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なぜレアルはジダンの続投を”決定”しないのか?マルセロとの「確執」にC・ロナウドが抜けて失われた調和

森田泰史スポーツライター
選手に指示を出すジダン監督(写真:ロイター/アフロ)

落ち着いた時間は、最後まで過ごせそうにない。

リーガエスパニョーラは佳境に入っている。今季はアトレティコ・マドリー、バルセロナ、マドリーがシーズン終盤まで優勝を争う展開で、例年以上に盛り上がりを見せているところだ。

ボールをコントロールするマルセロ
ボールをコントロールするマルセロ写真:なかしまだいすけ/アフロ

だがリーガ第36節グラナダ戦を前に、驚きのニュースが飛び込んできた。ジネディーヌ・ジダン監督がマルセロと衝突して彼を招集外にしたというのだ。

2020-21シーズンは、マドリーにとって厳しい一年となっている。負傷者と新型コロナウィルスの陽性反応者が続出して、ジダン監督は思うようにチームビルディングを行うことができなかった。グラナダ戦でもダニ・カルバハル、ルーカス・バスケス、セルヒオ・ラモス、フェルラン・メンディ、ラファエル・ヴァランが負傷で起用不可能だった。

そういった状況に顧みれば、マルセロが招集メンバー入りしなかったのは、不可解でしかなかった。

■ジダンの信頼と中盤の構成力

とはいえ、ジダン監督がまったく選手を信用していないわけではない。今季のマドリーを支えてきたのは、中盤の構成力だ。カゼミーロ、ルカ・モドリッチ、トニ・クロースのトライアングルは依然として存在感を放っている。

クロースは第35節セビージャ戦で2得点をお膳立てし、リーガで55アシスト目を記録した。2014年夏にバイエルン・ミュンヘンからマドリーに移籍して以降、リーガ(今季第35節終了時点)でクロース以上にアシストを記録しているのはリオネル・メッシ(98アシスト)とルイス・スアレス(71アシスト)のみである。

メッシとスアレスに関しては、バルセロナ在籍時の補完関係が完璧だった。メッシ(スアレスに32アシスト)、スアレス(メッシに34アシスト)と相思相愛のパートナシップで得点を量産していた。一方でクロースは、カリム・ベンゼマへの7アシストをはじめ、ガレス・ベイル(8アシスト)、クリスティアーノ・ロナウド(8アシスト)、セルヒオ・ラモス(8アシスト)、カゼミーロ(5アシスト)と満遍なくパスを捌いてきた。

加えて、クロースはコーナーキックから、22アシストを記録している。「僕がゴール前に入っていかなければいけないね。クロースが、すごく良いボールを蹴ってくれるから。彼はまるで手で投げているように、正確なポイントにキックすることができる」とはカゼミーロの弁である。

マドリー・カスティージャで指揮を執るラウール監督
マドリー・カスティージャで指揮を執るラウール監督写真:ムツ・カワモリ/アフロ

今季終盤戦までタイトル獲得の可能性を残してきたマドリーだが、その一方でリーガの結果次第では無冠に終わるかもしれない。俄に騒がれ始めているのが、ジダン監督の続投問題だ。先述したマルセロのケースのように、指揮官と選手たちとの不和が取り沙汰されている。

スペイン『マルカ』のアンケートでは、「今季終了時にジダンがどうするかと思いますか?」の問いに、「どんな結果でも続ける」(41%)と「無冠だったらクラブを去る」(59%)と意見が分かれている。7万2362票(本稿執筆時点)で、およそ6割がタイトル奪取の必要性を訴えているのだ。

ラウール・ゴンサレス、マッシミリアーノ・アッレグリ、ヨアヒム・レーブ...。次期監督の候補は挙げられてきている。

なお、マドリーとジダン監督の契約は2022年夏までとなっている。「クラブにとって、難しくなるような真似はしたくない」とはジダン監督の言葉だ。「レアル・マドリーは今後もチャンピオンズリーグで優勝を争い続けるだろう。私の頭にあるのは、リーガの残りの試合のみ。それ以外のことは、周囲が勝手に話しているだけだ」

「チャンピオンズリーグは(ベスト4まで勝ち進んで)良い戦いができたと思う。あとは、リーガだ。我々は決してタオルを投げたりしない。ベストな形でシーズンを終えられるように全力を尽くす」

CL3連覇に貢献したクリスティアーノ・ロナウド
CL3連覇に貢献したクリスティアーノ・ロナウド写真:ムツ・カワモリ/アフロ

2015-16シーズン、2016-17シーズン、2017-18シーズン、マドリーはチャンピオンズリーグで3連覇を成し遂げた。

「ジダンは賢い方法でチームをまとめ上げていた。フットボーラーというのは、常に試合に出ることを望むものだ。そういった選手たちをマネジメントするのは簡単ではない。でも、ジダンはインテリジェントだった。すべての選手をコミットさせていた」

そう語っていたのは、C・ロナウドである。彼を頂点にしたヒエラルキーは、ある種、ピッチ内外で奇跡のバランスで成り立っていた。しかしながら、C・ロナウドが去って以降、ジダン監督とマドリーはその穴を埋められず、美しいハーモニーを奏でられていない。

ラ・デシマを達成したカルロ・アンチェロッティでさえ、その次のシーズンで無冠に終わり、マドリーを去っている。確約されているものは、何もない。それがレアル・マドリーというクラブである。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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