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満開がすぎたさくらに降る雨 115年前の東京では雪月花の眺め

饒村曜気象予報士
日本列島を通過している寒冷前線の予想天気図(4月7日9時の予想)

記録的に早いさくらの開花と満開

 令和5年(2023年)は、3月に入ると、最高気温が氷点下という真冬日を観測する地点はほとんどなくなり、最低気温が氷点下となる冬日を観測する地点も減り、逆に最高気温が25度以上の夏日が出始めました。

 これは、大陸からの寒気の影響を受けにくく、南から暖かい空気が流れ込みやすかったためです。

 3月の平均気温は北日本、東日本、西日本ともにかなり高く、昭和21年(1946年)の統計開始以降で北日本と東日本で1位、西日本で1位タイとなっています。

 また、東京など全国105地点で、月平均気温の高い方からの1位を更新しました。

 このため、さくらの開花や満開が記録的に早くなりました。

 東京では、3月14日に統計のある昭和28年(1953年)以降で、令和2年(2020年)、令和3年(2021年)と並んで、最早タイ記録でさくらが開花しました。沖縄・奄美のヒカンザクラの開花を除くと開花の一番乗りです。

 その後も、各地で記録的な早さでさくらが開花しています。

 4月に入っても気温が高い日が多く、4月4日には秋田で開花し、これが全国8地点目の最早記録です。東京・横浜など12地点で最早タイ記録ですので、20地点が記録更新ということになります。

 北海道や東北北部も、暖かい日が続いていますので、記録的に早い開花となりそうです(図1)。

図1 さくら開花前線(ウェザーマップによる)
図1 さくら開花前線(ウェザーマップによる)

 北海道のさくらは、ゴールデンウィークの頃に見頃となることが多いのですが、今年は、ゴールデンウィークは見頃が終わっている可能性が高くなっています。

 さくらの満開も平年よりかなり早く、東京で3月22日に満開になったのを皮切りに、4月5日には、山形まで満開になっています。

 そして、多くの地方では、早くもさくらの満開をすぎ、そこに植物を生育させる温かい雨が降っています。

低気圧の接近と温かい雨

 4月7日は、晴天をもたらした高気圧が日本の東海上に移動し、宗谷海峡付近の低気圧からのびる寒冷前線が日本列島を通過中です(タイトル画像参照)。

 ただ、日本のはるか東にある高気圧の勢力が強く、その動きはゆっくりです。

 このため、西日本の雨は7日午前まで続く見込みで、九州や中国、四国で晴れる所が多くなるのは午後になってからの見込みです。

 また、東~北日本では、7日いっぱいくもりや雨となるでしょう。東~西日本の太平洋側では雷を伴った非常に激しい雨の降る所もありそうです。

 気温は寒冷前線が通過するまでは平年より高く、通過後は気温が下がるといっても平年並みの予報ですので、この雨は植物を生育させる温かい雨です。

 過去には、さくらが咲いた後に強い寒気が南下して寒くなり、大雪が降ることがあります。

 今から115年前の、明治41年(1908年)4月8日には、満開のさくらの上に大雪が積もり、そこに上限の月がかかって雪月花の眺めとなっています。

雪月花

 日本では、自然の美しさの形容として「月雪花」という言葉があります。

 「清く正しく美しく」で知られている宝塚歌劇団も、大正10年(1921年)に花組と月組が誕生し、大正13年(1924年)に雪組ができています(現在は星組と宙組が加わって5組)。

 また、月は秋、雪は冬、花は春の象徴であり、季節が異なることから「月雪花は一度に眺められない」という諺もあります。

 しかし、明治41年(1908年)4月8日は月雪花を眺めることができました。

 なお、このときは、月といっても満月ではなく上限の月(半月)です。

 満月は夕方に上り始めるので、満月がきれいな時刻は深夜で、月明かりだけでは花と雪を眺めるには暗すぎます。

 上弦の月なら、昼頃に上り始めますので、夕方には、さくらと雪と月が同時に眺められたのです(図2)。

図2 雪月花の眺めを報じている明治41年(1908年)4月9日の朝日新聞朝刊
図2 雪月花の眺めを報じている明治41年(1908年)4月9日の朝日新聞朝刊

雪月花(つきゆきはな)の眺(ながめ)

一昨来時ならぬ寒気を覚え深更より北の風雨となり昨日は傘持つ手に手袋ほしかりしが午後六時半頃より霙となり九時頃には雪と変じ遂に屋上に積むに至り折柄八日の月と咲き誇りたる桜とを一時に見るの奇観を呈したり。

花時の大雪

東京市街の光景

前日来の暖気に引替へ余寒冴え返りて手足も冷え凍へ朝より降りだしたる一昨日の雨は夜に入り八時半頃から雪と変りて一層寒さを増したるが、昨日起き出れば市中は白雪皚々(がいがい)として一面の銀世界となり

所に依りては尺余の積雪を見るに至り電線は切れ電柱は倒れ雑木は折れ垣は壊れ悲惨の状況を呈し居たりき

雪の稀れなる東京として斯くの如き大雪は稀に見ることあれども陰暦三月九日とも云う季節外れ

桜花の爛漫と咲き出づる頃に斯かる大雪を見るは蓋(けだ)し未曾有の椿事なるべし

引用:明治41年(1908年)4月10日 読売新聞朝刊

雪月花の時の気象

 明治41年(1908年)4月上旬は、2日の最高気温が22.1度など、気温が高い日が多く、さくらが満開になったのですが、9日の最高気温は4.4度しかなく、急激に寒くなっています(表)。

表 明治41年(1908年)4月上旬の東京の気象
表 明治41年(1908年)4月上旬の東京の気象

 南岸低気圧の通過によって8日から降り始めた雪は、9日には積雪が20センチとなっており、これは、4月として1位の記録です(図3)。

図3 明治41年(1908年)4月9日6時の地上天気図
図3 明治41年(1908年)4月9日6時の地上天気図

 4月の2位が9センチ(1988年)、3位が4センチ(1939年)ですので、4月としては珍しい大雪でした。

 そして、なかなか見ることができない風景が見られたのですが、大変な騒ぎとなったのです。

タイトル画像、図1の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:朝日新聞、明治41年(1908年)4月9日朝刊。

図3の出典:気象庁資料をもとにした国立情報学研究所のデジタル台風。

表の出典:気象庁資料。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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