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三八豪雪や五六豪雪並みでも大雪特別警報は発表に至らず

饒村曜気象予報士
北陸地方が大雪のときの気象衛星可視画像(平成30年(2018年)2月3日12時)

特別警報

 気象庁では、平成25年(2013年)8月30日から「特別警報」の発表を開始しました。これは、予想される現象が特に異常であるため、重大な災害の起こるおそれが著しく大きい旨を警告する新しい防災情報です。

 特別警報は4種類あり、津波等に関する特別警報、火山に関する特別警報、地震動に関する特別警報の3つについては、これまでも警報の中で分けられている基準をそのまま使います。

 「大津波警報(3m超)」がそのまま「特別警報の大津波警報」です。 

 「噴火警報(居住地域)レベル5、レベル4」がそのまま「特別警報の噴火警報(居住地域)」です。

 「緊急地震速報(警報)震度5弱以上」を2つにわけ、震度の大きい方が「特別警報の緊急地震速報(警報)震度6弱以上」です。

 そして、気象等に関する特別警報は新たに設けられました。日本の気象業務は、警報を中心に発展しており、天気予報、気象注意報などが加わって警報を補完してきましたが、特別警報は補完ではなく、新設です(図)。

図 気象等に関する特別警報
図 気象等に関する特別警報

 気象等に関する特別警報には、大雨特別警報、暴風特別警報、高潮特別警報、波浪特別警報、暴風雪特別警報、大雪特別警報の6種類があり、おのおのに発表基準が作られています。

大雪特別警報についての誤解

 気象庁では、大雪特別警報は、数十年に一度の大雪が予想される場合に発表するとし、例として昭和38年(1963年)1月豪雪(三八豪雪)と昭和56年(五六豪雪)をあげて説明していますので、多くの人はそう思っています。

 しかし、大雪特別警報は、大雪が府県程度の広がりをもち、その後も警報級の雪が一日降ると予想される場合に発表するという条件がついていますが、このことについては、気象庁が積極的に説明していないのではないかと思われますが、誤解が広がっています。

 特別警報の運用については、より良いものを目指して絶えず見直しが行われると思いますが、少なくとも、現状の運用についての周知がもっと必要と思います。

 平成30年2月の北陸地方の豪雪は、福井県の北部(嶺北地方)では、昭和38年(1963年)1月豪雪(三八豪雪)と昭和56年(五六豪雪)に匹敵した大雪でしたが、福井県全域くらいの範囲での大雪ではないため、「大雪が府県程度の広がりをもつ」という条件を満たさないため、大雪特別警報は発表されませんでした(表)。

表 福井県の50年に一度の積雪と今年のこれまでの積雪
表 福井県の50年に一度の積雪と今年のこれまでの積雪

 また、太平洋側の大雪は、南岸低気圧による短い期間の大雪ですので、「その後も警報級の雪が一日降ると予想される場合」という条件はほとんどのケースで満たしません。事実上、太平洋側の大雪には、大雪特別警報は発表されません。

 平成26年(2014年)2月15日に甲府市で積雪が114センチと、これまでの記録49センチを大幅に更新する大雪となったときも、大雪特別警報は発表になりませんでした。

 短時間に強く降る雪によって、電車が途中で立ち往生して長時間乗客が閉じ込められたり、交通規制が遅れて多くの自動車が通行止めの道路に閉じ込められたりするなど、短時間に強く降る雪による影響が大きくなっているように感じます。

 短時間に強く降る大雪に関して、予測技術の向上が必要ですが、「記録的短時間大雨情報」のように、「記録的短時間大雪情報」などの観測情報高度化についても考慮する時期にきているのかしれません。

タイトル画像の出典:気象庁ホームページ。

図の出典:饒村曜(2013)、特別警報、雑誌「近代消防」、近代消防社。

表の出典:気象庁ホームページより著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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