オリックスが台湾、韓国から受け取り繋いだ 海を越えるプロ野球開幕へのバトン
先週末に行われたオリックス-阪神の練習試合3連戦。試合中のバックネットには以下のメッセージが繰り返し表示された。
<謝謝 カムサハムニダ ありがとう THANKS Baseball is STRONG>
もう1パターンが以下だ。
<CPBL×KBO×NPB×MLB Baseball is STRONG>
※CPBL…中華職業棒球大聯盟 KBO…韓国野球委員会 NPB…日本野球機構 MLB…メジャーリーグベースボール
この文言はオリックスのホームグラウンド、京セラドーム大阪のバックネットに設置の幅310cm、高さ61cmのLEDボードに映し出された。
新型コロナウイルスの感染拡大は世界のプロ野球リーグに大きな影響を及ぼしている。それでもそれぞれのリーグは、例年より遅れての開幕、無観客での実施、シーズンの縮小といった工夫を重ね、プロ野球を成り立たせようとしている。上記のメッセージはそれを感謝と励ましで表したものだ。
ただ筆者はこのような企業、団体が発するメッセージは相手に届けるのが目的ではなく、そういった思いを持っていることのアピール、自己満足的な部分が多いのでは?と多少冷めた目で見ていた。伝わることはないのだろうと。
しかし、そうではなかった。今回のオリックスの行動は託されたバトンが海を越えて遥か届き、しっかりと繋がった証だった。
メッセージ掲出を発案したのは、オリックス球団の総務部担当部長兼球団本部国際渉外部アジア担当の中村潤さん(54)。そのきっかけは5月5日に38日遅れで開幕した、韓国KBOリーグの中継映像だった。
「ロッテ(ジャイアンツ)の試合をインターネットで観ていたら、外野席とロッテの選手のヘルメットにMLBとNPBに向けたメッセージがありました。嬉しくなってすぐに画面を写真に撮って、ウチの球団でもできないかと担当者に見せたら『面白いですね』ということで何かやろうと動き出しました」
韓国ロッテは5月8日以降のホームゲームで外野席に「MLB x NPB We’re with you」という横断幕、選手のヘルメットに「MLB x NPB Stay Strong」と書かれたステッカーをつけて試合に臨んでいる。
その意図は「プロ野球の開催を待ち望むアメリカ(MLB)、日本(NPB)をはじめとした、全世界の野球ファンとともに歩む」というものだった。
新型コロナは球団の経営に暗い影を落としている。そんな中で中村さんはロッテのメッセージに励まされた。
「こういう世の中でも野球を開催して観ていただいて、少しでも元気になっていただくことが、球団や選手ができることです」
そして中村さんには今とかつての思いが重なった。
「野球をやることで、『世の中が明るくなればいいな』というのは、震災(阪神・淡路大震災)の時もそうだったように、私たちの中に無意識のうちに、潜在意識としてあったのかもしれません」
中村さんはオリックスが迎えた最初のシーズン、1989年に球団に入社。95年、選手がユニフォームの右袖に「がんばろうKOBE」のワッペンをつけた時代を経験している。
韓国発の激励をキャッチし、オリックスが発した感謝の言葉。それはすぐに台湾に伝わった。中継を見たCPBLの国際部担当者がオリックス球団に連絡。喜びを伝え、ツイッターの公式アカウントで呼応した。
台湾はいち早く新型コロナの封じ込めに成功し、CPBLは4月12日にシーズンを開幕。その後、観客を入れて試合を開催している。その姿は世界の野球ファン、関係者に希望を与えている。
また韓国は選手、関係者から感染者を出すことなくリーグ運営を進め、徹底した対策の重要性を見せてきた。NPB事務局はKBOから情報提供を受け、対策マニュアルのすべての項目を参考にしている。
アジアが繋いだ感謝と励ましのバトン。次は6月19日に公式戦をスタートさせる日本が、太平洋を越えてMLBへと渡す番だ。
◇オリックスが開幕後もこのメッセージを掲出するかについて中村さんは、「スポンサー広告が優先になるので必ず出せるかはわかりませんが、もし隙間があれば表示されると思います」と話した。
[追記]ロッテジャイアンツ球団も公式フェイスブックページとインスタグラムで、オリックスのメッセージについて喜びの投稿を行った。