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なぜシティが再びCLの“優勝候補”になっているのか?ハーランドの決定力と新戦力の台頭。

森田泰史スポーツライター
得点を喜ぶハーランド(写真:ロイター/アフロ)

マンチェスター・シティが、新たな挑戦に向かっている。

シティは、25日、チャンピオンズリーグ・グループステージ第3節でヤング・ボーイズと対戦する。昨季、クラブ史上初のチャンピオンズリーグ制覇を達成したシティにとって、重要な一戦だ。

■グアルディオラの戦術

悲願のビッグイヤー獲得を成し遂げたシティだが、昨季は内容・結果共に充実のシーズンだった。

プレミアリーグでは、1920年代から1930年代にかけてアーセナルが無類の強さを誇った。それはハーバート・チャップマン監督の戦術が抜きん出たものだったからだ。

チャップマン監督は【3−2−2−3】の布陣で戦っていた。いわゆる「WMシステム」は当時のフットボール界においては革新的なフォーメーションで、多くのチームがその対策に腐心した。

偽センターバックでプレーしたストーンズ
偽センターバックでプレーしたストーンズ写真:ロイター/アフロ

シティを率いるジョゼップ・グアルディオラ監督は昨季、奇しくも、チャップマン監督の布陣に似たシステムを採用していた。ジョン・ストーンズを“偽CB”として起用し、アンカーのロドリ・エルナンデスの横に配置。【3−2−2−3】を形成して、中盤で数的優位を保ちながらボールを前進させるアプローチを採った。

グアルディオラ監督は現役時代、バルセロナで【3−4−3】でプレーした過去がある。ヨハン・クライフ監督の下、「エル・ドリームチーム」と呼ばれたバルセロナは【3−4−3】だった。だが中盤がダイヤモンドの形だったため、ペップ・シティのそれはチャップマン型に近い。

■ハーランドと決定力のカバー

発明家(イノベーター)と称されるグアルディオラ監督にとって、大きかったのはアーリング・ハーランドの加入である。

シティは、それまでの数シーズン、ゼロトップで戦っていた。【4−3−3】で頂点にケヴィン・デ・ブ・ライネやベルナルド・シウバといった選手を据えて、ミドルゾーンでオーバーナンバーを作ることに専心した。しかし一方で、決定力不足や得点力不足に苦しめられ勝ち点を落とすゲームが少なくなかった。

そのような状況で、2022年夏に契約解除金6000万ユーロ(約80億円)を支払い、ハーランドを獲得。ハーランドはシティのファーストシーズンで、公式戦53試合に出場して52得点9アシストを記録。期待に応える活躍で、タイトル獲得に貢献した。今季は一時3試合連続無得点とゴール欠乏症に陥ったが先日のブライトン戦でネットを揺らして復調している。

■新戦力の台頭

そして、今夏、さらなる新戦力が到着している。シティはジョシュコ・グヴァルディオル(移籍金9000万ユーロ/約135億円)、マテウス・ヌネス(移籍金6200万ユーロ/約93億円)、ジェレミー・ドク(移籍金6000万ユーロ/約90億円)、マテオ・コバチッチ(移籍金2910万ユーロ/約43億円)を獲得した。

最も注目されたのはグヴァルディオルだ。

19歳でクロアチア代表のレギュラーに定着したグヴァルディオルは、欧州屈指のヤングタレントである。ルカ・モドリッチ(レアル・マドリー)がクロアチア代表でデビューした頃、グヴァルディオルは4歳だった。その2人が中心になり、カタール・ワールドカップではベスト4に進出。グヴァルディオル自身、非常に評価を高める大会になった。

ドリブルするグヴァルディオル
ドリブルするグヴァルディオル写真:ロイター/アフロ

グヴァルディオルは、ハリー・マグワイア(マンチェスター・ユナイテッド/移籍金8700万ユーロ/約131億円)を抜いて、史上最高額のDFになった。マタイス・デ・リフト、フィルヒル・ファン・ダイク、リュカ・エルナンデスといった選手よりも高額で、裏を返せば、それだけグアルディオラ監督が欲しかった選手だと言える。

シティは近年、守備陣の補強に注力してきた。ルベン・ディアス、ジョン・ストーンズ、マヌエル・アカンジ、アイメリック・ラポルト(現アル・ナスル)らの獲得に、およそ3億4400万ユーロ(約516億円)を投じている。そのリストに、グヴァルディオルが加わった格好だ。

■快速のウィンガーとドリブル

また、インパクトを残しているのはドクだ。

ドクはシーズン開幕当初、ジャック・グリーリッシュの控えだった。だが2ヶ月余りで、序列をひっくり返そうとしている。ドク(効果的なドリブル数/1試合平均10.02回)、グリーリッシュ(効果的なドリブル数/1試合平均3.73回)とスタッツ面ではグリーリッシュを上回っている。

「ドクの5メートルから6メートルのスプリント力はレロイ(・ザネ)やラヒーム(・スターリング)に近いものがある」とはグアルディオラ監督の評だ。「ドクはランスでプレーしていたので、3日ごとに試合があるのに慣れていない。それは頭に入れておく必要がある。彼自身、自分の身体について、もっとよく知らなければいけない。しかし、彼は非常に早くフィットした。ウィングの選手として、ファイナルサードで特別なものを持っている。我々はそれを活用したいと考えている」

シュートを打つドク
シュートを打つドク写真:ロイター/アフロ

「ドクは右サイドで完璧なプレーを見せられるだろう。左サイドでは、まだ完全には適応していないかもしれない。それでも、私は彼のインパクトに満足している。守備の時も賢くプレーしているし、攻撃に関してはクオリティを備えている。これはドクの今後の数シーズンの始まりに過ぎない」

■ロドリの不在と中盤の構成

シティの課題に触れるなら、それは中盤の構成だろう。とりわけ、ロドリの存在は大きい。ロドリを出場停止とローテーションで欠いた試合では3連敗を喫した。

シティはこの夏にイルカイ・ギュンドアンがバルセロナに移籍した。 また、デ・ブライネがシーズン序盤戦で負傷している。コバチッチやヌネスといった選手はロドリ不在の時にその穴を埋められるほどのパフォーマンスを披露できていない。

「シティが3敗したことで分かったのは、ロドリがいない時に、プレーを変えなければいけないことだ。そのバランスを見つけられていない」とは『ジ・アスレチック』のサム・リー記者の指摘である。

「少し距離を取って、分析をすべきだろう。ニューカッスル戦ではローテーションがあった。ライプツィヒ戦では、期待されていたようなパフォーマンスだった。ウルヴス戦では試合をコントロールできていなかった。アーセナル戦では、相手の守備を崩せなかった。だが問題はロドリの不在にあったと思う」

代えの効かない存在になっているロドリ
代えの効かない存在になっているロドリ写真:ロイター/アフロ

ロドリの穴をカバーする、というのはグアルディオラ監督の課題になるはずだ。それは中盤の構成の再考、を意味するものでもある。

とはいえ、シティには安定した強さがある。チャンピオンズリーグで、格の落ちるチームに足下を掬われるというのは考え難い。ハーランドの決定力、新戦力の台頭、そしてグアルディオラの戦術が、そのベースにある。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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