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アルファベット順の名前が足りない今年の北大西洋で発達した熱帯低気圧

饒村曜気象予報士
Hurricane on planet earth(提供:アフロ)

北西太平洋の台風と大西洋のハリケーン

 発達した熱帯低気圧によって著しい被害を受けている地方(国)では、従来この発達した熱帯低気圧にいろいろな呼び名をつけています。

 日本の台風、北太平洋西部のタイフーン(Typhoon)、北大西洋のハリケーン(Hurricane)、インド洋のサイクロン(Cyclone)などです。

 ただ、定義は違っています。

 日本の台風の定義は、北太平洋西部で、最大風速が毎秒17.2メートル以上の強い風が吹いている熱帯で発生した低気圧です。

 北太平洋西部のタイフーン(Typhoon)、北大西洋のハリケーン(Hurricane)、および、インド洋のサイクロン(Cyclone)の定義は、毎秒32.9メートル以上の強い風が吹いている熱帯で発生した低気圧です。

 つまり、同じ北太平洋西部の熱帯で発生した低気圧でも、台風とタイフーンでは定義が違います。

 トロピカルストーム(Tropical Storm)の定義が、毎秒17.2メートル以上、毎秒32.9メートル未満の強い風が吹いている熱帯で発生した低気圧ですので、北太平洋西部においては、台風は、タイフーンとトロピカルストームの和にほぼ対応しています。

 ここで、ほぼとしたのは風速の測り方が違っているからです。

 例えば、日本でいう風速は10分間の平均風速ですが、アメリカでいう風速は1分間の平均風速です。

 平均をとる時間間隔が短くなればなるほど、より強い風を観測しますので、同じ熱帯で発生した低気圧でも、日本では10分間の平均風速が毎秒17.2メートルに満たないので台風ではないとしても、アメリカでは1分間の平均風速が毎秒17.2メートル以上であり、トロピカルストームであるとすることがあります。

 また、ごく少数ですが、熱帯低気圧と温帯低気圧の中間の性質を持つ「亜熱帯低気圧」も存在しますが、これを含めて考える国と含めて考えない国があります。

 日本は含めていませんが、アメリカは含めています。

 このように、厳密に言ったら差があるのですが、ここでは、北大西洋で台風並みに発達した熱帯低気圧を、ハリケーンとトロピカルストームの和として話を進めます。

北大西洋の台風並みに発達した熱帯低気圧

 北大西洋で、台風並みに発達した熱帯低気圧は、毎年10個くらいですので、頭文字がアルファベット順の名前がつけられています。

 アルファベット26文字のうち、Q、U、X、Y、Zの5文字を除いた21文字のリストが6列ずつあり、毎年次のリストのAから始め、6年ごとに同じ名前のリストが使われています。

 従って、名前を見ると、何番目の発生かがほぼわかります。

 頭文字がAなら、その年の最初の発生、頭文字がDならその年の4番目の発生と推定できます。

 ただ、このような名前の付け方になった昭和28年(1953年)当時は、北大西洋で発生する台風並みに発達した熱帯低気圧は、年間で21個は超えないと考えられていました。

 北大西洋は往来する船が多く、嘉永4年(1851年)からの熱帯低気圧の資料が集められていましたが、これまでの最多が、昭和8年(1933年)の21個であったからです。

 ほとんどの年は15個を超えていませんでした(図)。

図 北大西洋で台風並みに発達した熱帯低気圧の数と、北太平洋西部で発生した台風の数
図 北大西洋で台風並みに発達した熱帯低気圧の数と、北太平洋西部で発生した台風の数

 しかし、北大西洋で台風並みに発達した熱帯低気圧の数は増加傾向にあり、平成17年(2005年)は28個も発生したことから、アルファベット順の名前が足りなくなっています。

 このため、ギリシャ文字のアルファ、ベータ、ガンマ…が追加で使われました。

 この平成17年(2005年)は、アメリカでニューオリンズを中心に記録的な被害が発生した「カトリーナ(Katrina)」や、大西洋で最強列のハリケーンである「ウィルマ(Wilma、最低中心気圧882hPa)」が発生した年です。

 ちなみに、カトリーナは頭文字がKなので11番目に発生、ウィルマは頭文字がWなので21番目の発生です。

令和2年(2020年)の北大西洋

 令和2年(2020年)の北大西洋は、台風並みに発達した熱帯低気圧の発生が多く、11月末現在で30個も発生しています。

 このため、平成17年(2005年)のようにアルファベット順の名前が足りなくなり、ギリシャ文字のアルファ、ベータ、ガンマ…が追加で使われました(表1)。

表1 北大西洋で令和2年(2020年)に発生した台風並みに発達した熱帯低気圧
表1 北大西洋で令和2年(2020年)に発生した台風並みに発達した熱帯低気圧

 なお、表1で14番目がOmar、15番目がNanaとなっているのは、速報では、Nanaが発生したあとにOmarが発生したと解析したものの、資料を精査したところ、Omarの発生が早まったからです。

 21番目のbetaも同じです。

 速報で、Wilfredが発生した後、アルファベットが足りなくなり、ギリシャ文字からAlpha、Betaとつけていますが、資料を精査したらBetaの発生が、VickyとWilfredの間まで早まっています。

 このように、発生順と名前の順序が異なることは稀にあります。

台風の発生数

 令和2年(2020年)の台風発生数は、11月末現在で22個です。

 12月の台風発生数は平年で1.2個ですので、平年の発生数25.6個には達しない公算が大きくなっています(表2)。

表2 令和2年(2020年)の台風発生数と上陸数および台風の平年値
表2 令和2年(2020年)の台風発生数と上陸数および台風の平年値

 とはいえ、昭和26年(1951年)以降の70年間で、台風発生が21個以下だった年が10年もありますので、極端に台風発生数が少ない年とはいえないでしょう(表3)。

表3 台風発生数が少ない年(昭和26年(1951年)以降)
表3 台風発生数が少ない年(昭和26年(1951年)以降)

 ただ、北大西洋の台風並みに発達した熱帯低気圧数には及ばない見込みです。

このような現象は、台風の発生数は近年増加の傾向がみられないことから、今後増えるかもしれません。

タイトル画像の出典:アフロ。

図の出典:気象庁の資料とNOAAの資料から著者作成。

表1の出典:NOAAの資料から著者作成。

表2の出典:気象庁ホームページより。

表3の出典:気象庁ホームページより著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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