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頼るのは武器とフェイクニュース――加速するロシアのアフリカ進出

六辻彰二国際政治学者
ケニアのケニヤッタ大統領と握手するプーチン大統領(2019.10.24)(写真:ロイター/アフロ)
  • ロシアはアフリカ進出を加速させており、軍事力とフェイクニュースがそのための重要な手段である
  • アフリカではテロが広がっており、空爆など強硬な掃討作戦でロシアが各国に協力し始めれば、「頼れる大国」として認知が高まり得る
  • その一方で、ロシアはフェイクニュースの発信でアフリカの「独裁者」を支援している

 2020年大統領選挙とウクライナ疑惑に頭が向かいがちなトランプ大統領をはじめ、多くの大国の指導者が国内問題で足元をとられている間に、プーチン大統領は海外進出に余念がない。そこでは軍事協力とフェイクニュースが重要な手段になる。

ロシアのアフリカ復帰

 ロシア国内では格差の拡大などが深刻化しているが、プーチン大統領は不満を力で押さえ込みながら、海外での影響力の拡大を図っている。そのターゲットには、米中が進出レースを繰り広げるアフリカも含まれ、ロシアはここに割って入ろうとしている。

 その狼煙ともなったのが、ロシアの保養地ソチで10月23、24日に開かれた、アフリカ54カ国の首脳を招いた国際会議ロシア・アフリカ・サミットだった。

 日本を含め、アフリカ進出を目指す各国は、同様の会議をすでに定期的に開催していて、ロシア・アフリカ・サミットは今回が初めてだ。

 ただし、これまでロシアがアフリカと無縁だったわけではない。むしろ、冷戦期のソ連はアフリカでアメリカをしのぐほどの影響力を誇示した。そのため、現代のロシアによるアフリカ進出は新規参入というより本格復帰といった方が正しい

 ロシアがアフリカに復帰する目的は何か。

 ロシア・アフリカ・サミットの共同宣言をみると、ロシア企業による資源開発協力などもうたわれているが、それより政治、安全保障などの協力に重点が置かれている。

 アフリカは世界の最貧地帯だが国の数は多く、国連加盟国の約4分の1を占める。つまり、ロシアは国際的な発言力の増大を目指し、アフリカとの関係を強化しようとしているとみてよい。

ロシアのアドバンテージとは

 アフリカ進出を加速させようとするロシアにとって、米中などのライバルに対する最大のアドバンテージは軍事協力にある。

 アフリカには「イスラーム国」(IS)など中東を追われたイスラーム過激派が多数流入している。そのため、ロシア・アフリカ・サミットでも、訓練や兵站部門での支援、過激派のメッセージ発信に使われるソーシャルメディアの規制、過激派に関する情報交換など、安全保障面での協力が強調されている。

 欧米諸国は中東で行なっているほどでないにせよ、アフリカでもテロ対策に協力している。アメリカはソマリアやチュニジアなどアフリカ大陸に34カ所の拠点をもち、ドローンなどを用いたテロ掃討作戦を展開している。また、フランスやドイツも西アフリカ5カ国にイスラーム過激派の取り締まりのための部隊を派遣している。

 これに対して、ロシアは2015年からだけでアフリカ諸国と20以上の軍事協力協定を結んでおり、急速に欧米諸国を追い上げている。

 ロシア軍はこれまでにも、各国政府からの要請に基づき、中央アフリカなどで兵員の訓練などに従事した経験をもつ。国内向けに説明責任を果たさなければならない欧米諸国と異なり、ロシア軍は危険地域であることを厭わずに活動する傾向が強い。その関与が増えれば、たとえシリア内戦でみられたように多くの民間人を巻き添えにする作戦を行うものだったとしても、「頼れる大国」としてロシアの存在感をアフリカで高めるとみてよい。

 また、安全保障協力を前面に出すロシアのアプローチは、自国の企業や商船を警備するためにジブチに基地を構えながらも、アフリカでのテロ対策に直接かかわろうとしない中国とも差別化しやすいものといえる。

武器輸出の多さ

 これに加えて、ロシア・アフリカ・サミットの共同宣言では触れられていないが、武器輸出もロシアにとって重要な手段になる。

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 アフリカ向けの武器輸出額でロシアはアメリカをしのぐ。世界最大の武器輸出国アメリカは、人権状況に問題のある国への武器輸出を国内法で禁じている。そのため、アメリカはアフリカ38カ国と軍事協定を結び、訓練や兵站で協力していても、アフリカへの武器輸出には消極的だ。

 もっとも、人権状況に問題のある国なら中東にもはいて捨てるほどあるが、アメリカは武器輸出に熱心だ。アメリカは中東で、人権問題より資源調達やテロ対策を優先させているからだ。

 こうしたダブルスタンダードがアフリカ諸国にとって面白いはずはない。この反感は、相手を選ばず兵器を輸出できるロシアにとって有利に働くといえる。

「独裁者」への選挙協力

 その一方で、ロシア政府は国内で「フェイクニュースの禁止」を名目にネット規制や言論統制を強めており、ロシア・アフリカ・サミットでも「テロリストを取り締まるため」としてソーシャルメディア規制などでの協力が盛り込まれている

 アフリカには形式的に選挙をしていても、野党やメディアを強権的に取り締まる「独裁者」も珍しくない。テロ対策を大義名分とするロシアの協力は、こうした「独裁者」の支援につながるとみられる。

 それだけでなく、フェイクニュース規制を掲げるロシアは、アフリカの選挙にフェイクニュースを用いてかかわっているとみられる。

 10月30日、Facebookはロシアの3つのアカウントを凍結。Facebookによると、これらはフェイクニュースの発信元(英語では「釣り」の生産を行うという意味で「トロール・ファクトリー」と呼ばれる)で、プーチン大統領と親交の深いビジネスマン、エフゲニー・プリゴジン氏につながるものも含まれていた。

 英紙ガーディアンは、これらのアカウントが昨年大統領選挙の行われたマダガスカルの他、カメルーンや中央アフリカなど8カ国で、野党候補に関するフェイクニュースを発信していたと報じている。これはアフリカの「独裁者」をロシアが支援するものといえる。

 こうしてみたとき、ロシアは資金力などでおよばない米中などを追い上げるため、手段を択ばずアフリカにアプローチしているとみてよい。その成否は、他の大国の指導者たちが国内問題にどの程度つまづくかによっても左右されるといえるだろう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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