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大物バレットに挑む田村煕、「自分が出ても勝てるようなトレーニングを」。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
今季初戦に出場する田村。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

 今季のトップリーグでは、強豪国の大物選手が並ぶ。それは、各クラブの既存の選手が厳しい定位置争いを強いられることも意味する。

 サントリーには今季、ニュージーランド代表84キャップ(代表戦出場数)で29歳のボーデン・バレットが新加入。国内トップリーグでの開幕6連勝を支える。

 一方、バレットとスタンドオフの座を争う田村煕も、「自分が出ても勝てるというトレーニングを絶対にしなきゃいけない」。全試合にベンチ入りし、最善の準備を重ねる。

 日本代表の田村優の弟でもある田村は、2017年度にサンウルブズの一員としてスーパーラグビーを経験した27歳。視野の広さやスペースをえぐる感性と技術に定評がある。

 4月3日、東京・秩父宮ラグビー場での第6節(対クボタ)では、26―21とわずか5点リードで迎えた後半29分に途中出場。26―26と同点にされていた後半38分、フルバックに回ったバレットへラストパスを送り勝ち越しトライを演出した。直後のゴール成功もあり、試合は33―26で勝利。2日後、オンライン取材で心境を語った。

 以下、単独取材の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――ここまでの6試合を振り返って、いかがでしょうか。

「チームは調子がいいんじゃないかと感じています。プレシーズンはコロナの影響で苦しいところもあったのですけど、感染予防しながら合宿もできた。そこを、ほとんどのメンバーでできたのが、いまのまとまっているところに繋がっているのではないかと思います。

 以前は代表の活動、スーパーラグビー(国際リーグ=2016年からの5シーズンは日本のサンウルブズも参戦)があって、そういうものに選ばれている選手はそれが終わってから少し休みをもらって、チームに合流という形でした。いまはシーズンがトップリーグだけなので、(多くの選手が)100パーセント、サントリーの練習に入れた。いい活動ができた」

――長い準備期間を取れたことでのメリットは、どのあたりに表れていますか。

「コロナがひどくなる前は少しお茶したり、外国人選手とプライベートの時間を過ごしたり。そういうちょっとずつの積み重ねが、ほんの少しプレーに表れている。コミュニケーションが取れていると思います」

――ここからは改めて、クボタ戦を振り返っていただきます。田村選手は緊迫した場面で投入されました。

「前のトヨタ自動車戦は出してもらえなかった。やっぱり試合に出たい。ゲームタイムが欲しい。試合に出たらチームの流れをしっかり見てやることが一番(求められるの)で、あの状況では3点でも、5点でも欲しかった。トライエリアへ行ったら相手にプレッシャーをかけられるアタックをしよう。それだけを考えていました」

――大事な場面でバレット選手のトライを演出します。

「本音を言うと、空いているところにずっとボールを動かしていただけでした。彼がいいところへ走り込んできたという感じ。コールがあったというより、練習のなかからしていた、いいスピードのボールを出すという一連のプレー(の結果)でした。特別なコールがあったというより、お互いのいい感覚があったかなという感じです」

――今季、バレットの加入を知った時の心境を伺えますか。

「彼がどこのポジションでプレーするかもわからなかったですが、僕もプレシーズンから100パーセント、出る準備をして、いまもそうしています。(バレット加入で)いい経験ができるとも思いましたが、僕らは同じチームにいて競争する選手。もちろんファンみたいな気持ちは抱いていないですし、しっかりいいところを盗んで、練習からチャレンジしたい。いまもその気持ちは強いです」

――乱暴な聞き方になりますが、「何で自分のポジションに大物を連れてくるのだ」とは思わなかったですか。

「僕が何で連れてくるんだよと言っても、(サントリーは)毎年、誰かしら連れてくる。それを考え出したらできないチームなので。難しいことはありますけど、最初から無理なことなんてひとつもない。いまはどこのチームにもスター選手が来ていますが、それありきで考えられて、(それ以外の)選手がモチベーションを保てないことが一番、よくない。チームメイトとしてリスペクトはしますが、自分のなかの自信というものだけは失わないよう、毎日トレーニングしたいとは思っています」

――田村選手はバレット選手らとともに、アタックのリーダー陣を形成しています。

「(ミーティングは)基本的にコーチが話を進めますが、(相手防御の)どこにスペースがあるかの話は敏感にしていて。そこで、彼(バレット)はスキルの高い選手なので、ずっとサントリーの選手が持っている感覚では3つ目、4つ目に来るようなオプションを最初にもってきてもいいのではないかとイメージするところがある。(自身にとっては)色んな視点を持てるチャンスではあるなと」

――確かにいまのサントリーでは、従来にはなかった自陣からのキックパスが増えています。多くの選手が着実に手渡しでボールを届けようとする大外のスペースへ、バレット選手は1本の正確なキックを蹴り込む。

「スキルを持っていて、そこへ蹴られるという自信があるから、『ここが空いているなら、このスペースを使えばいいじゃん』という風になるんだと思います。(キックの受け手となる)ウイングのテビタ・リー選手のように、ずっと向こう(海外)でやってきた選手にとっては(キックパスの授受が)ギャンブルになるという感覚がない。それに『どこからでも攻める』というのはサントリーのアタックのイメージと合っているところでもある。いい意味で新しい視点になっているんじゃないのかなとは思っています」

 世界的に有名な選手が来日すると、どうしても当該選手の活躍ぶりや周囲への影響に注目が集まる。

 もっとも現場では、田村のように当該選手と競争するアスリートが確かに存在する。むしろ「練習からチャレンジしたい」との思いが、フィールドでの現象を下支えする。

 バレットの自信から生まれる視点には素直に敬意を抱きながら、田村はこうも言う。

「それ(バレットの先発固定)は、認めないというか、認めちゃったら終わりだと思う」

 4月11日にはNTTコムとの第7節が秩父宮であり、同月中旬以降はプレーオフトーナメントが始まる。「チャレンジしている姿勢を見せないと」とチーム全体のビジョンを語りながら、個人としても「スタートのジャージィを着て試合に出る」という目標を持ち続ける。

――今後の目標は。

「トーナメントになるといままで以上に強いプレッシャーのなかでやらなきゃいけない。サントリーはもう、チャンピオンじゃない。(2017年度まで)2連覇してから、負けてきょうまできている。バランスを取るのはいいけど、やはりチャレンジしている姿勢を見せないと。時間帯、コンディションなど、いろんな要素はあります。ただ、点差の開かない試合(上位決戦)のなかでも、思いっ切りやらないと。サントリーは優勝する時、思いっ切りやっているイメージがある。その、アタッキングマインドが大事です。

 個人的にはスタートのジャージィを着て試合に出たい。(ミルトン・ヘイグ監督とのミーティングは)何度かしていますけど、まぁ、練習でアピールするしかないという話で終わっている感じです。ここまで1回もスタートで出ていなくて、メンタル的に難しいところもなくはないですけど、毎週、毎週、それが当たり前になるのはすごく嫌。自分のなかで、それは、認めないというか、認めちゃったら終わりだと思う。他のチームでも、そういう(有名な)選手が来ているポジションの選手は似た思いをしているかもしれないですが、『その選手が来たからチームが勝っている』ではなく、自分が出ても勝てるというトレーニングを絶対にしなきゃいけない。自分にもいいプレーがあると思って、やるしかない」

 周囲の見立てに決して甘んじなかったのは、強豪国から歴史的勝利を挙げた2015年以降の日本代表も同じ。以後、田村が背番号10をつけるチャンスは最大で5回も訪れる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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