中間選挙後もトランプ政権が中国との貿易戦争を減速させないとみられる理由

中間選挙の事前投票する有権者(2018.10.24)(写真:ロイター/アフロ)

 世界が注目するアメリカ中間選挙で、たとえ民主党が下院の過半数を獲得する「ねじれ」が生まれたとしても、中国との貿易戦争にブレーキはかからないとみられる。通商は他のテーマと比べても、トランプ政権と民主党が折り合いをつけやすい分野だからである。

通商に関しては折り合いがつけやすい

 世界の行方を左右する11月6日のアメリカ中間選挙を前に、多くの観測では連邦議会上院の過半数を共和党が、下院の過半数を民主党が、それぞれ獲得するとみられている。いわゆる「ねじれ」が生まれれば、トランプ政権のブレーキになると期待するひともあるかもしれない。

 しかし、上下両院で共和党が勝利した場合はいうまでもないが、大方の予想通り「ねじれ」が生まれたとしても、トランプ氏がこれまでの強気を引っ込めることは想定しにくい。

 「反エリート」のイメージでのし上がったトランプ氏にとって、議会や民主党に忖度する姿勢をみせることは難しい。そのうえ、これまでトランプ大統領は、イスラーム諸国からの移民の入国制限や特定の国に対する関税引き上げを、議会の法案作成を待たず、大統領令で行ってきた。

 そのため、選挙結果がどうなろうと、内外に対するトランプ政権の強気は基本的に維持されるとみてよいが、それでも「ねじれ」が生まれれば、議会の空転を避けるため、共和党と民主党の間で交渉や妥協が避けられなくなる(アメリカ連邦議会では上下両院での可決がなければ法案が成立しない)。

 そのなかで医療制度、イスラーム過激派対策、移民、女性やマイノリティの扱い、税金などその他の多くのテーマに比べて、通商、とりわけ中国との貿易戦争は、共和党と民主党が折り合いをつけやすい、少なくとも民主党から激烈な批判を招きにくい分野といえる。

 そこには、大きく2つの理由がある。

  • もともと民主党の通商政策は共和党より保護主義に近いこと
  • アメリカでは対中関係における問題のうち貿易があまり重視されていないこと

一周回って民主党寄りのトランプ政権

 まず、民主党の伝統的な通商政策からみていこう。

 トランプ氏は「グローバル化を推し進め、アメリカを弱体化させた元凶」として民主党を名指しすることが多い。しかし、伝統的にアメリカにおいて自由貿易を強調してきたのは、むしろ大企業や南部の農家に支持が厚く、「小さな政府」や規制緩和を信奉する共和党で、都市住民に支持者の多い民主党は、産業育成などの目的から保護主義の傾向が強い。

 実際、例えば世界恐慌(1929)後に保護貿易をともなうニューディール政策を実施したF.ローズヴェルト大統領は民主党出身だった。また、1974年に連邦議会がアメリカ政府に「不公正な取引を行う国」との協議とそれが難しい場合に制裁を求める内容の通商法301条を成立させた時、上下両院で議席の過半数を民主党が握っていた。

 これに対して、伝統的に自由貿易の色彩が強かった共和党は、今回の中間選挙で多くの候補がトランプ氏の応援を受けたことで、全体的に保護主義に向かいやすくなっている。ロイターの調査によると、10月末の段階で共和党支持者の約80パーセントはトランプ政権の通商政策を支持している。

 こうしてみたとき、民主党にとって医療制度、移民受け入れ、女性やマイノリティの扱いなどで譲歩することはできないが、保護主義的な通商に関しては、共和党との間でイデオロギー的なギャップが小さくなっているといえる。

貿易問題の目立たなさ

 第二に、中国への警戒で共和党と民主党の間に大きな差はないうえ、貿易がさして重視されていないことだ。

 基本的に保護主義に理解があるとはいえ、先程のロイターの調査によると、民主党支持者の間ではトランプ政権の通商政策への不支持は73パーセントにのぼる。そこには、一方的な関税引き上げなどの手法に対する批判があるとみてよい。

 ただし、多くのアメリカ人にとって貿易は対中関係で最も重要なテーマではないピュー・リサーチ・センターによると、2018年春の段階で58パーセントの回答者が「中国の経済力はアメリカにとっての懸念」と回答しているが、その「懸念の内容」に関する質問で「とても深刻」の回答が最も多かったのは「中国によるアメリカ国債の購入」(62パーセント)で、これに「サイバー攻撃」(58パーセント)、「中国による地球環境へのインパクト」(51パーセント)、「中国への雇用の流出」(51パーセント)と続き、「中国に対する貿易赤字」は48パーセントに止まった。

 つまり、アメリカ人の多くにとって対中関係における貿易の優先順位が低いことは、「注目されにくさ」をも意味するため、民主党にとって折り合いをつけやすくする。

反中の牙城、民主党

 これに関連して重要なことは、民主党でも「何らかの方法で中国に罰を与える」こと自体に異論は出にくいことだ。

 もともと民主党は人権分野などでは共和党以上に中国に批判的である。1989年の天安門事件を受け、翌1990年に連邦議会下院は共和党のブッシュ(シニア)政権に経済・外交的な制裁を実施させる法案を可決したが、当時連邦議会の上下両院を民主党が過半数を占めていたことは、その象徴である。

 ここにきてトランプ政権が新疆ウイグル自治区での人権侵害を頻繁に取り上げることは、「中国への懲罰」という文脈で民主党の理解を得やすくするものといえる。

 さらに、トランプ政権が中国向け関税引き上げの最大の理由の一つとしてあげている「知的所有権の侵害」は、トランプ氏に批判的で、民主党支持が鮮明なシリコンバレーにとってこそ重要テーマである。

 つまり、現在のところ好調なアメリカ経済に貿易戦争の悪影響が表面化するまで、民主党にとっても中国への貿易戦争は必ずしもマイナスにならない。

イランとの違い

 この点で対照的なのがイランだ。

 オバマ政権のレガシーともいえるイラン核合意からトランプ政権が離脱したことには民主党からの反発が強いが、トランプ政権はイランに対する「史上最強」の制裁を中間選挙直前の11月5日に駆け込みのように実施し、既成事実化した。そこには「イランに関して民主党と協議するつもりはない」という意思を見てとれる。

 これと対照的に、選挙期間中に中国に関する具体的なアクションがなかったことは、「中国との貿易戦争では民主党の理解を得やすい」というトランプ氏の目算をうかがわせる。

 以上を要するに、民主党にとって、表面的にはともかく、実質的にトランプ政権の対中貿易戦争を黙認することは、さほど高いハードルではないといえる。

押し寄せる米中貿易戦争の荒波

 ただし、米中貿易戦争が中間選挙後に加速した場合、世界の分断がさらに促されることは言うまでもなく、日本への影響も大きい。

 貿易戦争が激化するなか、それまで最大のアメリカ国債購入国だった中国は7月、購入額を年始以来最低レベルの1兆1700億ドルにまで削減した。アメリカ国債の購入も売却も一種の政治的な道具であるが、中国の買い控えと入れ違いに第2位の日本は1兆400億ドルにまでアメリカ国債の購入を増やした。

 日本はアメリカの財政を下支えした格好だが、好調なアメリカ経済は日本にとっても重要であるため、「恩を売った」というには十分でない。いずれにしても、これと並行して日本政府は中国との関係改善を進め、10月25日の安倍首相の訪中に至った。

 つまり、トランプ政権に振り回され、リスクヘッジを求めているのは中国だけではなく、日本も同様なのである。

 とはいえ、中国に接近し過ぎれば、トランプ政権から日本が被る火の粉も大きくなる。その意味で、日本が今後ますます微妙なハンドリングを求められることは確かといえるだろう。