一環である)を踏まえて公判に耐えられるかどうかも、今後の対応の判断材料となるとみられます。

なお、一部報道では警察がつばさの党の関係者に対して「警告」を出したとされていますが、警察が「警告」を出すのは公職選挙法違反事案ではよくあることで、必ずしも「警告」を出したら「警告止まり」というものではなく、「警告」後も引き続き同様の違反行為を行っていれば、立件されることもあります。「警告」は、難解な公職選挙法において、取締機関である警察が、当該行為は違反行為である虞が高いと警察が認定しているということを明らかにする行為でしかありません。

そして、この問題は法改正などの対応を考える必要があります。すでに複数の陣営がこの問題を取り上げ、国会でも公職選挙法の改正について問題提起がなされました。一方で、候補者同士の衝突となると、あくまで候補者同士は当選しそうとか落選しそうとかは関係なく、平等に取り扱わなければなりませんから、実効性のある法律改正がどこまでできるのかは、かなり疑問なところです。危険な形態の演説が行われたところで、演説中止や候補者(や選挙運動員の)身柄拘束といったことが選挙で常態化すれば、警察権(=行政権)の行使による民主主義への妨害とも捉えかねられません。一般聴衆のヤジや帰れコールなどまで制限がなされるようになれば、それこそ強権的との指摘を受けるでしょう。法律の整備と運用において、難しい判断が必要となるテーマとなりそうです。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。

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