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「インテリオールのラテラル化」とは?スペイン代表に見る、新たな攻撃の創造方法。

森田泰史スポーツライター
ゴールを喜ぶモラタ(写真:ロイター/アフロ)

苦戦しながらも、ワールドカップ出場を決めた。

2022年のカタール・ワールドカップ出場に向けて戦っていたスペイン代表(ラ・ロハ)だが、最後まで苦しむことになった。欧州最終予選のグループBにおいてはスペインとスウェーデンが首位を争う展開となり、勝負の行方は最終節までもつれ込んだ。

カタールW杯に向けた欧州最終予選では、自動出場権を与えられるのはグループ首位のチームのみだ。グループ2位のチームはプレーオフに回り、来年3月に行われるプレーオフの準決勝と決勝で勝ち抜いて、ようやく本大会出場が決定する。

つまり、スペインにとって、スウェーデン戦は天国と地獄を分ける一戦だった。

■ガビの輝き

その試合で、輝きを放ったのが、ガビである。

今季彗星の如く現れたバルセロナのカンテラーノは、ビッグマッチで堂々たる振る舞いを見せた。17歳という年齢を感じさせず、中盤でセルヒオ・ブスケッツとカルロス・ソレールと連携した。ガビに象徴されるのは、ルイス・エンリケ監督のスペイン代表が“グループを重視する”という点である。以前、ジョルディ・アルバが「これまでにないくらいにロッカールームの雰囲気は良い」と語っていたように、その親和性が強さへと繋がっている。

また、スウェーデン戦、その前のギリシャ戦で印象的だったのがラウール・デ・トーマスの起用だ。エスパニョールで好調を維持しているストライカーは、代表では左WGとCFに据えられた。

いわゆる“9番”タイプの選手は、ある意味でスペインにおいて呪縛になってきた。フリオ・サリーナス、フェルナンド・モリエンテス、フェルナンド・トーレス、ジエゴ・コスタ…。歴代の指揮官は彼らをフィットさせるために腐心した。

スペインのCFとWGの動き
スペインのCFとWGの動き

しかし、解を見つけられたのはF・トーレスを起用したルイス・アラゴネス監督とビセンテ・デル・ボスケ監督くらいで、その他は常に「ポゼッション×背番号9」の問題に悩まされてきた。

L・エンリケ監督がデ・トーマスやアルバロ・モラタに求めたのは、万能型FWの動きだ。ポストワークと裏抜けをバランス良くこなすプレーである。

ただ、それだけではなく、CFが中盤に降りていく時は、WGがディアゴナルランでスペースに走るというのを一つの約束事にした。

スウェーデン戦のラウール・デ・トーマス
スウェーデン戦のラウール・デ・トーマス写真:ロイター/アフロ

これはバスケットボールで言うところの「ペネトレイト」だ。つまり、攻撃時に次の展開を広がるためにパスやドリブルを用いることを意味する。L・エンリケ監督はバルセロナ時代からバスケットボールを戦術に採り入れていた指揮官である。そこを踏襲して、スペイン代表にも応用している。

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■インテリオールのラテラル化

もうひとつ、スペインの武器を挙げるなら、それは左サイドの攻撃だ。

アルバ(左SB)、ガビ(左インテリオール)、ダニ・オルモ(左WG)。この3選手が流動的に動きながら、サイドのスペースを攻略していく。

その時、起きるのは、「インテリオールのラテラル化」だ。インサイドハーフの選手が、サイドバックになる。具体的には、ガビが左SBの位置に落ちる。アルバが高い位置を取り、オルモが左のハーフスペースに入る。これによって、対戦相手の守備陣形が崩れる。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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