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サンウルブズ今季終戦の背景は。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
オンライン会見に応じる渡瀬CEO(著者キャプチャー作成)

 国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズは、今季の活動を終了させている。クラブを運営する一般社団法人ジャパンエスアール(JSRA)の渡瀬裕司CEO、現場の大久保直弥ヘッドコーチが6月2日、会見し、経緯を語った。

 当初の予定ではチームのスーパーラグビー参加は今季までで、期限延長の機会は2019年3月に失っている。表面的な理由は参加費の問題とされるが、その説明を真に受ける関係者は減少傾向にある。

参照:サンウルブズが5季目終了。本当にもう終わるの?【ラグビー雑記帳】 

 以下、共同会見時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

渡瀬

「新型コロナウイルスの影響で、世の中、大変な思いをされている方々はたくさんおられると思います。そのようななか、このようにラグビーにどっぷりつかれているのはありがたいと思っていますし、3月以降、選手、スタッフにも常々そういう話をしています。スポンサーの皆様、ファウンダーズクラブの皆様、ファンの皆様のおかげだと思っています。この場で御礼を申し上げます。

 2020年のスーパーラグビーは3月14日以降中断されていまして、その後ニュージーランド、オーストラリアの国内リーグの開催が検討され、サンウルブズ(かねてオーストラリアカンファレンスに加盟)もオーストラリア国内リーグへの参戦を目標とし、オーストラリア協会と連携を取って参りましたが、最終的には参戦が難しいこととなりました。

 

 大きな理由でありますが、オーストラリア政府からサンウルブズの選手、スタッフへのオーストラリア国内への入国許可が最終的には取れていないということ、仮に入国が許されたとしても入国後ただちに14日間は隔離されること。そして、その隔離に指定されたホテルがあれば、そのホテルの個室からは出られないこと。いまから準備して入国できたとしても、2週間の隔離を経て入室できるのは6月20日過ぎで、そうなると7月上旬(3、4日)の開幕には間に合わないこと…。

 以上を勘案し、サンウルブズが参戦するのは現実的ではないという結論に至りました。

 当初、我々からは隔離の間もトレーニングができるようにして欲しいという要望を出していましたが、その通りにはいかなかった。

 先週水曜にオーストラリア協会から内々の通告を受け、その後リリースのタイミングを見つつ、私としては選手とスタッフには直接説明をしたいと、それを土曜日に伝えました。そして昨日(6月1日)のリリースに至りました。

 2020年のサンウルブズは(国内最高峰の)トップリーグと日程が重なったことがありまして、当初より多くの方々からご心配をいただいていたかと思います(ワールドカップ日本大会の日本代表選手はゼロ)。そのなかでもパナソニックをはじめとしたいくつかのチームが協力してくれ、選手も覚悟を決め、退路を断って参加してくれた選手もいます。そういう思いの選手が集まった集合体だったことがまとまりを生んだ一因だった。

 まだまだ伸びしろのあったチームだっただけに、このような形でシーズンを終えることとなり、支えてくれたスポンサーの皆様、ファン、ファウンダーズクラブの皆様には申し訳ない気持ちでいっぱいです。何より覚悟を持って集まってくれた選手、スタッフは無念だと思います。でも、これは現実。選手、スタッフにもこれを学びとして今後のキャリアに活かして欲しい。

 サンウルブズのチームとしての今季の活動は終了しました。今後は決まっていません。もともとは2019年のワールドカップで日本代表が勝つための器としてこのチームが生まれ、スーパーラグビーに参戦してきました。その役目は十分に果たしたと思います。ただ我々が想像する以上に多くのファンがこのチームを応援し、競技場でも声援を送ってくれました。どこにもない応援のカルチャーを作ってくれた。それを十二分に皆で再認識したうえで、日本協会がメインになりますけど、考えていけたらと思います。あっという間の5年間。スポンサー、ファン、メディアの皆様にも支えられた5年間だったと思います」

大久保

「率直に言って、こういう終わり方になったことは残念です。ただ、この2か月、もう一度プレーできるように渡瀬さんをはじめ多くの方が全現場、選手のために一生懸命交渉を粘り強く続けている姿を横で見させていただいていましたので、本当に、厳しい交渉だったとは思いますが、納得しています。

 今季、一言で説明するのは難しいけど、選手には胸を張って欲しいとは伝えました。こういう結果になったことで選手の努力が否定されるわけではないと思っている。特に集合からレベルズ戦(開幕節)までの約4週間は私自身現場にいて…。日本のラグビーの歴史に名を残すチームであったと思いますし、ひとりひとりの努力がレベルズ戦の勝利につながったと思っています。

 世界は、このコロナの影響で、内向きになっていくんではないかと。そのなかでサンウルブズがこの約5年間で証明してきた国境を超えて団結する力、そのためにひとりひとりが何をしてきたかについては――いますぐに評価するのは難しいですけど――理解され、評価されてもいいと思います。国境、文化を超えて一致団結して戦っていくというサンウルブズのチームのアイデンティティ…。現場に携わった人間として、これを今後もファンの皆さんを含めた皆さんと共有していきたいと思っています」

――サンウルブズは実質上の解散になるのか。

渡瀬

「サンウルブズをどうするかは、まだ決まっておりません。これは日本協会をメインにやっていくことだと思います。

 何かよく言われる、(サンウルブズを)特定のリーグに行かせるんだというの(議論)も、その特定のリーグがあるわけではないので、難しいことだと思っています。ただ、もともと強化のなかでサンウルブズという器を使ってきたが、いちチームとしての評価が我々の思った以上に大きくなった。さらに、1年前とは明らかに世の中も変わっている。世界のラグビーも変わっていく。それらを注視し、サンウルブズという器をどう活用していくかをしっかりと決めていかなくてはいけない。

 以前はある種、私も意地になって何としてもスーパーラグビーに残るんだと思っていましたが、こういう状況だとなかなか国をまたいで戦うのも難しい。それも含め、考えなきゃいけないという風に理解しています」

――チームはバーバリアンズ(連合軍)風になるのか。

渡瀬

「選手をずっと抱え続けることは、いまのところ考えていませんし、バーバリアンズ的な存在かもしれません。一方で、日本代表を強化することはあります。ここはしっかり話し合っていかなきゃいけないという風には思っています」

――JSRAは解散するのか?

渡瀬

「これもどうするのかの議論は日本協会と始めています。我々が清算するのかしないのか。サンウルブズを残すにしても日本協会で…となるかもしれませんし、色んなことを話す必要があります」

――南アフリカのチームが離脱するとも言われているスーパーラグビー。来年以降どう再編、継続されるか。

渡瀬

「こちらについては正直、来年より今年のこと。これが明確でした。ただ皆さん、色んな思惑があり、正式にはサンザーとは話していませんが、それぞれのクラブから『もっとこうしたらいいのに』という声が入ってきましたし、もっと(サンウルブズと)一緒にできるんじゃないかと。おそらく、海外のチームももっと日本の会社を取り込んでスポンサーシップを…というの(思惑)があるんだと思います。ただ今回のこと(オーストラリア国内でのリーグ戦)だって、オーストラリア国内でも正式にやるか、やらないかの発表は出ていないと思います。それを踏まえ、次の年どうするかの議論になると思います。ここまで連携を取っていただいているので、次の議論でも何らかの情報は入ってくるかもしれませんし、何か一緒に考えようよと言ってきてくれるかもしれませんが、こちらとしてもうまく連携を取っていけたらと思っています」

――今回のワールドラグビー会長選挙で、日本協会はイングランド出身で現職だったビル・ボーモント氏に投票。元副会長でスーパーラグビーに参加するアルゼンチン出身のアグスティン・ピチョット氏は落選しました(※1)。影響ありませんか。

渡瀬

「2017年、スーパーラグビーのチーム数を18から15にしようとした時もサンウルブズが外れ候補になる話も盛り上がって、我々はサンザー(スーパーラグビーの統括団体)などに回って色んな話をしました(2018年からの15チームにはサンウルブズも含められた)。あの時もワールドラグビーの選挙(※2)の話も言われましたが、最後はそれだけではないところもある。いかに僕らが真摯にスーパーラグビーを盛り上げるために貢献するか、一緒にやるかという姿勢を見せることが大事だと痛感した年でもあります。

 今後、もし万が一、私がその時と同じように横(周辺)と話さなきゃいけないことがあれば、そういうスタンスでやりたいです」

※1=ワールドラグビーの会長選挙については、サンウルブズの存続を支持している協会理事の1人も「勝った方に入れたのはよかった」と発言。国際交渉におけるメリットは小さくないと見ているようだ。

※2=2023年のワールドカップのホストユニオンを決める投票のことか。スーパーラグビーにチームを輩出する南アフリカも立候補していたが、日本は結果的に開催国となるフランスへ投じた。その意思決定は当時、議論を招いた。

――日本代表との連携は。

渡瀬

「なかなか難しいですが、シーズンが終わって時間もできてきたので藤井(雄一郎強化委員長)さんやジェイミーとは、彼らの要望なんかも含めて話していくんだと思っています。具体的にはサンウルブズをどう使うかです。これは彼らだけではなく、色んな人たちに関与していただきながら話していくことだと思います。強化プラス、ラグビーを広める、普及する、得たファンを(大事にする)…。そういったこともあると思います」

――JSRAの財務状況について。

渡瀬

「財務上どういう課題があるかというと…ですが、一般社団法人ジャパンエスアールの株主に相当する部分に日本協会が入っているということで、我々は彼らから業務の委託を受けてこのスーパーラグビー事業に関わっている。株主が判断、議決に加わるのは当然だと思いますし、もともとミッションはスーパーラグビーを通して日本代表を強化することで、そのターゲットは2019年。(現状では)役目を果たしたうえで、次、どうするのかというところだと思います。JSRAという器を作ってやって来たのは事実ですが、今後、海外リーグへ参戦する時に同じスキームかどうかは別の議論。常にいいものを求めないといけない」

――要は、サンウルブズを日本協会を含む別組織が運営する可能性も。

渡瀬

「日本協会がサンウルブズを運営することもありうると思います。何も決まっていないので、それも含めて議論しなくてはいけない」

――改めて、財務上の累積赤字について。

渡瀬

「具体的数字はいままさに(精算を)やっていますが、今季は色々なコストを絞りつつ国内7試合が可能になって入場料(見込み)を増やせた。ここで黒字を予定していたところでしたが、国内試合が飛んでしまった。コスト削減を一生懸命やって来ていて、トントンで…といきたかったが、なかなかそうは甘くない。ただし、先般、チケット代の寄付(中止決定後の払い戻しに応じず、JSRAへ寄付すると申し出たファンが相次いだ)が税の控除の指定を受けることができた。

 累積赤字については、確かに少しずつ出ていて、昨年の日本代表の選手が(サンウルブズと別動隊との間を)行ったり来たりと、色んなことがあってコストがかかりました。ここは我々だけで何とかできることではなく、日本代表の強化のためにやってきたところもありますから、日本協会の方々と議論しながらどうしていくかを話しているところではあります」

――ファンとはどうつながるか。ファンのデータベースはどう活かすか。

渡瀬

「こちらファンとの繋がり。できれば今季中、最後の締めくくりとしてファンの方々とのつながりができたらと考えています。ただ、これはコロナ禍で許す状況かどうか、というところであろうと思います。他のスポーツの状況を見ながら検討したいです。

 我々が得たものはデータベースもそうですが、そこに付随する様々なもの、『我々の資産だ』と言えない(断言するのは申し訳ない)ようなファンの連帯もある。これをどう残していくかは大きな課題で、データはもちろん日本協会を含め協議をしなければいけない。どういう形でサンウルブズを残すかが、ファンとのつながりを続けるうえで大事だと思っています」

――「イベント」は送別試合か、イベントか。

渡瀬

「ぜいたくを言えば試合がベスト。ただ、ラグビーというスポーツの性質もあるので、現実的にどうか。ファン感謝祭のような形が現実的かと思っています。それも物理的に競技場で集まれるのか、オンラインになるのか…とにかく、できることはある。検討していきたい」

――オーストラリアのリーグ戦に参加できていた場合、本拠地をどこに置いて、収支をどうする予定だったか。

渡瀬

「オーストラリアの拠点については、色々な候補地が挙がって、最初はクイーンズランド州がいいんじゃないかという話が挙がっていました。これは中断前に日本の試合ができない場合にホームゲームをやらないかという話があったのですが、実際にはクイーンズランドは州を越えて入るか入らないかについて厳しい制限を設けてきたので、難しそうだと。そこでニューサウスウェールズ州のほうがシドニー入り後に楽じゃないかという議論をしていました。

 収支ですが…。無観客なので入りは想定していなくて、ただ、我々が向こうへ行った時のコストをどこまで(サンザーに)出してもらえるかの交渉はありました。3月にウーロンゴンでホーム扱いの試合(国内ホームゲームの代替)をした時も、コストを向こうにほとんど持ってもらった。そのようにしのぎたいと思っていました。結果、それも叶わずということでした」

――他クラブでは選手のサラリーカットが実施されたが。

渡瀬

「我々も実施しました。選手にも話をして、報告を入れた。選手、スタッフも同意してくれて、ということがございます」

――カット比率は。

渡瀬

「我々の契約形態が他のチームと違うので、お控えいただきたいと思います。ただ実際のインパクトは大きなものだった。それを受け入れてくれた選手には感謝しています」

――今後、選手の強化についてのアイデアがあれば。

大久保

「振り返ってみれば私も選手時代に海外を目指したことがありまして、残念ながらスーパーラグビーでプレーする夢は叶えられなかったんですけども、次の年代で田中史朗、堀江翔太、ガッキー(稲垣啓太)と、選手ひとりひとりの向上心で(スーパーラグビーのクラブと契約できた)。この向上心は、いまこの状態でも抑えつけることはできない。ひとつで世界に色んなリーグがありますけど、スーツケースで…がひとつの方法ではありますよね。全てを犠牲にしてでも海外で成功したい、日本の企業に所属しないで勝負したいと。そういう選手は、僕の知っている限りたくさんいます。

 ただ私もサンウルブズに携わってみて、色んな文化、国境を超えて、ひとつにつながるチームではありましたけど、あくまで日本ベースのチームとして、日本人らしさを追求することは忘れて欲しくないなとは思っています。何がベストなのか言葉では表せませんけど、サンウルブズに携わってきたなかで『日本人らしさってこういうことだよね』と、選手も納得する部分は多々あったろうし、それが日本代表の成長にもつながっている実感も――僕は直接、選手に聞いていないけど――あるのではないかと、勝手に、考えています。

 僕個人の意見ですが、サンウルブズは何かしら、どんな形でも名前を残してもらえれば嬉しいです」

――前週の土曜に選手へ通達したとのこと。反応は。

渡瀬

「選手には事実を淡々と話したが、彼らのなかでは無念だということがあったけど、それ以上にこういった局面で我々が動いていたこととか、いままでのコーチングスタッフを含めてありがとうというメッセージが返ってきたので、これが我々にとって救いではありましたし、それがサンウルブズというチームの結束の強さ。どの年もそうでしたが、特に今年は見返してやろうという選手が集まっていたからかもしれませんが、強く感じました。過去の選手もツイッターなどでアップしてくれましたが、初年度真っ先にサインしてくれた堀江翔太選手、立川理道選手らが色んな思いを持っていて、選手の皆さんにとっても、『そういうチーム』だったんだと改めて知りました」

大久保

「先週土曜日、チームミーティングで話した後、皆で今季集まってからの振り返りのビデオを観たんですけども、本当に皆、わずか3か月とは思えないくらい、かれこれ2~3年も一緒に仕事をしているんではないかと思えるようなチームだったと感じています。

 シーズンが終わってから、選手、スタッフからも私のところにメールが届きます。本当に、皆がチームがよくなるために何をするのかの、言葉ではなく――そもそも色んな言語が飛び交っていますが――行動が、素晴らしかったといま振り返っても思います。

 開幕前の約4週間はいまでも印象に残っています。誰ひとり、時間がないということを口に出しませんでした。毎日、毎日、チームがよくなるため、努力を積み重ねてくれたと思っています。我々は市原をベースにしております。大雨のなか、市原市の消防署の皆さんとトレーニングの一環として運動会ではないですが、それに似たことをしました。ロープを持って階段を往復、綱引き…。笑いあり、涙ありで、楽しみながらきつい練習でした。ここでもそれぞれチームワークを発揮してくれて、プレシーズンのハイライトのひとつになりました」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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