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「爆発」の下地は整った。走り続ける乾貴士がエイバルで掴んだ愛。

森田泰史スポーツライター
左右両サイドで質の高いプレーを見せる乾(写真:ムツ・カワモリ/アフロ)

ベンチサイドで、第4審判が電子ボードを掲げる。「8」の数字が示されて乾貴士が足早にピッチを去ると、嵐のような拍手がスタジアムを揺らした。

海外移籍を果たした選手は、当然ながら現地で「助っ人外国人」として期待される。結果を出せなければ、時には容赦なく叩かれる。だが乾が、エイバルファンのハートをがっちりと掴んでいるのは、確かだ。

■バスク・ダービー独特の雰囲気

エイバルは27日のリーガエスパニョーラ第2節、本拠地イプルーアにアスレティック・ビルバオを迎えた。開幕から2試合目での、バスク・ダービー。両チームのファンが、試合前からごった返す。アウェーチームのバスが到着した東スタンドの入り口付近では、血気盛んな野次馬が息巻いていた。

ダービーが醸し出す独特の雰囲気。地元民にとっての一大イベントを前に、エイバルファン歴44年のフアンさんは乾について、語ってくれた。「彼はピッチ上の労働者だ。エイバルの人っていうのは、働き者なんだ。だから僕たちは彼を応援したくなる」。左サイドを何度も駆け上がる乾に、胸を熱くしているという。

「タカシはシャイだし、スペイン語を学ぶのにも苦労していると思う。だけど、チームメートとの仲もすごく良さそうだよね」と続けたフアンさんは、「日本人である彼は真面目で、働き者で、責任感が強い。そういうタイプの人間は、ここエイバルではすごく好かれるんだよ」と教えてくれた。チームのために労働を厭わない姿勢。それが乾とエイバルファンの心をつないでいる。

■移籍3年目にして爆発の予感

2015年夏にドイツからスペインへと渡った乾は、今季エイバルで3年目を迎える。どうやら、彼の爆発を予感するファンもいるようだ。

「ハードワークしない選手なんて、エイバルには不要だよ」と話すアイトールさんは、ファン歴65年という重鎮だ。「タカシはナイスガイだよ。チャーミングなところもあるね」と前置きしながら、「移籍3年目の今シーズンは、彼の年になるだろう。ここ2年、彼は成長してきた。今シーズン、彼は爆発する。十分に成熟して、爆発する下地は整っている」と話し、次のように続けた。

「タカシはボールを支配しているね。それでいて、するべきプレーを心得ている。フットボールを理解しているな、と思うよ。エイバルの人は、ずる賢いところもあるけれど、勤勉だ。だから、ピッチであれだけ走るタカシは、この土地にうまく合っている。ここの人たちは彼を愛しているよ」

多くの人が乾を高く評価する中、手厳しい意見もあった。エイバルファン歴63年のハビさんは、「試合によっては消えてしまっている時がある」と乾の弱点を鋭く指摘している。

「絶好調時のタカシは、最高だよ。俺たちに、本当にいい思いをさせてくれる。だけど、消えてしまっている時があるのも事実さ。もちろん、彼だけじゃなく、すべてのサッカー選手がそれに陥るものだけれどね」

■イプルーアを沸かせる乾

エイバルがアスレティックに0-1と敗れた試合で、イプルーアを沸かせたのは乾だった。

18分、右サイドから送られてきたボールに反応した乾は、前方にスペースがある状態でペナルティーエリア内に入る。だが芝生に足を取られ、チャンスを不意に。苛立つように地面を蹴り上げた乾に、スタンドから「タカ!」という大きな励ましの声が掛けられた。

後半に入り、左サイドから右サイドに主戦場を移した乾は、57分に再び魅せた。ボールに食い付いたエンリク・サボリトをあざ笑うが如く、軽やかなターンで縦へと抜き去る。スタジアム全体に「オォオッ」と響きが上がり、乾には喝采が送られた。そして乾は62分にセルジ・エンリクと交代でピッチを退いている。

余談になるが、この試合前、あるアスレティックファンが筆者に向かって「タカシ・イヌイ!」と叫んできた。茶化すような意味合いで言ったのかもしれない。だが気分を害するはずなどない。その掛け声は、中国人を意味する「チーノ!」や、日本人を意味する「ハポネス!」より、ずっといいものだ。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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