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「すばる」が空から消えたのに梅雨に入っていない沖縄 来週は奄美の方が先に梅雨入りか

饒村曜気象予報士
すばる(写真:イメージマート)

枕草子での一番の星と「ユドウン」

 平安時代、清少納言が著した「枕草子」に、次の一節があります。

 「星はすばる。ひこぼし。ふゆづつ。よばひ星、すこしをかし。」

 清少納言が、星で一番といっている「すばる」は、おうし座にある青白い(高温の)星の集団です(タイトル写真)。

 そして、「ひこぼし」は「七夕で有名なわし座のアルタイル」、「ふゆづつ」は宵の明星(金星)、「よばひ星」は流れ星で、少し趣があると書いています。

 中国や日本で古くから親しまれて、清少納言が一番の星としている「すばる」は、ほぼ一年中で見えている星です。冬は太陽が沈んだ後の夜空に見えているので、すばるの見頃は冬ですが、夏は明け方、明るくなる前に東の空に見ることができます。

 地図上の位置が緯度・経度で表示されるように、星の場所も赤緯・赤経で表示されています。地球の赤道・北極・南極を延長した方向を赤緯で表し、天の赤道方向を赤緯0度、天の北極方向を赤緯プラス90度、天の南極方向を赤緯マイナス90度としています。

 また、春分点から天の赤道に沿って、東回りに天体の角度を示したものが赤経で、昔から度数ではなく、時・分・秒で表しています。

 「すばる」は、赤緯24度、赤経3時47分(春分点から東へ約57度)の星です。

 このため、地球上で緯度24度の場所、日本では石垣島の真上を「すばる」が通ります。そして、5月10日頃の宵の口に西の地平線に沈んだ「すばる」は、翌日からは空から消えます。

 太陽に接近するため見えなくなるからですが、「すばる」が次に夜空に現れるのは、6月20日頃の暁の東の空です。

 つまり、「すばる」は、5月10日から6月20日まで休暇中ということになります。

 一方、石垣島を含む沖縄地方の梅雨入りの平年は5月10日、梅雨明けの平年は6月21日です。

 つまり、石垣島では、「すばる」が見えなくなる時期と、梅雨期間がほぼ重なっていることから、梅雨期のことを、よどむ、休むの意味を持つ「ユドウン」という言葉で呼んでいました。

 昔の人々は、ほとんど全てが日の出とともに仕事をし、日の入りとともに仕事をやめていましたので、現在の人々とは比べられないほど宵の口と暁に見ることができる星に関心をもっていました。

 令和6年(2024年)の石垣島では、「すばる」が見えない期間に入っていますが、まだ梅雨入りをしていません。

令和6年(2024年)の梅雨入り

 令和6年(2024年)5月17日は、南西諸島から西日本と東日本太平洋側は晴れますが、大気が不安定となる東日本の日本海側と北日本では雲が多く、雨や雷雨となる見込みです。

 そして、今週末にかけては、西日本から北日本の広い範囲で晴れて気温が高くなりますが、沖縄・奄美地方は前線が停滞し、曇りや雨の見込みです(図1)。

図1 ウェザーマップ発表の各地の10日間予報(数字は最高気温)
図1 ウェザーマップ発表の各地の10日間予報(数字は最高気温)

 ウェザーマップが発表した10日間予報をみると、鹿児島県奄美大島・名瀬では、5月19日から傘マーク(雨)や黒曇マーク(雨の可能性がある曇り)が続く予報となっています。

 奄美地方の梅雨入りの平年は5月12日ですので、この雨で梅雨入りしたとしても、平年より遅い梅雨入りになります。

 21世紀になってからの23年間の奄美地方の梅雨入りは、昭和26年(1951年)からの73年間の梅雨入りに比べ、遅くなる傾向があります(図2)。

図2 鹿児島県奄美地方の昭和26年(1951年)以降の梅雨入り
図2 鹿児島県奄美地方の昭和26年(1951年)以降の梅雨入り

 平年より少し遅れるということは、近年の傾向に沿っているのかもしれません。

 一方、沖縄県・那覇も5月18日以降、曇りの日が続く予報ですが、名瀬のように傘マークが続いていません。また、白雲マーク(雨の可能性が少ない曇り)の日も多く、名瀬ほど梅雨傾向がはっきりしていません。

 これは、太平洋高気圧が少し強まっているため、日本付近に停滞する前線が少し押し上げられ、沖縄付近ではなく奄美大島付近に位置すると考えられるからです。

 沖縄地方の梅雨入りの平年は5月10日ですので、すでに、平年より遅い梅雨入りになっていますが、奄美地方と同様に、21世紀になってからの23年間の沖縄地方の梅雨入りは遅くなる傾向があります(図3)。

図3 沖縄地方の昭和26年(1951年)以降の梅雨入り
図3 沖縄地方の昭和26年(1951年)以降の梅雨入り

 そして、今年の沖縄地方は、奄美地方よりもさらに遅い梅雨入りになるかもしれません。

 また、九州南部の鹿児島や、九州北部の福岡では、5月21日以降、傘マーク(雨)の日が続く予報となっています。

 梅雨入りの平年は、九州南部で5月30日、九州北部で6月4日ですので、来週中頃の雨で梅雨入りとなった場合、平年より早い梅雨入りとなります。

 しかし、九州南部で昭和26年(1951年)以降で最も早い梅雨入りは、昭和31年(1956年)の5月1日、次いで、令和3年(2021年)の5月11日ですので、もっとも早い梅雨入りにはなりません。

 また、九州北部で最も早い梅雨入りは、令和3年(2021年)の5月11日、次いで、昭和29年(1954年)の5月13日ですので、こちらも、もっとも早い梅雨入りにはなりません。

 とはいえ、来週は各地で蒸し暑くなりますので、梅雨入り間近ということにはかわりがありません。

図1の出典:ウェザーマップ提供。

図2、図3の出典:気象庁ホームページをもとに筆者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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