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チミー・アビラの半生と、タフな心。得点で命令権を得た「司令官」と呼ばれる男。

森田泰史スポーツライター
チミー・アビラ(写真:ロイター/アフロ)

好事魔多しーー。絶好調だったストライカーを、負傷が襲った。

リーガエスパニョーラが21試合を消化したところで、首位を争っているのはバルセロナとレアル・マドリーだ。気付けば、「いつもの展開」になっているが、得点ランキングを見ると、興味深い事実が浮かび上がる。

リオネル・メッシ(バルセロナ/14得点)、カリム・ベンゼマ(マドリー/12得点)、ルイス・スアレス(バルセロナ/11得点)という「2強」のゴールスコアラーに、チミー・アビラ(オサスナ/9得点)らが続いている。1部昇格組のオサスナのエースが、上位に堂々と名を連ねている。

素晴らしいプレーを見せていたアビラだが、アクシデントに見舞われる。リーガ第21節レバンテ戦で、左ひざ十字じん帯を損傷。4カ月から6カ月の離脱が見込まれている。

■全身全霊で挑む選手

25歳のルイス・エセキエル・アビラは、今季開幕前にオサスナに加入。「チミー」の愛称で親しまれるストライカーはヤコバ・アラサテ監督の下、オサスナで欠かせない選手となった。

171cmと、センターフォワードとしては小柄だ。だが、体躯に恵まれたFW以上に馬力がある。丸太のような太ももにはタトゥーが刻まれ、相手選手と激しく競り合うたびに、隆々とした筋肉が露わになる。

アルゼンチン人のチミー・アビラは、セルヒオ・アグエロ(マンチェスター・シティ)を彷彿とさせるところがある。現在のリーガでは、スアレスのような選手と言えるだろうか。アグエロやスアレスのような器用さはないが、その分、泥臭さがある。

一つ一つのデュエルに、全身全霊を懸けて挑む。そういった労を、まったく惜しまない。自分のゾーンに来るボールの一球一球が、勝負だと考えているからかもしれない。

チミー・アビラには、フットボールの世界で成功する必要があった。幼い頃に、両親が離婚。母親が9人の子供を育てた。「友達が夜遊びに出掛ける中で、僕は6時に起きて練習に行かなければいけなかった」と彼は回想する。生活は苦しく、一時は煉瓦(タイル)職人として働くなど、生きるために2年間フットボールから離れなければいけなかった。

■再び司令官の勇姿を

転機が訪れたのは2015年だ。サン・ロレンソ・デ・アルマグロが、チミー・アビラ獲得に動いた。

プロ選手として階段を上り始めたチミー・アビラは、2017年夏にウエスカに1年レンタルの契約で移籍する。ウエスカの1部昇格に貢献すると、レンタル期間が1年延長された。

スペインでの2年間のプレーは、チミー・アビラの評価を高めるのに十分だった。今季開幕前にオサスナが移籍金270万ユーロ(約3億円)をサン・ロレンソに支払い、完全移籍で彼を獲得した。

ウエスカでも、オサスナでも、愛される選手になった。オサスナの街には、ボクサーの格好をしたチミー・アビラのポスターが貼られている。『司令官』というニックネームがつけられている彼は、ゴール前でボールを呼び込み、得点という結果で命令権を手にしてきた。

「大事なプロセスが始まる。とてもタフだと思うけれど、自分の人生を顧みれば、ただの一つの障害だ。サポートと愛情を示してくれたみんな、本当にありがとう!僕は必ず強くなって帰ってくる!」とチミー・アビラは負傷後に語っている。

負傷したレバンテ戦で、担架に運ばれるのを、彼は一旦拒否した。歩いてピッチを後にしたい。そういった思いが、伝わってくるようであった。「チミー!チミー!」の大声援が、本拠地エル・サダールにこだましていた。チミー・アビラの勇姿が再び見られることを、フットボールの世界は心待ちにしている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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