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なぜレアルは強さを維持しているのか?ヴィニシウスの爆発…その陰にあるクロースとB・ディアスの活躍。

森田泰史スポーツライター
得点を喜ぶロドリゴとヴィニシウス(写真:ロイター/アフロ)

周囲のチームに、現実を見せつけている。

レアル・マドリーは、リーガエスパニョーラ第24節で、ジローナと対戦した。本拠地サンティアゴ・ベルナベウでのゲームで4−0と大勝して、首位争いをしていたジローナを蹴り落とした。

ミッドウィークには、チャンピオンズリーグのラウンド16が行われた。マドリーはアウェーでライプツィヒと対戦し、1−0で勝利している。

■突きつけられた難題

今季のマドリーは苦しい状況に置かれていた

マドリーは今季序盤にGKティボ・クルトワとエデル・ミリトンが立て続けに負傷。加えて、昨年12月のビジャレアル戦で、ダビド・アラバが負傷した。三者ともにひざの負傷で長期離脱を強いられ、カルロ・アンチェロッティ監督に“難題”が突きつけられた。

また、マドリーは2月1日のヘタフェ戦でアントニオ・リュディガーが筋肉系の負傷を負った。ただ、今季のマドリーは冬の補強を行わなかった。先のアトレティコ・マドリーとのダービーマッチでは、ダニ・カルバハルがセンターバックに。ジローナとの首位決戦においては、カルバハルとオウレリアン・チュアメニという、サイドバックとボランチを本職にする選手がCBを務めた。

だがマドリーは正念場を乗り切った。ダービーマッチをドローで終え、ジローナに快勝して、ライプツィヒに競り勝った。

ジローナに勝利したマドリー
ジローナに勝利したマドリー写真:ロイター/アフロ

「我々はマドリーに対して、正面からぶつかった。しかし、マドリーが高いレベルにある時、我々はそこまで到達できない。デュエルの場面では、マドリーが確実に優っていた。ヴィニシウスだったり、カマヴィンガだったり…。我々は、そのレベルになかった」

「それは我々に現実を見せてくれた。我々にとってのラ・リーガは、ここではない。マドリーは非常にハイレベルで、彼らのところに行くには、一歩か二歩、足りていない」

これはジローナを率いるミチェル監督の言葉だ。

■ヴィニシウスとベリンガムの爆発

守備陣には負傷者が続出した。一方で、攻撃陣は調子を上げてきている。その筆頭はヴィニシウス・ジュニオールとジュード・ベリンガムだ。

今季、負傷に苦しめられてきたヴィニシウスだが、2024年に入り9試合で6得点と気を吐いている。先のジローナ戦(1得点)、スペイン・スーペルコパのバルセロナ戦(3得点)とタイトルが懸かるような試合で爆発。マドリーで名選手が着けてきた“7番”に恥じないパフォーマンスを披露している。

ベリンガムは今季、公式戦29試合に出場して20得点をマークしている。リーガでは、20試合16得点で、ピチチ(得点王)ランキングで首位に立つ。ジローナ戦の負傷で数週間の離脱を余儀なくされたが、今季のマドリーで間違いなく攻撃の中心になっている。

■新たな戦術

マドリーは今季、【4−3−3】から【4−4−2】へと布陣変更を行った。中盤ダイヤモンド型のシステムで、トップ下にベリンガムを配置。その組み方で、ベリンガムの得点力をアップさせるというのがアンチェロッティ監督の狙いだった。

ただ、現在、そのシステムと戦術に、また変化が起きている。

アンチェロッティ監督は両ウィングにヴィニシウス、ロドリゴを据えている。そして、中央にベリンガムをファルソ・ヌエベ(偽背番号9/ゼロトップ)で置くようになった。中盤には、エドゥアルド・カマヴィンガ、トニ・クロース、フェデリコ・バルバルデが構える。【4−3−3】のトリプルボランチ&ゼロトップで、新たなチームが作りあげられた。

正確なパスを送るクロース
正確なパスを送るクロース写真:ロイター/アフロ

新たなシステムと戦術で、躍動している選手の一人がクロースである。

マドリーの中盤で、カマヴィンガとバルベルデというフィジカルベースの高い選手に支えられ、クロースは配球に専念できるようになった。時に“ダウンスリー”する形、時に左落ちする形で、積極的にビルドアップに参加してマドリーのボールの前進に貢献している。

新しいアプローチで恩恵を受けているのはクロースだけではない。他ならぬベリンガム、そしてブライム・ディアスのパフォーマンスが向上している。

シーズン半ばから守備力を担保するために左サイドに回されるようになったベリンガムだが、再び中央にポジションを移してゴール前での怖さを増している。

また、ベリンガムの代役として選ばれるB・ディアスは、そもそもミランでトップ下としてプレーしてブレイクした選手だ。ベリンガムのような役割を与えられ、前線で自由に動けるようになり、水を得た魚のようにプレーしている。シーズン序盤、控えの立ち位置だったB・ディアスだが、ここまで28試合に出場して8得点3アシストを記録している。

ベリンガムとB・ディアス
ベリンガムとB・ディアス写真:ロイター/アフロ

「今シーズンが、最高のシーズンかは分からない。だが、ポジティブなサイクルがあり、そういう意味では『イエス』と言えるかもしれない。このチームはソリッドで、モチベーションに満ちている。選手たちから不満は聞こえてこない。いろいろなことが起きたが、ここまでは順調にきている」とはアンチェロッティ監督の弁だ。

「マドリーで世代交代があるのは、当然だ。それを推進する必要はない。これまでも、レジェンドの選手が去り、また違う選手が加入してきた。大事なのは、ベテランの選手たちが、必要以上にエゴを持たないことだ。そうすれば、若い選手たちはうまく適応できる」

タイトル獲得に向けて前進するマドリー
タイトル獲得に向けて前進するマドリー写真:ロイター/アフロ

シーズンは長い。しかしながら、タイトルを決するような試合や時期というものは存在する。

まさに“ここ”という場面で、力を発揮できるかどうか。重要なのは、そのポイントだ。今季のアンチェロッティ・マドリーは、その勘所を押さえているように見える。負傷者トラブルやモチベーションのコントロールという自滅しがちな局面を越えて、マドリーは前進を続けている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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