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日本の雨は夏でも落下中の雪が融けたもの 下層の気温と湿度で決まる金曜の雪と雨

饒村曜気象予報士
東京都心で積雪(写真:Michael Steinebach/アフロ)

雨や雪の降る仕組み

 上昇した空気が冷やされて、目に見えない水蒸気が白く見える水や氷の粒になったものが雲です。

 夏に雹(ひょう)が降ることからもわかるように、日本などの中緯度から高緯度地方の場合は、多くの場合、雲の上部の気温は氷点下です。

 そこでの雲粒は、微小な過冷した水滴および微小な氷の粒です。微小な水滴は表面張力のため氷点下になってもなかなか凍らず、氷点下20度位までは過冷却の水として存在します。

 雲粒が地面になかなか落ちてこないのは、雲粒の大きさが非常に小さいからです。

 雲粒が800万個集まって、1つの雨粒になれば落下速度が増して落下してくるという感じです。

 すべての雲から雨が降るのではなく、雲粒が短時間に多量に集まる仕組みを持った雲から雨が降るのです。

 その仕組みの元となっているのは、過冷却した水滴の集まりの中に氷の粒が混じってくると、過冷却した水滴が急速に蒸発し、氷の粒では昇華により急速に氷の結晶が大きくなる性質があるというものです。

 大きな氷の粒(雪の結晶)は落下し、下層の温度が高いと途中で融けて水滴となります(図1)。

図1 雨が降る仕組み
図1 雨が降る仕組み

 つまり、日本の降水現象は、すべて雪から始まり、下層まで温度が低く、地表まで解けずに落下した場合が雪となります。

 なお、熱帯地方の雨は、雲の上部に氷の粒をもっていませんが、豊富な水蒸気と強い上昇流があるため、別の仕組みで雨が降ります。

雨雪判別

 地上気温が高いと雨になりますが、地上気温が5度くらいの場合でも融けきれずに雪として降ることがあります。

 地上気温が同じでも、空気が乾燥している場合には、降っている最中の雪が蒸発(昇華)して周囲の気温を下げますので、なかなか雨に変わりません(図2)。

図2 地上気温と相対湿度による降水の判別図
図2 地上気温と相対湿度による降水の判別図

 例えば、図2で地上気温が3度の場合、相対湿度が90パーセントであれば雨として降りますが、相対湿度が75パーセントの場合はみぞれ、60パーセントの場合は雪として降ります。

 低気圧が南岸を通過する時は、普段は雪の少ない太平洋側の地方でも大雪になることがあります。雪の対策が十分とはいえない太平洋側の地方で大雪が降れば、交通機関は大混乱に陥ることもしばしばです。また、雪道での転倒事故も増加します。

 同じ量の降水であっても、雨は雪のときに比べて、大きな被害が発生しません。雨と雪では大違いなのです。

 このため、冬の終わりから春の初めにかけては、雨雪判別が気象予報士の大きな課題となります。

冬型の気圧配置から南岸低気圧

 今冬一番の強い寒気が南下したのは1月25日です。

 西高東低の冬型の気圧配置が強まり、真冬日を観測したのが502地点(55パーセント)と、全国の半数以上の地点で、気温が一日中氷点下という、冷凍庫の中の状態でした。

 また、冬日を観測したのが869地点(95パーセント)と、南西諸島以外は全ての観測地点で冬日でした。

 2月に入ると、強い寒気の南下は北日本どまりで、真冬日や冬日を観測した地点数が減少しています(図3)。

図3 夏日と冬日、真冬日の観測地点数の推移(令和4年11月1日~令和5年2月8日)
図3 夏日と冬日、真冬日の観測地点数の推移(令和4年11月1日~令和5年2月8日)

 そして、南岸低気圧が周期的に通過するようになってきました。

 今年の南岸低気圧は、短い周期で通過することと、南岸低気圧の北側に小さな低気圧が発生して関東地方の天気予報を難しくしているという特徴があります。

 今週初めに通過した南岸低気圧によって西日本ではまとまった雨が降りましたが、東日本では低気圧が離れて通過したため、雨量は少なめでした。

 現在、北日本を中心に西高東低の冬型の気圧配置となって寒気が南下中ですが、この冬型の気圧配置は弱く、等圧線の間隔も開いています(図4)。

図4 地上天気図(2月8日21時)
図4 地上天気図(2月8日21時)

 このため、2月9日は、北~東日本の日本海側はくもりや雪となり、北~東日本の太平洋側は晴れる見込みです。

 山陰は雲の多い天気となり、西日本のその他の地域は概ね晴れますが、東シナ海で低気圧が発生しますので、九州では夜頃から雨となる所がある見込みです。

南岸低気圧による雪

 上空約1500メートルで氷点下6度の気温は、平地で雪が降る目安となっていますが、2月9日朝の段階で房総半島まで南下しています(図5)。

図5 上空約1500メートルの気温分布(2月9日朝の予報)
図5 上空約1500メートルの気温分布(2月9日朝の予報)

 2月10日は、東シナ海で発生した低気圧が南岸低気圧として、この南下している寒気に向かって東進する見込みです(図6)。

図6 予想天気図(2月10日9時の予想)
図6 予想天気図(2月10日9時の予想)

 低気圧の東進に伴って西日本では中国山地を除いて雨が降る見込みです。

 その後、雨や雪の範囲は西日本から東日本の太平洋側にも広がり、気温が低い内陸を中心に雪が降る見込みです。

 2月10日の降雪量は、関東北部の山沿いから東北地方南部で20センチを超える見込みです(図7)。

図7 24時間予想降雪量(2月10日0時~24時)
図7 24時間予想降雪量(2月10日0時~24時)

 東京都心でも朝から昼前の降り始めは湿度70パーセント程度と比較的低く、雪の可能性があります。

 東京都心の積雪は3~5センチの見込みですが、午後は雨に変わると考えられます(図8)。

図8 関東の24時間予想降雪量(上)と24時間予想降水量(下)(いずれも2月10日0時~24時)
図8 関東の24時間予想降雪量(上)と24時間予想降水量(下)(いずれも2月10日0時~24時)

 ただ、降水量の予想は、伊豆大島で80ミリ前後、房総半島で40ミリ前後、東京都心でも15ミリ程度とかなりまとまった量です。

 気温が予想より少し低くなったり、降雪が強まるなどの条件がそろうと、雪の降る時間が長くなり積雪が増える可能性があります。

 山地や山沿いを中心に大雪のおそれもあるため、最新の気象情報の入手に努め、注意・警戒してください。

図1の出典:饒村曜(平成27年(2015年))、気象予報士完全合格教本、新星出版社。

図2の出典:饒村曜(平成26年(2014年))、天気と気象100、オーム社。

図3の出典:ウェザーマップ提供資料をもとに筆者作成。

図4、図6の出典:気象庁ホームページ。

図5、図7、図8の出典:ウェザーマップ提供。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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