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ポゼッションの是非。カタールW杯で見えた、世界の戦術の潮流。

森田泰史スポーツライター
フランス代表の攻撃を牽引したエムバペ(写真:ロイター/アフロ)

フットボールは、スタッツだけで決まるものではない。

だが数字から浮かび上がってくる事実は存在する。少なくとも、ある種の傾向というのは読み取れる。

■猛威を振るうカウンター

カタール・ワールドカップでは、「カウンター」が猛威を振るった。

今大会において、全64試合中、ポゼッション率で上回ったチームが勝利を収めたのは25試合だった。ポゼッションを重視したチームの勝率は39%である。

ボールを握ろうとしたチームが勝つ確率は、4割を切っている。これは衝撃的なデータだ。

ボールをコントロールするブスケッツ
ボールをコントロールするブスケッツ写真:森田直樹/アフロスポーツ

スペイン、イングランド、ポルトガル…。多くのチームが、ボールを保持しながら主導権を握ろうとして、破れ去った。

スペインは、ロドリ・エルナンデスを「偽センターバック」で起用した。加えて、マルコ・アセンシオをゼロトップに配置。戦術的にも豊かだったチームは、しかしベスト16でモロッコに敗れている。

イングランドはハリー・ケインを中心にチームを作っていた。ケインは典型的な9番タイプというより、中盤に下がりつつゲームメイクに参加する。そういう意味では、アセンシオをゼロトップで使っていたスペインに似ていた。

ポルトガルはブルーノ・フェルナンデス、ベルナルド・シウバ、ジョアン・フェリックスといったタレントを抱えていた。大会途中にクリスティアーノ・ロナウドをスタメンから外すという大きな決断を下したが、準々決勝でモロッコに敗れ大会を後にした。

■ポゼッションの是非

スペイン(ポゼッション率77%)、イングランド(64%)、ポルトガル(61%)はボール保持において大会のトップ3に入っている。

一方、カタールW杯で躍進したモロッコ(38%)、日本(35%)のポゼッション率は非常に低かった。

決勝の舞台では、アルゼンチンがポゼッション率でフランスを上回っていた。アルゼンチン(ポゼッション率54%/パス本数635本)は試合内容でもフランス(46%/532本)に優っていた。キリアン・エムバペという怪物級の選手がいなければ、もっと容易にアルゼンチンが勝利していただろう。

なお、決勝に進んだ2チーム、アルゼンチン(57%)とフランス(51%)の大会全体でのポゼッション率は50%を超えている。

優勝したアルゼンチン代表
優勝したアルゼンチン代表写真:ロイター/アフロ

アルゼンチンはリオネル・メッシが攻撃の全権を担っていた。【4−3−3】【4−4−2】【3−5−2】と大会を通じてカメレオン的な変化を遂げたが、メッシを最前線に据えるという意味ではスペインのゼロトップに近く、それに付随してポゼッション率もある程度高かった。

決勝でゴールを決めたエムバペ
決勝でゴールを決めたエムバペ写真:ロイター/アフロ

フランスは大会直前にカリム・ベンゼマが負傷離脱するというアクシデントに見舞われた。ディディエ・デシャン監督は、エムバペを軸にすると決めた。中央にオリヴィエ・ジルー、右側にアントワーヌ・グリーズマンを据え、左サイドのエムバペで仕留めるパズルを完成させた。

2018年のロシアW杯で、優勝したフランスのポゼッション率は48%だった。それと比較すれば、今大会のフランスは、より攻撃に力を入れていたと言える。

■決定力の問題

ボールを保持していても、勝てない。もうひとつの問題は、決定力にある。

スペインは4試合でシュート数49本だった。イングランド(6試合/63本)、ポルトガル(6試合/66本)、ブラジル(5試合/96本)といったチームが、決定力を欠いて試合に敗れている。

なかでも、象徴的だったのがドイツだ。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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