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被災地の皆さんへ 健康を守る秘訣を伝授

奥田和子甲南女子大名誉教授、日本災害救援ボランティアネットワーク理事
水害により家屋が浸水すれば、生活環境は奪われます。

台風第19号の襲来は早くから予告されていた。私たちはできる限りの準備をしたつもりだった。しかし、まさかこんな惨状になるとは、だれが想像しただろうか。とはいえ、2017年7月九州北部豪雨(例えば朝倉市杷木地区、大分県など)2018年7月西日本豪雨災害(例えば倉敷市真備町)で河川が氾濫し泥水が家々を飲み込んだ惨状を目の当たりにしたが、これらの記憶はいまだ生々しい。

昔からいう「衣食住」という語順は間違いで「住食衣」が正解である。住こそが生活安定の基盤である。住まうことがいかに大切かを思い知らされた。住が損なわれた人々の苦悩は計り知れない。心からお見舞いを申し上げたい。

今回、12都県308市区町に災害救助法が適用され、広域におよぶ被災者は住を奪われ懸命に後片付けに精を出しているが、健康を害して二次災害になりはしないかと心配である。

健康を守るには次の言葉を思い出してほしい。「快眠、快食、快便」である。しかし、この3つは遥か遠いところにあり、実現は難しい。快眠:心配事が次々に押し寄せてきて眠れない。快食:食欲ゼロ、食べる気がしない。食べるものさえ見当たらない。快便:出る気配さえない。そもそもトイレが崩れている。断水。泥水に埋もれ汚れていている。さて、どうしますか。ここでは、とくに快食についてお話ししましょう。これは被災者だけでなく、後片付けのお手伝いをするボランティアにも当てはまります。

ヒント1-一生をかけて築いた財産を一気に片づけるのは無理です。休みながら間を取りましょう。ひと休止、また一休み、腰をおろしては汗を拭く。すると、食事をしていないこと、腹がへったこと、なにも飲んでいないことに気づく。自分の好きな食べ物や飲み物を思い起こしましょう。そうだ、これだ。実物がなければ想像します。食べた気になります。これで体がいつの間にか休まり元気が戻ります。なんだかとぼけた話ですが、要するに朝から食べ物がなかった、栄養がとれていないなど悩むと、ストレスがたまり元気の素を失う。ストレス回復には微妙に各種栄養素が必要である。ストレスをためること厳禁。少々食べなくても大丈夫。これは私の阪神・淡路大震災の体験からにじみ出たもの。

ヒント2-隣の人を気遣う。どうですか、大丈夫ですかとご機嫌伺いする。備蓄食品があれば1つ持参する。そして会話をすると心が和む。人を見かけたら声掛けする。するとまさかの時に助け合う心が湧いてきて地域が一つになる。どうだ、一緒に今夜月見でもしましょうと誘われてお団子を食べる。自分一人の孤独な戦いではないことがわかる。人から恵まれた団子は温かく格別の血となり肉となる。

ヒント3-衛生に気を付ける。被災後の浸水、家具に付着した泥水には排水溝などから噴出した汚物が混入し、泥にも細菌やウイルスが混入している。それが乾くと空気が汚染される。マスクをしましょう。断水の場合、十分に洗い去ることができないので、皿などの食器は熱湯消毒して用いるのが好ましい。手は洗剤で洗い、その後手指消毒用アルコールで消毒する(救援物資にこうしたものがあるとよい)。ガス、電気が停止している場合、カセットコンロで料理するのは、要注意である。屋外で風よけをしないで使用するときは特に要注意である、炎が鍋底に届かず湯を煮立てたつもりが湯の温度は50度にも達していない。食中毒菌が死滅するには75℃以上(例外を除く)に達する必要がある。被災時は疲れがでて免疫力が弱っているので炊き出しなど大勢が食べる場合は要注意である。温暖化で外気温が30℃を超える日々が続くときは手作りの炊き出しは控え既製品を提供する。現に保健所が手作りを許可しない場合があったので要注意である。せっかくの食べ物が毒物にならないよう細心の配慮が求められる。ボランティアは心得てほしい。

ヒント4-備蓄食品の置き方・場所を考えよう。浸水は玄関からという家が多い。また1階の台所は真っ先にやられ、食品類はすべて浸水したという。冷蔵庫は裏返り、水に浮かぶ。コメも調味料もすべて使えない。できれば備蓄食品を2階に分散しておきたい。食器も箸も身近に小分けしておきたい。

ヒント5-ここからは電気、水道、熱源が復活した時の話に移る。さあ、やっと料理ができる。寒い時期は汁もの、鍋物が健康によい。キャベツ、大根、にんじん、じゃがいも、たまねぎなど野菜をうんと入れて作る。こうした身近な野菜にはビタミン、ミネラル、食物繊維が多い。クタクタに煮るのでなく、しんなりする直前に食べる。味が単調にならないように「みそ味」「カレー味」「豆乳味」などいろいろ工夫するとよい。体を温めることで快食、快便に通じる。体が疲れていれば自然に快眠へと向かう。自分の手で野菜を切り、鍋を見守り、自分好みの味をつける。これが最上の健康の秘訣となる。

ヒント6-被災後の片づけは、台所→トイレ→寝るところの順番にしてはどうか。台所には最低、鍋1つ、水、調味料、包丁、まな板、玉杓子それだけあれば、十分おいしい汁ができる。電気釜は当分なしでもやっていける。残り汁にうどん、そうめんを入れるとよい。

台所から香りがする、寝床からいびきが聞こえる、トイレからあの匂いがする、この3つが揃う日が早く来ることを祈る日々である。

「元気をだしてください」被災地のみなさん!!

(写真提供:日本災害救援ボランティアネットワーク)

甲南女子大名誉教授、日本災害救援ボランティアネットワーク理事

専門は食生活デザイン、食文化、災害・危機管理と食、宗教と食。広島大学教育学部卒業。大阪市立大学学術博士取得。米国カリフォルニア大学バークレー校栄養学科客員研究員、英国ジョーンモアーズ大学食物栄養学科客員研究員、甲南女子大学人間科学部人間環境学科教授を経て、現職に至る。「震災下の食―神戸からの提言」(NHK出版)、「働く人たちの災害食―神戸からの伝言」(編集工房ノア)、「和食ルネッサンス『ご飯』で健康になろう」(同時代社)、「箸の作法」(同時代社)、詩集など著書多数。

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