プロ野球開幕、29年前の開幕は大雪の日に行われた巨人・ヤクルト戦
プロ野球が3月31日に開幕し、これからセ・リーグとパ・リーグにわかれての半年間のペナントレースが行われ、一喜一憂が繰り広げられます。
明治時代、1チーム9人の2チームが守備側と攻撃側に分かれ、ボールをバットで打って得点を争う球技(ベースボール)がアメリカから日本に伝わったとき、野原でやる球技ということから野球と訳されています。
しかし、野原でやる球技、野球は天気の影響を受けます。特にプロ野球は、多くの人を球場に集める人気イベントですので、天気の影響は大きなものがあります。
日本でのドーム球場計画は昭和33年
世界初のドーム球場建設は、昭和40年の米デキサス州ヒューストンのアストロドームです。屋根をつけた理由は、夏の暑さや蚊の大量発生から球場内をまもるためでした。
しかし、日本では、これより先に、 雨が降つても試合が中止にならないようにという雨対策のため、ドーム球場の建設が考えられていました。
日本でドーム状の屋根を備えた球技用のスタジアム(ドーム球場)の模型が報道陣に示されたのは、昭和33年(1958年)8月のことです。
当時、読売新聞の正力松太郎社長は、新宿にあった社有地にドーム球場を建設したいと発言しています。
ただ、この計画は、空調設備の技術的問題をクリアできなかったことなどから実現には至りませんでした。
なお、その4ヶ月後に行われたプロ野球の日本シリーズでは、パ・リーグ覇者の西鉄ライオンズが3連敗のあと、雨で中止の一日を挟んで4連勝で、宿敵のセ・リーグ覇者の読売巨人軍を破っています(表1)。
潮目となった10月15日は、朝方の雨で中止を早々と決まりましたが、試合開始予定時間には雨は止んでいました。このため、雨天中止が早々ときまらなければ、あるいは、雨が降っても屋根つき球場であったならなど、雨の影響がいろいろと取りざたされました。
ただ、10月15日の雨が、「神様・仏様・稲尾様」とまで言われた伝説のヒーロー・稲尾和久を誕生させたのは事実です。
東京ドームの建設
日本初の屋根つき球場・東京ドームが完成したのは、最初の構想から約30年後の昭和63年(1988年)3月18 日で、巨人対阪神のオープン戦が行われました。
東京ドーム球場は、空気膜構造方式を採用し、屋根には二重のテフロン膜を貼り、その中に常時空気を送り込み、ドーム内の気圧を0. 3パーセント高めることで屋根を維持しています。
大雪の中でプロ野球の開幕戦
昭和63年のプロ野球のセ・リーグ開幕戦は、4 月8 日の巨人対ヤクルトでした。
7月7日夜から8日にかけて本州の南岸を低気圧が東進し、その後冬型の気圧配置となったことから、8 日朝の東京は、最低気温が0.7度まで下がって強い雪が降り、積雪が9cm となっています(図)。
東京としては大雪で、ドーム球場でなければ野球は中止という天気でした。
この試合は、4 対2 でヤクルトが勝ちましたが、これをロイヤルボックスで観戦されたのが、皇太子 (現天皇陛下)ご夫妻、浩宮様(現皇太子)、高松宮ご夫妻です。
ドーム球場での試合でなければ、皇族をお迎えする関係者は、天気の推移に一喜一憂していたと思われます。
次々に屋根つき球場
東京ドーム球場ができたあと、平成5年(1993年)には国内初の開閉式屋根を持つ福岡ドーム球場、平成9年に大阪ドーム球場、平成9年に名古屋ドーム球場、平成11年に西部ドーム球場、平成13年に札幌ドーム球場と、次々にドーム球場が作られています。
日本では、北海道では寒さ対策が、北海道以外は梅雨があって雨対策が必要となるため、野球の本場のアメリカ以上にドーム球場を必要としているからです。
日本のドーム球場の構造は様々で、気象の影響も様々です。気圧差を使って屋根を持ち上げている東京ドーム球場は、完全に密封式の球場ですが、その後に建設されたドーム球場では、できるだけ自然を取り入れる試みがなされています。
例えば、開閉式屋根を持つ福岡のヤフオクドーム球場は、雨が降っているときには天井を閉めますが、雨が降っていないときは天井をあけ、屋外の新鮮な空気のもとで野球を楽しめるようになっていますが、このことは、ドーム球場を連用する人にとって気象情報の重みが増すことを意味しています。
天井の開閉には時間がかかり、かつ電気代がかかるので、雨が降ってきたときに急いで閉めれば良いというものではないからです。降水短時間予報を使い、雨がいつごろから降り、いつごろから強まるかということを考えながら天井の開閉を行っています。
また、大阪湾から約5キロメートルという河口部に位置し、海から強い風が吹くことが多い京セラドーム大阪球場では、この強い海からの風を利用し、ドーム屋根の頂上付近にある換気口の開口位置を風向によって変えることで、風の吸引効果をつかった球場の自然換気を行っています。このため、ドーム球場を運用する人は、風、特に風向の把握に努めています。
ドーム球場内は太陽光が遮蔽されるため天然芝が育ちません。このため、人工芝が導入されたのですが、人工芝は選手の下半身に負担がかかるなどの理由から、天然芝に回帰する方向にあります。札幌ドームでは、屋外のオープンアリーナで養生している天然芝のグランドを空気圧で浮上させ、ドーム内に移動させることで天然芝での試合ができるようになっています。
屋根つき球場でも雨天中止
東京ドーム球場が完成した昭和63年頃は、ドーム球場ができれば天気の影響で野球の試合が中上になることはないと言われていましたが、その後も、天気の影響で、ときどき試合中止があります(表2)。
平成2年8月10日の巨人対中日戦では、静岡県に上陸した台風第11号の影響で新幹線がストップ、中日の選手が東京に来ることができずに中止となっています。
また、平成8年9月22日の巨人対中日戦は、台風17号の房総半島沖通過によって交通機関が大混乱していることなどを考えて中止となっています。
偶然ですが、東京ドームで最初に中止となったのは中日戦、2回目に中止となったのも中日戦でした。
平成16年のプロ野球選手会のストライキ、平成23年の東日本大震災による開幕延期を除けば、1~2年に1試合は天気の影響で試合が中止となっています。
そして、その大半は台風によるものです。台風の影響は広い範囲におよぶこと、および、その影響が予測可能であることから、台風の影響によるドーム球場での試合中止が増加傾向にあります。
近年、ドーム球場での話合が中止となることが、少しづつですが増えています。
これは、観客が安全に試合を楽しめる状況だけでなく、試合後の交通機関の運行状況を心配しないで試合を楽しめる状況でないと試合を行わないという、安全第一の考えが浸透してきたからと思われます。
プロ野球開幕の頃は、台風の影響はありませんので、東京ドーム(巨人ー中日)、札幌ドーム(日本ハムー西武)、京セラドーム(オリックスー楽天)、ヤフオクドーム(ソフトバンクーロッテ)の4球場では、予定通りの開幕戦です。