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サンウルブズが5季目終了。本当にもう終わるの?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
2018年のチーム。ファンとともに(写真:アフロ)

 国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦してきたサンウルブズは、残された試合に参加できなくなった。

 当初の予定では、同リーグへ参加できるのは今季までとなっている。

 スーパーラグビーは南半球を主体とした国際リーグ。今季は新型コロナウイルス(COVID-19)の流行に伴い3月下旬から中断を余儀なくされていたが、複数のチームを派遣するニュージーランド、オーストラリアではそれぞれ6、7月から国内戦のみの大会が実施される。

 もともとオーストラリアカンファレンスに属していたサンウルブズは同国の舞台への参加を目指していたが、同国政府は、比較的感染が拡大していた日本の選手らの入国を警戒した様子。同国ラグビー協会を通じ、個別の選手の移動歴などに関する質問を送付していた。そしてこのほど、同国ラグビー協会から正式に大会不参加の旨を通達された。リリースにはこうある。

『現在、COVID-19の感染拡大の影響に伴い、日本からオーストラリアへ入国できない措置がとられております。仮に入国が許可された場合でも、選手はトレーニングを開始する前にホテルの個室内で14日間の強制的な隔離が義務付けられており、さらに、チームが12週間滞在するための拠点(キャンプ地)を用意する必要があります。このような条件下で、JSRA(筆者注・サンウルブズの運営法人である一般社団法人ジャパンエスアール)はオーストラリアラグビー協会、SANZAAR(筆者注・スーパーラグビーを運営するサンザー)、そしてオーストラリア政府と協力し、サンウルブズが7月3日から始まるとされているスーパーラグビー オーストラリアに参戦するために、6月初旬までにオーストラリアに入国する準備に全力を尽くしてまいりました。しかしCOVID-19の影響は大きく、常に状況が変化する中、残された時間でサンウルブズが参戦できる条件が整わなかったため、7月3日からオーストラリアで試合を行うための準備が間に合わないという結論に至りました』

 所属選手はこの春、各々の出身国などへ戻り、個別調整をしていた。2016年度よりスーパーラグビーへ参戦してきたサンウルブズは世界的にも珍しい多国籍軍。これまで日本、韓国、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、ジョージア、アイルランド、サモア、トンガ、フィジー、アメリカ、アルゼンチンの選手とサインをかわしており、今季新加入したニュージーランド出身のベン・テオにはイングランド代表歴があった。

 サンウルブズの通算戦績は9勝58敗1引き分け。国内リーグと掛け持ちをする日本人選手に交代で休みを与えなくてはならないチーム事情から、防御やセットプレー時の連係が乱れることは少なくなかった。

 しかし、日本代表の候補選手に国際経験を積ませる機能を十分に果たしていた。

 特に2017年からの2シーズンは首脳陣や選手の大半、プレースタイルをナショナルチームと共有。2019年こそ日本代表側が別動隊を作った影響でチーム編成に四苦八苦したが、その年のワールドカップ日本大会で8強入りした日本代表メンバー31名のうち、2016年からの4年間で1度もサンウルブズの一員として公式戦を経験しなかったのは3名のみだった。

 さらに日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチが南アフリカ出身のピーター・ラブスカフニのリーダーシップに気づいたのは、サンウルブズを率いて自衛隊でのプレシーズンキャンプをおこなった2018年冬のこと。日本大会の期間中、日本代表の一員だったラブスカフニは本調子ではなかったリーチ マイケル主将に代わってゲーム主将を任されることがあった。

 スタンドでは「Awooon!」という狼の鳴きまねをする応援スタイルが定着。近年、集客に苦戦するスーパーラグビーにあってはビジネス面でのポテンシャルが期待されていた。「参加費の支払い不可」を表面的な理由に2020年限りでのサンウルブズのスーパーラグビー脱退が決まった際は、オーストラリアの加盟クラブの某ヘッドコーチは「ばかけた決定」と首を傾げた。

 当時の森喜朗・日本ラグビー協会名誉会長がサンウルブズの発足や活動に好意を抱いていなかったのは、周知の事実だった。日本国内で脱退が発表された2019年3月、この頃に同協会専務理事だった坂本典幸氏は、名誉会長だった森氏の存在とサンウルブズの撤退との関係性について問われて否定してはいたが…。

 一方、両氏が一線から退いた後、日本協会の会長になった森重隆は「除名と言われたけど、それがもとに戻れるように何か方法はないか」と、前体制とは異なる態度でサンウルブズと向き合ってきた。

 初代主将の堀江翔太は、2016年に長距離の移動や旅先での腹痛などに苦しめられたことなどを受け「1、2年目に苦しんで、できていないところを3年目に治す。これが文化じゃないですか」と総括したものだ。

 今季は、もともと決まっていた国内トップリーグの日程がスーパーラグビーのシーズンとほぼ重なっていた。そのためサンウルブズに加わった日本大会の日本代表選手はゼロ。開幕戦ではレベルズを下し白星を得たが、それは日本の大学生や新加入選手を中心としたタフな陣営で掴んだものだった。

 当初の予定ではもう、サンウルブズはスーパーラグビーに参加できない。ただし折からのウイルス禍により、スーパーラグビー自体の継続も流動的になりつつある。

 日本協会幹部の1人は、スーパーラグビーがニュージーランド、オーストラリアでの国内リーグを主体とした形に変わる可能性を指摘。もしもその国内リーグの上位チームがプレーオフをおこなうとしたら、その枠組みにサンウルブズ、もしくは日本代表に相当するチームを参加させられるのではとイメージする。

 複数の関係者は、SANZAARが日本で試合をした場合の経済効果を期待している点を指摘する。JSRAの財務状況など検討課題も多いが、5季目の参戦不可によってサンウルブズの終焉を告げるのは時期尚早でもある。

 2014年までに日本のスーパーラグビー参戦を決めてサンウルブズ誕生を後押しした岩渕健輔・現日本協会専務理事は、このように話している。

「国際カレンダーの再編等もあるので、この先に何か新しい展開があるのかも含め、考えていきたい。サンウルブズそのものも大切にしていきたいと思っています」

「いままでは、すでにできていた大会に乗っかるのが日本の立ち位置でした。でも、いまはコロナウイルスの影響で大会、インターナショナルのカレンダーを見直していて、スーパーラグビーもどうなるかわからない状況。ですので、そういった話し合いのなかに日本が最初から入って話をすることを、いましなければいけないと思っています」

 6月2日にはJSRAの渡瀬裕司CEO、チームを率いる大久保直弥ヘッドコーチが会見。経緯を話すとみられる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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