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新生アトレティコと、ジョアン・フェリックスの存在感。シメオネの3トップへの挑戦。

森田泰史スポーツライター
ドリブルするジョアン・フェリックス(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

アトレティコ・マドリーが、新たな試みに挑戦している。

アトレティコは今夏アントワーヌ・グリーズマンをバルセロナに、ロドリ・エルナンデスをマンチェスター・シティに引き抜かれた。得点源と中盤の核を失い、ディエゴ・シメオネ監督の頭痛の種が増えた。

それだけではない。ディエゴ・ゴディン、フアンフラン・トーレス、フェリペ・ルイス、ルカ・エルナンデスが退団した。ディフェンスラインを丸ごと入れ替える必要性に迫られた。

だが、ピンチは常にチャンスになり得る。シメオネ監督が検討しているのは、システム変更の可能性だ。

■3トップへの挑戦

「就任してから、2つのシステムを機能させるために働いてきた。4-4-2と4-3-3だ。コスタはコパの決勝でファルカオ、アルダと3トップを組んだ。リーガで優勝したシーズンにおいても、4-3-3を何度か使用した」

「いま、我々には、3トップでプレーするための選手が揃っている。コレア、カラスコ、グリーズマン...。次の試合でも使うかもしれない」

これは2015ー16シーズン序盤戦のシメオネ監督の言葉である。指揮官は、かつて、布陣変更にチャレンジしていた。

当時、最終的にシメオネ監督が選んだのは4-4-2だった。ただ、15-16シーズンのアトレティコはバリエーションのある戦い方で、チャンピオンズリーグ準優勝、リーガエスパニョーラ3位、コパ・デル・レイでベスト8という成績を残している。グリーズマンは公式戦32得点(リーガ22得点)でチーム内得点王となり、アトレティコにおける地位を確立した。

一方で、システムチェンジには犠牲が伴った。カンテラーノの最高傑作といわれたオリベル・トーレスが、弾かれてしまったのである。ポルトからのレンタルバックで10番を与えられたオリベルだが、システム変更と守備に対する戦術理解不足からポジションを失い、アトレティコから去る結末を迎えた。

■新戦力

この夏、8人の新戦力がアトレティコに到着している。

アトレティコは21歳のレナン・ロディ、24歳のマリオ・エルモソ、28歳のキーラン・トリッピアー、30歳のフェリペ・モンテイロを獲得した。守備陣の平均年齢は30.7歳から25.7歳になった。

主力の高齢化に歯止めをかけ、若返りに成功したと言える。加えて、指揮官の頭の中にあるのがシステムチェンジの再挑戦であり、ジョアン・フェリックスの加入でその目処が立った。1億2600万ユーロ(約150億円)の移籍金で加入した19歳のアタッカーを、シメオネ監督は複数ポジションで起用する考えだ。その多目的性はシメオネ好みのものである。

インターナショナル・チャンピオンズカップのレアル・マドリー戦で、4-3-3が使われて選手たちは躍動した。前線にジエゴ・コスタ、アルバロ・モラタ、ジョアン・フェリックスが並ぶ。中盤にサウール・ニゲス、コケ、トマ・レマルが入る。最終ラインにトリッピアー、ステファン・サビッチ、エルモソ、ロディが、GKにヤン・オブラクが据えられた。結果は、7-3の勝利。想像以上の出来だった。

ただ、シメオネ・アトレティコには、「1-0の美学」がある。2018-19シーズン、リーガにおいてアトレティコが1-0で勝ったのは8試合だ。失点をゼロに抑えるというのは、アトレティコにとって必要不可欠である。2011-12シーズンの途中に就任したシメオネ監督だが、2012-13シーズン以降、6度、リーガ最少失点チームとしてシーズンを終えている。

■築かれるベース

また、ロドリの不在は大きいだろう。ロドリは2018-19シーズンのリーガで、34試合に出場してボール奪取数280回とパス成功本数1753本を記録。ボール奪取数においてはチーム1位だった。2017-18シーズン、ガビ・フェルナンデスが、34試合に出場してボール奪取数235回、パス成功本数1463本という数字を記録したが、ロドリの存在感はガビ以上だったのだ。

それでも、この夏のプレシーズンの成果は著しい。昨年夏はインターナショナル・チャンピオンズカップのためにシンガポールに赴き、アーセナル、パリ・サンジェルマンと対戦。その後、最終調整の目的でイタリアでキャンプを行った。不慣れな場所と日程で夏を過ごしてシーズン序盤戦で負傷者が続出した。

しかしながら今年は例年通りアメリカのロサンゼルスにあるサン・ラファエル練習場に赴き、「プロフェ・オルテガ」の愛称で親しまれる敏腕のフィジカルトレーナー、オスカル・オルテガの下でみっちりと鍛えた。フィジカルトレーニングに注力する日々を過ごしてコンディションを整えている。

そしてセルヒオ・カメジョやロドリゴ・リケルメをはじめ、カンテラーノがプレシーズンで台頭した。競争の激化と新陳代謝。それはシメオネ監督を喜ばせている。

だがシメオネ監督は「試合から試合へ」の姿勢を崩そうとしない。彼の頭にあるのは、リーガ開幕節のヘタフェ戦のみ。そこで誰が選ばれ、どのようなシステムで戦うのか。新生アトレティコのベースが、そこにあるはずだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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