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レアルのダブルボランチとチュアメニ・システム。「2人の司令塔」を生かす布陣と存在しない魔法。

森田泰史スポーツライター
得点を喜ぶモドリッチ(写真:ロイター/アフロ)

フットボールの世界に、魔法は存在しない。

昨季、チャンピオンズリーグを制したのはレアル・マドリーだった。決勝トーナメントに入り、マドリーはパリ・サンジェルマン、チェルシー、マンチェスター・シティを次々に撃破。その逆転劇は、世間で「ベルナベウの魔法の夜」と称された。

ボールをコントロールするフェルナンジーニョ
ボールをコントロールするフェルナンジーニョ写真:なかしまだいすけ/アフロ

しかし、現代フットボールは、魔法だけで勝てるほど甘くない。

マドリーの場合、勝利に向けた確固たるプラン、準備がある。カルロ・アンチェロッティ監督の頭の中には、常に明確なイメージが描かれている。

■カゼミロの放出とシステムチェンジ

マドリーは今夏、カゼミロを放出した。

その代役とされたのは、オウリエン・チュアメニだった。モナコから加入した22歳MFが、トニ・クロース、ルカ・モドリッチと共に中盤を形成する運びとなった。

ただ、チュアメニはアンカータイプの選手ではない。そもそも、【4−1−2−3】のアンカーを任せる上で、カゼミロ以上の選手はいない。

アンチェロッティ監督は、当初、カゼミロと同様にチュアメニを【4−1−2−3】のワンアンカーに据えていた。だがリーガエスパニョーラ第7節オサスナ戦で引き分けたのをきっかけに、ダブルボランチのシステムを試していく。

■異なるプレースタイル

チュアメニとカゼミロの決定的な違い、それは中盤でのカバーリング能力だ。

カゼミロは、ミドルゾーンを広範囲でカバーする。とりわけ、インサイドハーフの背後のスペースを「掃除」できるのが大きい。つまり、カゼミロは「横」に動き、アンカーの周囲をケアすることができる。

一方、チュアメニはカゼミロのように「横」には動けない。

これはチュアメニが悪い、という話ではない。カゼミロが異常なのだ。

チュアメニは「縦」には動ける。時に「CB化」して相手の攻撃を跳ね返す、あるいはバイタルエリアをケアする。ボランチの選手として、そのような能力は備えている。

しかし、横の動きーー特にマドリーで重要なIHの背後のカバーリングー−に関しては、現状、できていない。

■ダブルボランチ案

そこで、アンチェロッティ監督が考えたのが、ダブルボランチの採用だ。

ダブルボランチであれば、カゼミロが一人でカバーしていた範囲を、2人で担当できる。また、「チュアメニ+クロース」「チュアメニ+カマヴィンガ」のように、組み合わせの幅も広がる。

もうひとつ、ポジティブな要素がある。それは、逆説的に、アンカーシステムのチームに対して、プレスを嵌めやすくなるのだ。

クラシコを制したマドリー
クラシコを制したマドリー写真:ロイター/アフロ

これは先日のクラシコで見て取れた。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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