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「テロリストの巣窟」と呼ばれた村へ。10日間の滞在、実際に現地を巡り人と会い実感したこと

水上賢治映画ライター
「アダミアニ 祈りの谷」より

 「ジョージアの山岳地帯にあるパンキシ渓谷」。

 そう訊いて、なじみのある場所と言える人はどれだけいるか。

 ジョージアという国の名は、力士の出身地などで知っていても、この渓谷がどんな場所なのか、説明できる方は限られるといっていいだろう。

 でも、この場所が「テロリストの巣窟」と呼ばれていたと知ったら、どうだろうか?

 その言葉を受けて一気にいろいろなことを思い描いて「危険なエリア」「ふつうは近づけないところ」といったレッテルを貼って、知った気になってしまわないだろうか?

 ドキュメンタリー映画「アダミアニ 祈りの谷」は、この地で暮らす人々にカメラを向ける。

 映し出されるのは、人々の何の変哲もない日常の営みに過ぎない。

 でも、その映像を見て、おそらく痛感すると思う。

 いかに自分がイメージに流されやすく、勝手に物事を色眼鏡でみてしまうことかと。

 そのことを本作は声高になることなく静かに、そして誠実に物語る。

 そして、レッテルを貼られるということは、どういうことなのか、それを消すことはできるのか、わたしたちは深く考えさせることになる。

 本作を作り上げたのは日本人の竹岡寛俊監督。

 彼はこの地になじみや所縁があったわけではない。

 観光が目的でたまたま足を運んだわけでもない。そもそもこの地は多くの旅行者が押し寄せるような観光地ではない。

 では、なぜ、旅行客もなかなか足を踏み入れることのないこの地を訪れ、なぜ、地域の人々と交流を持ち、なぜ映画を作るに至ったのか?

 制作の道のりを竹岡監督に訊く。全八回。

「アダミアニ 祈りの谷」の竹岡寛俊監督  筆者撮影
「アダミアニ 祈りの谷」の竹岡寛俊監督  筆者撮影

たまたま道で出会ったおばあちゃんの家でお世話になることに

 前回(第一回はこちら)は、作品の舞台となるパンキシ渓谷を訪れるまでについて訊いた。

 「テロリストの巣窟」と呼ばれるこの地に初めて訪れたときのことをこう振り返る。

「2010年のことしたが、バスで現地に向かって、順調にいけば明るいうちに村に着く予定でした。

 ただ、途中でバスの乗り換えを間違えたりとトラブルがあって、村に着いたのが日暮れ近くになってしましました。

 しかも、バスの運転手に言われたんです。『もう帰りのバスはないよ』と(苦笑)。

 で、このバス停というのが、まったくターミナルのようなところではなくて……。

 単なる道端に降ろされたような感じで、周囲に村の案内図もなければ人影もない。

 宿泊施設を予約してもいなかったので、さて、どうしようと(笑)。

 とりあえず、泊まるところを探さなければならない。

 当てのないまま路地を歩き始めたんですけど、ひとりのおばあちゃんに出会って、どこか泊まれるところはないか聞きました。

 彼女はマクワラ・マルゴシビリというキスト人で。幸運にも、彼女が息子一家と住んでいる家に招いてくれて泊めてくれることになったんです」

結局、10日間お世話になってしまいました

 こうして、いきなり現地の人の家に泊まることになる。

「見ず知らずの人間をいきなり迎い入れてくれるなんてなかなかできることじゃない。

 泊めていただけるだけでもありがたかったんですけど、ご一家全員がみんな温かい心の持ち主で。

 すごく僕を歓迎してくれたんですよね。

 翌日から、毎日のように案内してくれて渓谷のあちこちを周ることができました。

 ちょうどマクワラさんの孫娘が冬休みで帰省していて、彼女は英語ができた。

 彼女がマクワラさんの言うことを英語に通訳してくれて、この土地の文化や歴史について教えてくれました。

 そのご厚意に甘えてしまって、結局、10日間お世話になってしまいました」

「アダミアニ 祈りの谷」より
「アダミアニ 祈りの谷」より

テロリストの巣窟と呼ばれる村で実際に過ごして思ったこと

 10日間過ごして、パンキシ渓谷にはどんな印象を抱いただろうか?

「ひと言で表すとすれば、予想とまったく違いました。

 事前にジョージア人に『テロリストがいるので危ない。近づかない方がいい』といったことを告げられていたので、はじめは少し緊張していました。

 ただ、現地に実際に行ってみると、そんなことはまったくない。

 このご一家のように、人はみんな温かい。

 村は静かで美しい自然に囲まれていて、穏やかな時間が流れている。

 『テロリストの巣窟』と呼ばれるような物騒なところはまったくない。

 ほんとうにのどかな田舎、というのが実際に歩いてみての印象でした」

「わたしたちはテロリストと呼ばれているけれど、平和を愛する民族です」

というおばあちゃんの言葉に心を動かされて

 ただ、「テロリストの巣窟」というレッテルが貼られていることを実感した瞬間もあったという。

「実は、マクワラさんは平和活動をされていて、僕との対話の中で、ことあるごとにおっしゃるんですね。

 『わたしたちはテロリストと呼ばれているけれど、平和を愛する民族です』『テロリストと呼ばれることは辛い。そうじゃないということを世界に伝えてほしい』といったことを、繰り返し、繰り返し、おっしゃられる。

 その言葉は、僕の心に深く残りました。

 振り返ると、この体験がすべての出発点で、この後、作ることになるテレビドキュメンタリー、そして、今回の作品へとつながっていきました」

(※第三回に続く)

【「アダミアニ 祈りの谷」竹岡寛俊監督インタビュー第一回はこちら】

「アダミアニ 祈りの谷」ポスタービジュアル
「アダミアニ 祈りの谷」ポスタービジュアル

「アダミアニ 祈りの谷」

監督・撮影:竹岡寛俊  

撮影:山内泰 

編集:Herbert Hunger 

音楽:Julien Marchal 

共同プロデューサー:Jia Zhao

公式サイト https://inorinotani.com/

川崎市アートセンターにて3/16(土)~22(金) 連日19:40より上映 ※3/17(日)休映、

シネ・ヌーヴォXにて3/23(土)~公開、以後、全国順次公開予定

筆者撮影以外の写真はすべて(C)2021 ADAMIANI Film Partners

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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