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サントリーで1年間出場停止中だった田村煕、雌伏の時を振り返る。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
2017年はサンウルブズの一員として、国際リーグのスーパーラグビーでもプレー。(写真:アフロ)

 2月17日に東京・江戸川陸上競技場でおこなわれたラグビーの試合で最も注目された1人は、田村煕だろう。

 来日中のシドニー大クラブと戦ったオール明治大学のスタンドオフとして、後半から出場。持ち前のスキルと周囲との連携で54-12での快勝劇を演出したのだが、ファンが注視した理由はこの日までの道のりにある。

 

 2017年度から東芝からサントリーに移籍した田村は、国内最高峰であるトップリーグの公式戦に出場できなかったのだ。シドニー大クラブ戦後、現在の思いを明かした。

 以下、単独取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――自軍グラウンドでの練習試合以外で試合をするのは、かなり久しぶりだったと思います。

「本当に楽しかったです。2018年の始まりの試合が明治大学のジャージィを着る記念の試合。呼んでもらえたのが嬉しかったですし、自分のチームで準備をしながら学生にもいいものを見せられるようにしたかったです。うまく、調整はできたと思います」

――打診は。

「(2017年度の)シーズンが終わって少し経ったくらいの時に、監督(明治大学の丹羽政彦監督。今年2月まで指揮)と沢木さん(サントリーの沢木啓介監督)から話がありました。(出場は)自分で判断して、しっかり準備してやれよと言われていた。怪我なくやれて、よかったです」

――相手の印象は。

「オール明治大学と違って、相手にはスーパーラグビーを目指している選手もたくさんいたと思います。彼らにとっては(将来の)契約に関わるセレクションのような試合。激しかったです。僕自身、そんなにコンタクトはしていなくても圧力は感じたので。学生にとってはいい経験だったと思いますし、僕らも何か(日本代表など)に選ばれないとこういった外国人のチームと試合をすることはできないので、よかったです」

 明治大学を卒業した2016年春から東芝でプレーも、わずか1年で退団。2017年度からはサントリーに加わったが、公式戦出場が叶わなかった。

 トップリーグの移籍規定に『前所属チーム(JRTL加盟チームであるか否かを問わない)を退部し、JRTLに加入する他チームへ移籍した選手は、JRTLが届けを受理した日より1年間公式試合には出場できない』という条項があり(JRTL=トップリーグ)、移籍元から移籍先へ「選手離籍証明書(リリースレター)」が出ない限りは新天地で1年間、プレーできないこととなっていたのだ。

 今回のケースでは東芝からサントリーへのリリースレターが発行されず、田村は「僕が東芝のスタッフの立場だったとしても…というものはありました」と移籍時のコミュニケーション不足を反省していた(参考資料)。

 話題は、雌伏期間をどう過ごしてきたかに転じた。

――サントリーで成長した実感は、ありますか。

「2連覇をしているチームなので、日々の練習のレベルが高くて学ぶことが多いです。ただ、試合に出ていないのでそこでの経験は積めていない。1年目の東芝ではほぼフルに出してもらっていたので(リーグ戦15試合中14試合に出場)、雰囲気、強度は大体、想像ができる。あとはサントリーのラグビーのなかに入った自分がどれだけやっていけるか。毎試合出たい気持ちはあったんですけど、日々の練習の映像、他のトップリーグの試合を照らし合わせながら(日々を過ごしてきた)。今シーズンは、楽しみな1年です」

――1月13日のプレーオフ決勝を観て感じたことはありますか。田村選手のプレーするスタンドオフには、オーストラリア代表103キャップ(国際真剣勝負への出場数)のマット・ギタウ選手が入り、パナソニックを12-8で下しています(東京・秩父宮ラグビー場)。

「まず、特別なことはしていなかった。決勝戦だからこれをする、といったような、いつもと違うことはしなかったです。いつも決勝をイメージしながらやっているので、(決勝でも)気負いをしていなかった。10番(スタンドオフ)に入っていたギタウは、あの時よりも大きな舞台もいっぱい経験していると思いますし、プレーも、判断も、本当にいつも通りでした。少しミスがあってもしっかり修正して、落ち着いてやるのが大事なんだなと感じました。準備がすごく、しっかりしていた」

――万全な準備をして試合に臨んでいるから、ギタウ選手はミスにも動じない。

「そうですね。あんなに小さい身体(身長178センチ、体重87キロ)でもオプションが多く、身体も張る。コスさんも然り、勉強になります(ちなみに田村は身長175センチ、体重85キロ)」

――「コスさん」とは日本代表34キャップのスタンドオフ、小野晃征選手です。こちらも身長171センチ、体重81キロと決して大柄ではありません。

「毎日、しっかりとコミュニケーションを取りながら、色々と教えてもらっています。練習中、(小野の)対面でアタックしている時も『ここはこうだね』とか『あそこはよかったよ』と話してくれるので、その場で(自分のプレーの詳細が)わかる。それで、練習後にビデオを観たら『確かにそうだな』となる。やりやすいです。日本のトップリーグで、こんなにいいスタンドオフが2人もいるチームはないと思います。しっかりとコスさんを抜けるように、毎日を過ごしたいです」

 日本ラグビー協会は、現在の移籍規定を見直す可能性を示唆している。その潮流について田村は「僕が言える立場ではないですが」と前置きをしながら、「ルールが見直されるのは前向きなことだと思います」と続ける。

 直近の自分と同じ状態になる選手はもう出てきて欲しくないとも思うし、万が一かようなケースに出くわしたら、「もしそれが明治大学の卒業生など身内に起こったら、自分がどういう1年を過ごしてきたかは言える」。歩んだ道に後悔はなかったと思うために、いまを懸命に生きる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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