Yahoo!ニュース

無人空中兵站システムULS-A、アメリカ海兵隊の新装備

JSF軍事/生き物ライター
アメリカ海兵隊よりULS-A小型「TRUAS」、戦術補給無人航空機システム

 2023年3月28日にアメリカ海兵隊の総司令官デビッド・バーガー大将が議会の上院歳出委員会で「海兵隊の態勢について」の説明を行いました。

上院歳出委員会でのアメリカ海兵隊の態勢について海兵隊司令官デビッド・H・バーガー大将の発言(2023年3月28日) ※リンク先は英語

 この中でバーガー大将は海兵隊の革新的な新兵器「戦力デザインの新たな機能」について説明を行いました。それは以下の通りです。

  • ULS-A(無人空中兵站システム) ※ドローン空中物資輸送
  • MADIS(海兵隊防空統合システム) ※対ドローン迎撃装備
  • MRIC(中距離防空能力) ※アイアンドーム防空システム海兵隊版
  • NMESIS(海軍海兵隊遠征船舶阻止システム) ※NSM対艦ミサイル
  • LRF(長距離火力) ※トマホーク巡航ミサイル

 真っ先に説明されているのがドローンによる兵站補給システムであることが注目に値します。その次に防空システムのMADISとMRIC、最後に対艦ミサイルによる打撃能力のNMESISとLRFが紹介されています。

ULS-A : Unmanned Logistics System-Aerial

※和訳
無人空中兵站システム(ULS-A):ウクライナで進行中の紛争が示しているように、内線や比較的短い距離で実行される従来の地上補給でさえ、作戦レベルの影響を受けて混乱する可能性がある。これらの教訓を踏まえ、海兵隊はULS-A小型すなわち戦術補給無人航空機システム (TRUAS) を開発しています。

TRUASの航続距離は9マイル(14.5km)、最大積載量は150ポンド(68kg)で、弾薬、食料、医療品、電池などを輸送するのに十分な量です。この小型システムは運用に海兵隊員2名のみを必要とし、分散した部隊にとって画期的な能力となるでしょう。TRUASは2023年にIOC(初期作戦能力)を獲得し、2027年に配備が完了する予定です。

この能力の配備はULS-A中型システムの開発条件を設定する上で重要です。これは紛争領域における大規模な戦術分配に必要な能力です。新しいULS-A中型は2025年に実戦配備され、300~600ポンド(136~272kg)の貨物を最大100マイル(160km)の航続距離で提供します。

出典:上院歳出委員会でのアメリカ海兵隊の態勢について海兵隊司令官デビッド・H・バーガー大将の発言(2023年3月28日) ※リンク先は英語

 海兵隊が無人機(ドローン)を利用するにあたって、偵察や観測といった用途よりも補給に用いることを重視して考えているのが驚きです。なにしろ新たに対艦ミサイルを配備するにも拘らず対艦索敵用の新しい偵察装備を用意する気が無いのか、現在までの「戦力デザインの新たな機能」には偵察用無人機などの記載はありません。

 おそらく海兵隊は長距離対艦索敵について、海軍や空軍および宇宙配備アセットに頼る積りなのでしょう。海兵隊自身は既にMQ-9リーパー無人機を装備していますが中高度滞空型の鈍足な機材で、とても有力な艦隊を相手にした強行偵察には使えません。

 日本自衛隊が新たに長距離対艦索敵として「目標観測弾」という高速発揮できる強行偵察用の無人機(というよりは巡航ミサイルに偵察索敵装備を搭載した使い捨て機材)を新たに用意するのと比べると、考え方が異なっています。

TRUAS : Tactical Resupply Unmanned Aircraft System

アメリカ海兵隊よりULS-A小型「TRUAS」、戦術補給無人航空機システム
アメリカ海兵隊よりULS-A小型「TRUAS」、戦術補給無人航空機システム

 TRUAS(戦術補給無人航空機システム)はULS-A小型(ULS-A Small)に該当する計画です。マルチコプター型の短距離仕様のもので、最前線の海兵隊に弾薬、食料、医療品、電池などの物資を送り届けるシステムです。

戦術補給無人航空機システムのデモンストレーション:米海兵隊(2023年4月11日) ※リンク先は英語

 TRUASの航続距離は9マイル(14.5km)で最大積載量は150ポンド(68kg)という能力で、機体サイズは一般に市販されている業務用ドローンよりもかなり大きなマルチコプター型ドローンです。2023年中にIOC(初期作戦能力)を獲得して配備開始され2027年までに配備完了される予定です。

 TRUAS計画に採用されたドローンは「TRV-150」です。マロイ・エアロノーティクス(Malloy Aeronautics)社が製造、サービス・エンジニアリング(Survice Engineering)社が販売しています。

SURVICE's Unmanned Aircraft System - TRV-150 Drone

 海兵隊のこの次の計画であるULS-A中型(ULS-A Medium)の予定されている能力は航続距離100マイル(160km)で最大積載量300~600ポンド(136~272kg)となっています。また更に大きなULS-A大型(ULS-A Large)も計画されています。

アメリカ海兵隊戦闘研究所より兵站システムの概念図
アメリカ海兵隊戦闘研究所より兵站システムの概念図

 上図は海兵隊の以前の計画図で数値がやや異なっています。 海兵隊はEAB(遠征前進基地)への補給にドローンを活用する予定です。(※この場合の基地とは恒久的なものではなく、前線に構築した一時的な仮の拠点の意味。直ぐに撤収と移動と展開を繰り返して居場所を掴ませない構想。)

【関連記事】

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人戦闘兵器、オスプレイなど、ニュースに良く出る最新の軍事的なテーマに付いて解説を行っています。

JSFの最近の記事