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「審判を神にした日本ラグビー」と準決勝…ワールドカップ取材日記9【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
ニュージーランド代表が南アフリカ代表と。(写真:ロイター/アフロ)

ラグビーワールドカップのイングランド大会が9月18日~10月31日まであり、ニュージーランド代表が2大会連続3回目の優勝を果たした。日本代表は予選プール敗退も、国内史上初の1大会複数勝となる3勝を挙げ、話題をさらった。

以下、日本テレビのラグビーワールドカップ2015特設サイトでの取材日記を抜粋(9)。

【10月19~23日】

アパートから徒歩5分のカフェで原稿に追われます。同じものばかり頼んでいるからか、ある時期から注文を言わなくても「ラージ、ラテ、OK?」と向こうから問われる始末です。そのお店で配布される「10杯飲んだら1杯無料」のスタンプカードは2度ほど、満タンになりました。「無料」の1杯には、普段つけないホイップクリームをつけます。

オーストラリア代表とスコットランド代表との準々決勝に「誤審」があったというニュースが『Yahoo! トピックス』に表出。お、海外のラグビーもそんな風に取り上げられるようになったかぁ、とのんきに構えていたら、知人から「せっかくのブームに、ああいう解釈は…」とのラインを受け取ります。

そうです。あくまで建前上、ですが、ラグビーには「許容」「多様性」の文化があり、「誤審」という単語自体が競技にそぐわないのです。

もっとも、きれいごとばかり並べるのも性に合わないしなぁ。レフリーの話と言えば、あんな話やこんな話もあるじゃんか! …と、あれやこれや考えて書いた記事が『Yahoo! トピックス』に載りました。題して「審判を神にした日本ラグビー」。とにかく、多くの方の目に触れてありがたい限りです。

【10月24日】

朝、Facebookからいくらかのニュースをチェックします。

日本のメディアは、世相の興味に基づいて質問と原稿配信をするとされています。今日は、どんな世相が垣間見えるでしょうか…。

<ラグビー五郎丸、始球式でのポーズは封印「神聖な場所なんで」>

アパートに備え付けられた箱型のシャワールームを出て、約1週間ぶりにネクタイを締めます。この日はついに、ワールドカップの準決勝を取材します。ヴィクトリア駅を出て、地下鉄を乗り継いでリッチモンド駅まで。駅前から出ているメディアシャトルはやや渋滞に巻き込まれるも、約1時間前に会場のトゥイッケナムスタジアムに到着しました。メディアシャトルは、メディア用のチケットを渡す場所の近くで下車できます。すぐにチケットを受け取り、もはや、通い慣れた感すらあるメディアセンターへダッシュ…。

「Stop!」

あれ、僕、何かしましたか?

すると、呼び止めてきた係員の方が、僕の首から下げたメディアパスにシールを貼り付けます。「SF1(準決勝1戦目の意味)」と書かれていました。

メディアラウンジでチリコンカンときのこのクリーム煮を飯にのっけた料理を平らげ、グラウンドのプレスシートへ行きます。選手入場。花火が舞います。公式で「80090」人の観客は沸きます。そりゃ、そうです。普遍的な優勝候補同士の準決勝です。

キックオフ。

前半3分、南アフリカ代表が先制します。

敵陣22メートル線付近左でモールを押し込み、ニュージーランド代表の反則を誘い、スタンドオフのハンドレ・ポラードがペナルティーゴールを決めます。

しかし、続く6分、ニュージーランド代表が連続攻撃からトライを奪います。敵陣22メートルエリア右のラックから左へ展開。密集近辺で陣形を作るフォワード同士でパスをかわし、直進。すぐさま、右のスペースに居並んだ選手がパスを繋ぎます。最後は、タッチライン際のフランカー、ジェローム・カイノ選手が止めを刺しました。直後のコンバージョンもスタンドオフのダン・カーター選手が決めます。スコアは7―3となります。

ニュージーランド代表は、フェーズを重ねるごとに陣形を変え、消化不良を起こさずに球を回す印象。個々の基本技術(相手を引きつけて隣の選手にパスをする、とか)の高さと、戦術理解度の賜物でしょう。同国でプレーしていた田中史朗選手は、しばしこの国の強さを「判断」「コミュニケーション」というキーワードで語るものです。

もっともこの日は、南アフリカ代表も持ち味を出します。ニュージーランド代表が攻めを重ねるなか、ややサポートが薄くなった場所へ圧力をかけます。球を得ればモール、縦突進、キックの繰り返し。フィジカル勝負という自分たちの望む「世界」へ、相手を引きずり込もうとしています。スクラムも、概ね南アフリカ代表が優勢でした。フロントローが「イン組み」と呼ばれる角度をつけた組み方をしていますが、レフリーに「危険だからやめろ」と言われることなく押し続けています。

ニュージーランド代表もやや気圧されてか、前半のスコアは7―12。南アフリカ代表がリードして折り返しました。

総合力に勝るニュージーランド代表が負けるとしたら、相手の「世界」に引きずり込まれた場合。が、「世界」に引き込まれたニュージーランド代表は、土俵際で、持ちこたえます。

後半初頭から、キックの名手であるスクラムハーフのフーリー・デュプレア選手にえげつない圧力をかけます。前半は守備に難儀していたウイングのネヘ・ミルナーズカッター選手もナイフのカウンターを仕掛けます。

12分、敵陣ゴール前左。そこまで劣勢だった相手ボールのスクラムをこの時ばかりは押し込み、直後のフェースでターンオーバーを奪います。「コミュニケーション」と「判断」で空いたスペースに球を運び、右、左、右とジグザグに進路を取ります。最後は右中間から左大外へ回し、ミルナーズカッター選手に代わって登場したフルバックのボーデン・バレット選手がインゴールへ飛び込みます。カーター選手がコンバージョンも決め、スコアは17-12になります。

20-18と2点差を追う南アフリカ代表は、後半30分頃、敵陣ゴール前でモールを組むチャンスを得ます。強みを活かし、逆転なるか。が、ニュージーランド代表に一気に押し返されます。その周りの接点へもニュージーランド代表が鋭く刺さります。決してきれいな形ではありませんでしたが、どうにか、ニュージーランド代表がピンチを防いだのです。

ノーサイド。相手の強みにあおられ苦しい試合展開を強いられた前回王者は、結局、勝ち切りました。これで、今大会は残すところあと3試合になりました。

【10月25日】

この日もトゥイッケナムスタジアム。取材するのは準決勝第2試合、オーストラリア代表対アルゼンチン代表戦です。交通手段はナショナルレイル(国鉄)にしました。バスは渋滞で遅れる危険性があり。昨日の試合前にそう察したわけです。メディアルームに入る際、首から下げたパスに張られたシールは「SF2」でした。

「オーレ! オーレ! プーマース!」

公式で「80,025」名のスタンドが揺れます。2007年大会以来2度目の準々決勝進出に、多くのアルゼンチン代表のファンが集まっていました。愛称「ロス・プーマス」はスクラムを優勢に運びます。オーストラリア代表の主軸フルバックであるイズラエル・フォラウが孤立するや、そこへ一気に圧力をかけます。

球を持てば、快足ランナーの中欧突破でチャンスを作ります。が、その後が続きません。オーストラリア代表が、要所の接点での球出しを遅らせます。土俵際の粘り腰。

前半20分頃、アルゼンチン代表が敵陣ゴール前左でのラインアウトから、モールを組みます。が、オーストラリア代表のナンバーエイト、デイヴィッド・ポーコック選手らが塊に身体を差し込みます。ノートライ。この場面が、いくつかあるターニングポイントのひとつとなりました。オーストラリア代表は、前半32分、左右に振る攻撃の手際の良さも示しました。ウイングのアダム・アシュリークーパー選手がダイブ。ここでスコアは19―6。

終盤にやや停滞したオーストラリア代表ですが、29-15で勝利しました。

決勝戦は、ニュージーランド代表対オーストラリア代表となりました。絶対王者の黒に一丸の黄がどう挑むか。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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