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センバツ開幕前、36校主将に伝えた3つのワード 開幕戦での出来事を振り返って思うことは?

森本栄浩毎日放送アナウンサー
山梨学院が初優勝したセンバツ。開幕戦ではちょっとした騒動があった(筆者撮影)

 センバツ閉幕から一週間。山梨学院が県勢初優勝を果たし、全体的にも熱戦が多かった印象で、記念大会にふさわしかった。しかし、開幕戦でちょっとした騒動があったことを記憶しているファンもおられることだろう。

東北の選手がいきなりWBCのパフォーマンス

 優勝した山梨学院が東北(宮城)とぶつかった開幕戦は、波乱のスタートだった。東北の先頭打者はショート正面の強い当たりを放ったが、これを山梨学院の名手・進藤天遊撃手(3年=主将)がトンネル。ここで東北の選手が、WBCの「侍JAPAN」でおなじみとなった「ペッパーミル(胡椒ひき)」のパフォーマンスをした。これを一塁審判がすぐさま注意し、攻守交代間に東北ベンチまで行って「パフォーマンスはダメ」と釘をさした。これに対し試合後、東北の佐藤洋監督(60)が、「WBCで日本中が盛り上がっている。子どもたちが楽しんでいる野球を大人が止めるのか、ダメな理由が聞きたい」と反論した。

東北監督の反論に否定的意見が大勢

 試合中に当事者以外でこのいきさつに気付いていた人は皆無だろう。佐藤監督の発言がなければそのまま知られることなく終わっていたはずだ。問題提起しようとした佐藤監督の勇気はある程度、評価できる。しかしファンや世間の反応は、意外にも冷たかった。賛否両論あったが、否定的な意見が多かったのは、「相手の失策」のタイミングで行ってしまったからだろう。喜びの表現は自由であっていい。この場面、先頭打者がゴロを転がした結果の出塁だから間違いなくチャンスで、ガッツポーズも「あり」だと思う。もちろんこれは、相手を傷つけるような派手な動きや相手に向かってのものではないという前提に立っての話である。

相手を気遣う気持ちがあれば

 野球をやっている人なら理解できると思うが、相手の失策に対しては、一定の配慮が必要だ。逆の立場に置き換えればすぐにわかる。死球を与えた際に守備側の一塁手が走者に謝罪するのは、高校野球ならではのシーンで、残して欲しい文化だと思っている。同様に、相手を気遣う気持ちがあれば、今回のパフォーマンスが「勇み足」だったことも納得できるのではないだろうか。実はこれに関連した話を抽選会前日の3月9日、筆者が36校主将に伝えていた。

抽選会前日に「キャプテン研修会」

 コロナ前までは抽選会前日に「キャプテントーク」というイベントがあり、主将たちに座談会をしてもらっていた。ネット配信もしていたのでご覧になった方もいるかもしれないが、「主将としての心がけや苦労していること」「ユニークな練習法」「優勝候補はどこだと思うか」「憧れのスポーツ人」「他校への質問」などさまざまな内容で、司会役の筆者と毎日新聞運動部センバツキャップの記者が構成、進行する。今回は時期尚早ということで行われず、代わりに「キャプテン研修会」の一環として、30余年の経験をもとに僭越ながらしゃべらせてもらった。

主将たちに挙げた3つのワード

 彼らが生まれる前の話や、WBCで活躍する選手の高校時代の話などを興味深く聴いてくれたと自負しているが、その中で時代が変わっても残して欲しいものとして「感謝」「リスペクト(敬意)」「フェアプレー」という3つのワードを挙げさせてもらった。その中で「リスペクト」と「フェアプレー」は密接にリンクしている。「センバツに出られるのは全国3000余校からわずか36校。100分の1の選ばれた学校という誇りを持つと同時に、対戦相手には敬意を持って臨んで欲しい。敬意があれば、フェアプレーしかありえない。ガッツポーズは、敢えて禁止している指導者もいるかとは思うが、チームを鼓舞し、一体感につながるなら大いに結構。ただし、相手に向かっては絶対にしないように。相手をリスペクトする気持ちがあればわかるはず」と。

時代が変わっても変えてはいけないもの

 今回の東北のパフォーマンスは決して相手に向かって行ったものではない。しかし、タイミングが悪かった。それだけの話である。試合中の東北の選手たちは、伝統校のユニフォームを身にまとってはいたが、自主性を重んじる佐藤監督の指導が行き届いた伸びやかな動きをしていた。研修会では「皆さんの試合は全国の仲間や子どもたちが憧れの眼差しで見ている」と、伝える側からの話もさせてもらった。時代が変わっても、甲子園の高校野球で変えてはいけないものはある。それを改めて確信した大会でもあった。

毎日放送アナウンサー

昭和36年10月4日、滋賀県生まれ。関西学院大卒。昭和60年毎日放送入社。昭和61年のセンバツ高校野球「池田-福岡大大濠」戦のラジオで甲子園実況デビュー。初めての決勝実況は平成6年のセンバツ、智弁和歌山の初優勝。野球のほかに、アメフト、バレーボール、ラグビー、駅伝、柔道などを実況。プロレスでは、三沢光晴、橋本真也(いずれも故人)の実況をしたことが自慢。全国ネットの長寿番組「皇室アルバム」のナレーションを2015年3月まで17年半にわたって担当した。

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