バルベルデ新監督が誕生間近も。バルセロニスモが抱く“指揮官シャビ”への郷愁。
今年2月、ルイス・エンリケ監督が今季限りでの退任を表明した。バルセロナはそれ以降、後任人事に考えをめぐらせ続けている。
バルセロナは今季、チャンピオンズリーグでユヴェントスに敗れて準々決勝敗退が決定。リーガエスパニョーラではレアル・マドリーに優勝を譲り、決勝に勝ち進んでいるコパ・デル・レイのタイトルがスペイン主要大会の戴冠の唯一の望みだ。
ジョルディ・メストレ副会長は先日、新監督について「数週間以内に決定する」と見込みを話していた。一方で「今季終了時まで発表はない」と付け加え、各メディアは“推測”に躍起になっているところだ。
■後任候補の条件とは?
バルセロナ寄りのスポーツ紙『ムンド・デポルティボ』『スポルト』では、これまで何人もの後任候補が挙がってきた。L・エンリケ監督の下でアシスタントコーチを務めてきたカルロス・フアン・ウンスエ氏、アスレティック・ビルバオのエルネスト・バルベルデ監督、エヴァートンのロナルド・クーマン監督、PSVのフィリップ・コクー監督、昨季までパリ・サンジェルマンを率いたローラン・ブラン氏...。
現時点でポールポジションに立つのは、バルベルデ監督だ。アスレティックが23日に同監督の退任を表明したことで、バルサ行きは決定的だといわれている。
この新監督候補たちには、ある共通項がある。バルサでのプレー、あるいは指導を経験したことがある、ということだ。
だがバルセロニスタの本音を探れば、ある地元出身の選手の帰還を望むと答えるのではないか。その名は、シャビ・エルナンデス。2年前の夏にバルセロナを去った、「バルサの頭脳」と呼ばれた男である。
なぜシャビの指揮官就任が望まれるかと言えば、彼は故ヨハン・クライフ氏、ジョゼップ・グアルディオラ監督(現マンチェスター・シティ)の系譜を継ぐ者だからだろう。
バルサはクライフ氏の指導の下、1990年代初期にリーガ4連覇を達成し、クラブ史上初めて欧州の頂に立った。“エル・ドリームチーム”と称された第一次黄金期に、中盤の底を務める「4番」のポジションでプレーしていたのはグアルディオラだ。そして彼は2008年に監督として戻ってくる。そこからの4年間で実に14個ものタイトルを獲得し、第二次黄金期を謳歌した“ペップ・チーム”で中盤に君臨していたのが、シャビだった。
シャビはペップ政権下で「6番」を務めていた。現地でインテリオールと呼ばれる中盤の前目のポジションで、バルサではトップ下としての機能も果たすが、ポゼッションを命とするチームでタクトを振るう役割を担っていた点は同じだ。「美しく勝利せよ」。クライフの口癖だったこの言葉を、11歳からバルサのカンテラで過ごしていたシャビが体現できないはずはない。それがバルセロニスタの考えだ。
■受け継がれるクライフの遺産
現在カタールのアル・サッドでプレーを続けるシャビは、あるインタビューでこう話している。
「僕は自分がピッチのそばにいることを望んでいると気付いたんだ。芝の近くにいて、その匂いを嗅いで...。ある時、クライフに言われたことがある。『一番良いのはプレーすることだけど、君はいつか監督になる』ってね。その時の僕はバリバリの現役選手だったから、『それはないよ』と答えたんだけど。それが今は、監督業に就くことを検討し始めている」
「もし自分がバルサの監督になったら...めちゃくちゃすごいことだよ。いろいろな要因があって、懸念材料は少なくない。実際、難しい。けど僕は希望を抱いている。いつかバルサで働くという希望をね」
バルサは昨年夏、シャビにセグンダ・ディビジョンB(実質3部)で戦うBチームでの監督を任せるオファーを出していたと伝えられている。だがシャビはこれを断ったという。シャビは現在37歳。ペップが監督としてキャリアをスタートさせたのは、奇しくも37歳だった。ただ、バルサは当時2部Bではなくテルセーラ・ディビジョン(実質4部)に属していた。
シャビは「心のクラブ」からのオファーにも、容易に首を縦には降らなかった。この辺りの慎重さが、またペップの影と重なる。
クライフが、ペップが認めた男は、指揮官のポストに興味を示しながらも現役を続行する選択をしている。実際、今のバルサに求められているのは変革ではない。これまでのやり方を踏襲し、練度を高め、結果に確実に結び付ける。新監督に要求されるのは、そんなところだろう。
“監督シャビ”が必要になるのは、バルサがもっと窮地に立たされた時かもしれない。近年のバルサはリオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールの決定力に頼る試合が増えつつある。シーズンを無冠で終えるか、あるいは本当の意味でバルサのスタイルの危機が叫ばれ始めれば、シャビは満を持して「登壇」の覚悟を決めるはずだ。