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「台風一過」の晴れのち雷雨

饒村曜気象予報士
積乱雲と青空(ペイレスイメージズ/アフロ)

いろいろな台風一過

 物事の騒動が収まったことに対して「台風一過」ということがあります。もともとは、台風が過ぎ去ると晴天になることが多いことからきた言葉ですが、台風の通過後は全て晴天になるわけではありません。

 台風が北東進して通過したあと移動性高気圧に覆われることが多い秋は、台風一過で晴天となることが多いのですが、台風が前線上を東進する場合は、台風一過でもなかなか晴れません。

 平成30年(2018年)6月11日(月)に台風5号が本州の南海上を東北東進し、台風5号の東側から北側に広がる雨雲によって関東南部から小笠原諸島では大雨となりましたが、中国大陸から、上空5500メートルで氷点下12度以下という強い寒気が南下しています(図1)。

図1 6月12日3時の気象衛星画像・地上天気図と12日朝の上層の寒気
図1 6月12日3時の気象衛星画像・地上天気図と12日朝の上層の寒気

 6月12日(火)の関東地方は、台風5号が持ち込んだ暖気が下層に残っているところに、晴れて日射が加わりますので、東京で最高気温が29度と前日に比べて約10度以上高くなるなど、各地で気温が上昇する予報です。

 そこに、上空5500メートルで氷点下12度という寒気が南下してきますので、地上と上空5500メートルとの気温差が40度以上にも達することになります。

関東地方の大気不安定

 地上と上空5500メートルとの気温差が40度以上というのは、大気が非常に不安定な状態です。

 専門的になりますが、大気の安定度を見るのに「ショワルターの安定指数」というものを使います。約1500メートルの空気を約5500メートルまで持ち上げたと仮定したときに計算される温度が、約5500メートルの実際の気温より高いかどうかということを示す指数です。

 大雑把に言えば、この指数が「プラス」の時は計算された温度が実際の気温より低い場合で、大気が安定となります。逆に、「マイナス」の時は大気が不安定で、「マイナス3」なら非常に不安定で局地的に積乱雲が発達し、強い雷が発生するというものです。

 6月12日午後の東日本では広い範囲で「ショワルターの安定指数」がマイナスで、所によってはマイナス6と、なかなか見られないほどの大気の不安定を示しています(図2)。

図2 ショワルターの安定指数(6月12日15時の予想値)
図2 ショワルターの安定指数(6月12日15時の予想値)

 つまり、台風一過の6月12日は、晴れて地上気温が高くなればなるほど、大気が不安定となって局地的に積乱雲が発達し、落雷や突風、降雹の可能性があります。

 「晴れのち雷雨」ですので、朝方に晴れていても、単なる台風一過の晴天ではなく、積乱雲が発達する前兆の晴天ですので、お出かけには傘が必要です。

図1、図2の出典:ウェザーマップ提供。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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