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ジダンは「神童」ウーデゴールを手放してしまうのか?ちらつくアーセナルの影と、崩れたプランニング。

森田泰史スポーツライター
ボールを運ぶウーデゴール(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

若くして将来を嘱望される選手は、時に「神童」と呼ばれる。

15歳で、彼の名前はメディアに大々的に取り上げられた。当時、マルティン・ウーデゴールの名を聞かなかった者はいないだろう。次のスターになる選手。まるで運命が決定づけられているかのように、周囲はウーデゴールへの関心を強めていった。

メディア受けするだけではなく、実際に複数のビッグクラブがウーデゴールに食指を動かしていた。バイエルン・ミュンヘン、マンチェスター・ユナイテッド、リヴァプール...。だが獲得レースを制したのは、レアル・マドリーだった。

2015年1月30日のスペイン『マルカ』紙の表紙に、「ニーニョ・プロディヒオ」という見出しが躍った。まさに「神童」という意味だ。セルヒオ・ラモスやマルセロらと一緒にトップチームの練習に参加したウーデゴールの写真を載せ、マドリーのウーデゴール獲得を歓迎していた。

ノルウェー代表のウーデゴール
ノルウェー代表のウーデゴール写真:アフロ

15歳117日で、ストレームスゴトセトでトップデビューを飾った。

15歳253日でのプロ初ゴールは、1910年以来の母国リーグにおける最年少得点記録更新だった。15歳297日でA代表デビューを飾り、爆発的な勢いで成長していた。

そして、16歳になり、プロ契約が可能になったところで、マドリーが獲得を決めた。当初、マドリーはウーデゴールに経験を積ませるためBチーム相当のマドリー・カスティージャでプレーさせる予定だった。その時、カスティージャで指揮を執っていたのが他ならぬジネディーヌ・ジダン監督である。ウーデゴールはジダン監督の下、カスティージャのファーストシーズンで25試合に出場した。

2014-15シーズンの終盤戦に16歳157日の若さでカルロ・アンチェロッティ当時監督の下でトップデビューを果たし、少しずつ階段を上っていた。

ヘタフェ戦でトップデビュー
ヘタフェ戦でトップデビュー写真:ロイター/アフロ

父親のハンス・エリック・ウーデゴールは、マルティンと同じくプロのフットボーラーだった。父の「英才教育」は7歳から本格的にスタートし、週に20時間以上のトレーニングを欠かさなかったという。ハンス・エリックは語る。

「私がまだ現役の選手だった時の話だ。マルティンは8歳くらいだったと思う。私はピッチでランニングをしていた。終わって帰ろうとしたが、無理だった。マルティンがトレーニングしていたからだ。それから彼が50本のシュートを放ち、ようやく帰路に着いた。そこで私は彼が素晴らしい選手になると確信した」

■オランダで武者修行

カスティージャでプレーを続けていたウーデゴールだが、トップの壁は厚かった。そして、2017年1月にオランダのヘーレンフェーンへのレンタル移籍を決断する。

ヘーレンフェーンでは、公式戦43試合に出場して3得点5アシストを記録。2018年夏に再びレンタルでフィテッセに加入すると、そこでは公式戦39試合に出場して11得点12アシストを記録した。

2019年夏、ウーデゴールのリーガエスパニョーラ復帰が決まる。ただ、行き先はマドリーではなく、レアル・ソシエダだった。

「ラ・レアル」の愛称で親しまれるレアル・ソシエダはカンテラを重視し、若手育成に定評があるクラブだ。近年でいえば、その筆頭はミケル・オジャルサバルだろう。ラ・レアルの生え抜きで、いまやスペイン代表に定着している。バルセロナやマンチェスター・シティといったビッグクラブが狙うアタッカーに成長した。

そのラ・レアルでウーデゴールは36試合に出場して7得点9アシストを記録。チームのヨーロッパリーグ出場権獲得とコパ・デル・レイ決勝進出に貢献した。

「マルティンチョ」というニックネームをつけられ、ウーデゴールはバスクの地で充実の時を過ごしていた。レンタル期間は2年の予定だった。だが新型コロナウィルスの影響で、そのプランは崩れることになる。

■崩れたプランと予想外の復帰

この夏、マドリーは補強を敢行しなかった。フロレンティーノ・ペレス会長は、コロナ禍で圧迫された財政と2022年夏のお披露目に向けて改修工事を行っている本拠地サンティアゴ・ベルナベウを考慮して出費を避けようとしていた。

ウーデゴールのレンタルバックは大きなメリットをもたらすはずだった。カゼミーロ、トニ・クロース、ルカ・モドリッチと高齢化する中盤に新鮮な空気が吹き込まれるはずだったのだ。

だがジダン監督はウーデゴールを重宝しなかった。度々、負傷離脱を強いられた経緯はある。だが出場時間367分ではウーデゴールは納得できなかった。

ウーデゴールは今冬の移籍市場での移籍に傾いている。レアル・ソシエダやアーセナルが獲得に乗り出そうとしている。

「ウーデゴールは自分を信じている。新しいリーグに行き、最近の試合では勝利して順位を上げたが、例年の成績は芳しくないチームに行く可能性がある。素晴らしい監督がいる。私はミケル・アルテタを評価している。彼が提唱しているスタイルは好ましいものだ」とはノルウェー代表のストーレ・ソルバッケン監督の言葉だ。それはウーデゴールのアーセナル移籍を予感させる。

一方、ラ・レアルはウーデゴールの復帰を間違いなく歓迎するだろう。今季、ダビド・シルバの加入で穴を埋めたが、34歳という年齢で負傷に苦しめられている。D・シルバのいないラ・レアルは別のチームになってしまう。

輝かしい未来を約束され、ウーデゴールは常に期待と重圧に苛まれてきた。だが、彼はまだ22歳。これから、いくらでもピッチ上で自身の価値を証明するチャンスは訪れる。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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