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五月晴(ごがつばれ)から走り梅雨へ 走り梅雨でも五月雨(さみだれ)なみに警戒を

饒村曜気象予報士
快晴の空(ペイレスイメージズ/アフロ)

晩春から夏にかけて雨や曇りの日が多く現れる期間が「梅雨」ですが、降雨や曇天が続くと、梅雨と似ているということから、語尾に「梅雨」をつけた言葉が使われます。

「ごがつばれ」であり「さつきばれ」ではない

5月に、さわやかな晴天になると「五月晴れ(さつきばれ)」という言葉が使われますが、本来は間違いです。

旧暦では、現在の暦より約一ヶ月遅れていますので、「五月晴(さつきばれ)」は、もともとは梅雨時の貴重な晴れ間のことで、「5月の晴天」の意味ではありません。

「5月の晴天」は、正確には「五月晴れ(ごがつばれ)」です。

また、「五月雨(さみだれ)」は6月の梅雨の雨をさし、「五月雨をあつめて早し最上川(芭蕉)」は梅雨時の歌です。

ちなみに、気象庁の情報などで使う気象用語集では、「さつき晴れ」を5月の晴天として解説用語とし、予報用語にはしていません。

つまり、「さつき晴れ」は、報道発表資料や予報解説資料に用いても良い言葉(解説用語)としていますが、広く国民に対して使う言葉(予報用語)にはしていないのです。

なお、気象用語集での「さみだれ」は、梅雨期の雨とし、使用を控える用語となっています。

水曜からは曇や雨の日が続く

沖縄県の梅雨入りは5月9日、鹿児島県奄美大島地方では5月11日でした。このように、沖縄県と奄美大島地方では5月に梅雨入りとなりますが、本州・四国・九州の梅雨入りは6月前半です。

東~西日本は、移動性高気圧による五月晴(ごがつばれ)が続いていましたが、週間天気予報では、水曜からは曇や雨の日が続きますので「走り梅雨」が始まります。

梅雨の「先駆け」の意味から、「走りがついた梅雨のような天気」となります。

図1 東京地方の週間天気予報
図1 東京地方の週間天気予報

「走り梅雨」の別の言い方

「走り梅雨」のことを、「前梅雨」、「迎え梅雨」ということもあります。

また、「走り梅雨」の時期が卯の花が咲くころにあたり、卯の花を腐らせるような雨ということから、「卯の花腐し(くたし)」とも呼ぶことがあります。

卯の花は、アジサイ科の低木である「ウツギ」の花です。多くの白い花が咲きますので、古来から親しまれてきた花で、旧暦の4月(現在の5月)を「卯月」というのは、ここからきています。

さらに、筍が旬であることから「筍梅雨」と呼ぶ地方もあります。

平成16年の走り梅雨

平成16年の5月は、東京で9日から24日まで連続して雨が降るなど、本州付近に前線が停滞した影響で雨や曇りの日が多くなり、南から暖湿気流が入った場所では大気が不安定となって大雨となりました。

気象衛星ひまわりによると、沖縄を除いた日本列島がほぼ東西方向に伸びる雲域に覆われています。この雲域はさらに西の中国大陸の奧まで伸びており、地球規模の現象です。また、ところどころに雲が密集している場所があり、はっきりした低気圧まで発達しなくても、ここではまとまった雨が降ります(図2)。

このときの前線は、梅雨前線と同じ性質ですが、梅雨入り前(この年の中国・四国・九州の梅雨入りが5月29日)なので梅雨前線とは呼びません(図3)。

図2 気象衛星ひまわり(平成16年5月16日9時の可視画像)
図2 気象衛星ひまわり(平成16年5月16日9時の可視画像)
図3    地上天気図(平成16年5月16日9時)
図3 地上天気図(平成16年5月16日9時)

「走り梅雨」でも警戒

近年の梅雨は、前半はシトシト降り、強い雨は後半というパターンが崩れているようにも思います。

また、「走り梅雨」や「梅雨前半」に強い雨が降る傾向もあり、気候の変動との関係が議論されたりしています。

警戒すべきは「梅雨末期の豪雨」だけではありません。

「走り梅雨」といっても、梅雨期なみに(五月雨なみに)警戒しておいたほうが良い時代に入っているかもしれません。

「梅雨」という言葉が入っている時期は、気象情報の入手に務める時期でもあります。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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