元オリックス・鈴木郁洋コーチが韓国KTへ シドニー五輪から20年の「後悔」と「期待」

2000年シドニー五輪・予選リーグ日韓戦で走者と交錯する当時25歳の鈴木郁洋捕手(写真:アフロスポーツ)

球団創設(1軍参入)6年目で初のポストシーズン進出となる公式戦2位に躍進した、韓国KBOリーグのKTウィズ。

さらなる飛躍を目指すKTは11月25日に新加入のコーチ陣を発表した。2軍(フューチャーズリーグ)と育成部門のコーチとして名を連ねたのは、今季までオリックスで育成コーチを務めた鈴木郁洋氏(45)だった。

韓国選手とはチームメイトとしての接点

1997年ドラフト4位で東北福祉大から捕手として中日入りし、大阪近鉄、オリックスで計15年間プレー。引退した翌年の2013年からオリックスで指導者として活動してきた鈴木(以下、敬称略)は、韓国球団からの就任要請に「正直、びっくりしました」と話す。一方でこれまでにも韓国球界とは少なからず接点はあった。

「日本から行ったコーチの人たちとのつながりもありましたし、中日ではソン・ドンヨル(宣銅烈)さん、イ・ジョンボム(李鍾範)さんらとチームメイトでした。オリックスでもイ・スンヨプ(李承ヨプ)、イ・デホ(李大浩)、パク・チャンホ(朴賛浩)さんと一緒にプレーしていたので、身近には感じていました」

2011年にオリックスに所属した元メジャーリーガーのパク・チャンホがNPBで先発登板した7試合のうち、5試合が鈴木とのバッテリーだった。

また2012年にオリックス入りしたイ・デホが試合終盤に出塁した際、俊足を誇った鈴木はイ・デホの代走として出場したこともあった。

2012年宮古島キャンプでのイ・デホ(左上)と鈴木(右端)(写真:ストライク・ゾーン)
2012年宮古島キャンプでのイ・デホ(左上)と鈴木(右端)(写真:ストライク・ゾーン)

そしてイ・スンヨプとはチームメイトとなる11年前、大舞台で対戦相手として顔を合わせていた。

メダル獲得を目指し被った日本代表のマスク

「忘れたいくらい、しんどかった思い出です」

かつてそう語り、20年経った今でも「やっぱり一緒かな。変わらないです」と鈴木が振り返るのは、2000年9月のシドニーオリンピック(五輪)での経験だ。

20年前のシドニー五輪の野球日本代表は現在の侍ジャパンのようなプロ選手の集まりではなく、プロとアマチュアの混成チームで臨んだ。

※ページ最下部に代表選手一覧を掲載

前年に行われたアジア選手権(五輪予選)では、球界を代表する捕手・古田敦也(ヤクルト)が日本代表のマスクを被り五輪出場権を獲得。しかし古田は本選で代表入りに至らず、プロ3年目25歳の鈴木が派遣された。「古田の代役」と「メダル獲得」、鈴木はこの2つの重圧とともに日の丸を背負った。

銅メダルを賭けた3位決定戦、相手は予選リーグで敗れた韓国。日本の先発マウンドには予選に続き20歳の松坂大輔が上がった。試合は松坂、ク・デソン(具臺晟)両先発の好投で0-0のまま終盤へと突入する。

8回裏、韓国は2死二、三塁のチャンスを作った。この場面で打席に入ったのは3番イ・スンヨプ。イ・スンヨプは前の3打席で連続三振に倒れている。

フルカウントからの6球目、松坂が投じたストレートは鈴木が構えた内角ではなく、真ん中外寄りにいった。それをイ・スンヨプは逆方向に運び打球は左中間へ。ボールが外野を点々とする間に二者が生還し韓国が2-0と均衡を破った。

韓国はこの回さらに1点を追加。9回表、日本は1点を挙げるも及ばず、3-1で韓国が勝利。韓国の銅メダル、日本の4位が決定した。

11年後に同僚となったイ・スンヨプと捕手の鈴木(写真:ストライク・ゾーン)
11年後に同僚となったイ・スンヨプと捕手の鈴木(写真:ストライク・ゾーン)

今も残る20年前の配球への後悔

「冷静に考えれば絶対に落ちるボールでいっていたところなんですが、あの時は『松坂の速い真っ直ぐで勝負したい』、格好つけるわけではないですが、『きれいに打ち取りたい』というイメージをしてしまいました」

「『なんで、あの場面でインサイドの真っ直ぐを選択したんだろう』ということは打たれた瞬間、そして今でも後悔しています」と鈴木は振り返る。

この試合の韓国での中継で解説者を務めたホ・グヨン氏もイ・スンヨプがタイムリーを放った直後、打撃を褒めるよりも先にこう語った。

「イ・スンヨプはここまで3三振しているので、松坂はストライクゾーンには投げずにフォークを投げれば打ち取る可能性が高かった。それなのに松坂は『無謀な挑戦』をしました」

「まだあの頃は若かったですし、未熟だったとすごく痛感しています。いい経験にはなっているんでしょうけど苦い思い出の方が強いですね」(鈴木)

鈴木にとって五輪での後悔は、指導者としての考え方にも生かされた。

「国際大会に関わらず日本のシーズンでもそうですが、気持ちだけでは勝てません。サインを出すキャッチャーには決断をするための選択肢を、いくつか与えてあげたいと思っています」

若手捕手育成への期待

来季、KBOリーグで活動する予定の日本人指導者は、韓国歴の長いサムスン・落合英二2軍監督とSK・芹澤裕二バッテリーコーチ、そして今回初めて韓国球界入りする鈴木の3人だ。

鈴木にとって慣れない環境となるが、KTの2軍監督には新たにソ・ヨンビン氏(49、元LGコーチ)が就任。ソ・ヨンビン2軍監督は2014年に中日でコーチ研修を行った経験があり、簡単な日本語でのコミュニケーションが可能だ。

KTが鈴木を招いた理由。それは「若手捕手の育成」にある。KTは正捕手のチャン・ソンウと2番手捕手のイ・ホングが30歳。控え捕手のホ・ドファンが36歳という構成になっている。

そこでKTは高卒新人のカン・ヒョンウ(ドラフト2次指名1ラウンド)の育成を優先課題とした。捕手経験のある日本人指導者を数名リストアップし、両球界を知る関係者に相談。その結果、鈴木に白羽の矢が立った。

開幕2戦目の5月6日にプロ初出場を果たしたカン・ヒョンウ(写真:kt wiz)
開幕2戦目の5月6日にプロ初出場を果たしたカン・ヒョンウ(写真:kt wiz)

「その選手(カン・ヒョンウ)は他のチームもドラフトで上位指名したかった、期待のキャッチャーだそうです。KTの担当者からは『2軍で基礎的なことを徹底的に鍛えて欲しい』と言われました」と鈴木は話す。

シドニー五輪・韓国戦での忘れ得ぬ後悔から20年。鈴木は今、五輪の翌年に生まれた19歳の韓国捕手の育成を託されている。

◆2000年シドニー五輪日本代表(◎はプロ選手)

投手:土井善和(日本生命)、◎河野昌人(広島)、渡辺俊介(新日鉄君津)、吉見祐治(東北福祉大)、石川雅規(青山学院大)、山田秋親(立命館大)、杉内俊哉(三菱重工長崎)、◎松坂大輔(西武)、杉浦正則(日本生命)、◎黒木知宏(千葉ロッテ)

捕手:◎鈴木郁洋(中日)、阿部慎之助(中央大)、野田浩輔(新日鉄君津)

内野手:◎松中信彦(福岡ダイエー)、平馬淳(東芝)、◎中村紀洋(大阪近鉄)、◎田中幸雄(日本ハム)、沖原佳典(NTT東日本)、野上修(日本生命)

外野手:◎田口壮(オリックス)、梶山義彦(三菱重工川崎)、飯塚智広(NTT東日本)、広瀬純(法政大)、赤星憲広(JR東日本)

◆2000年シドニー五輪韓国代表(◇はのちにNPBでプレー)

投手:◇チョン・ミンテ(ヒョンデ)、イム・ソンドン(ヒョンデ)、キム・スギョン(ヒョンデ)、ソン・ジンウ(ハンファ)、◇ク・デソン(ハンファ)、パク・ソクチン(ロッテ)、ソン・ミンハン(ロッテ)、◇イム・チャンヨン(サムスン)、チャン・ピルチュン(トゥサン)、イ・スンホ(SK)、チョン・デヒョン(慶熙大)

捕手:パク・キョンワン(ヒョンデ)、ホン・ソンフン(トゥサン)

内野手:◇イ・スンヨプ(サムスン)、キム・ハンス(サムスン)、キム・テギュン(サムスン)、キム・ギテ(サムスン)、キム・ドンジュ(トゥサン)、パク・チョンホ(ヒョンデ)、パク・チンマン(ヒョンデ)

外野手:パク・チェホン(ヒョンデ)、◇イ・ビョンギュ(LG)、チャン・ソンホ(ヘテ)、チョン・スグン(トゥサン)

※内野手のキム・テギュンは元千葉ロッテの同名選手とは別人。現KTヘッドコーチ

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