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原始人風(?)自給自足の異色ヒロインに挑んだ和田光沙。指差しNG、ため息OKの謎な演出に戸惑う?

水上賢治映画ライター
「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影

 異例のロングランヒットとなった「岬の兄妹」の自閉症のヒロイン、真理子をはじめ、素人目で見てもそう容易くない、ある意味、賛否を呼ぶような役に、怯むことなく果敢に挑んでいる印象のある女優、和田光沙。

 新たな主演作となる長尾元監督の「映画(窒息)」で臨んだ役もまたチャレンジング。なんと原始人のような恰好をして、人気のない山奥で、自給自足をしながら生きる女性を演じている。

 おおよそ見本のないような特異なヒロインなのだが、和田はここでも一切セリフがない中、表情やしぐさを駆使して、この女性を確かにそこに存在する人物へとして輝かせる。

 24歳で運送業のドライバーから俳優業へと転身し、独自の役者道を歩む和田光沙に訊く。全五回。

「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影
「映画(窒息)」で主演を務めた和田光沙    筆者撮影

長尾監督のユニークな指示とは?

 前回(第二回はこちら)は脚本の印象を「これまで見たことのない不思議な印象を残すものだった」と明かしてくれた和田。

 その中で、長尾監督からはこんな説明を受けたという。

「時代としてはすごい先の未来みたいなことをいわれていたようないわれていなかったような気がします(笑)。

 ただ、あるひとつの文明が終わったあとのイメージということは共有していました。

 だから、まだ進化の過程にある原始人というわけではない。

 言葉は話さないけれども、コミュニケーションはきちんとはかれる。

 食に関しても、生で食べるのではなく、鳥を仕留めたら、きちんと焼いて食べる。

 鳥や魚を獲るのに道具も使う。そんな感じでした。

 で、監督からのユニークな指示がひとつありました。

 それは、犬やサルなどの動物がやりそうなしぐさはOK。

 逆にものすごく人間っぽいしぐさはNG。

 その線引きは、わたしはまったくわからなかったんですけど、長尾監督の中には明確にあるんです。

 わかりやすいところで言うと、溜息や首を傾げるぐらいはOK。

 でも、指で差すのはダメ。

 監督の中に、動物基準と人間基準がはっきりとあって、どう動くかはかなり気をつけながら演じなければなりませんでした。

 あんまり野生児っぽくなってもいけないし、あまりに人間らしくしてしまってもいけないし……。

 そこをどういいあんばいにして表現するのか悩みました。

 はじめは、そのあたりを現場で試しながら、探りながら演じていきました」

「映画(窒息)」より
「映画(窒息)」より

野生児っぽくとか、あまりに人間らしくならないようにとか、

あまり意識しないようになっていきました

 ただ、どこかの段階からはわりと自然体で臨めるようになっていっていったという。

「はじめは指差しはだめで、首を傾げるのはOKみたいなことにとらわれ過ぎていた気がします。

 そういう所作や動きに配慮しないといけない役というのはふだんはあまりないので、必要以上にそのことばかりにとらわれてしまった自分がいました。

 ただ、演じていく中で、いい意味であまりそれらのことにとらわれる必要もないのかなと思えるようになっていきました。

 というのも、前にお話ししたように長尾監督に明確なビジョンがある。

 シーンに関しても、すべて絵コンテが用意されていて、どういうシーンなのか明快に示されていた。

 わたしはもうそこで長尾監督が目指すものをきちんと演じればいい。

 そこで、しばられていたことから解き放たれました。

 どこかから、野生児っぽくとか、あまりに人間らしくならないようにとかあまり考えることなく、一つの文明が終わったあと、山で独り生きる人間の女として彼女の本能のまま動けばいいのかな、と考えが変換でしたところがありました。

 そこからわりと原始人か野生児かとか、変に難しく考えず変に意識もしないで、自分の本能的なところに従って演じていいきましたね。

 長尾監督が実際のところ、どう思っていたのか、わからないんですけど」

ため息はこだわって、かなりのパターンを撮りました

 では、演じる女にについて、監督からかけられた言葉はあっただろうか?

「これもわたしはちょっとなぜなのかよくわからないんですけど、長尾監督が1番言っていたのは、『とにかくため息を入れたい』ということ。

 長尾監督の中で女のため息はひじょうに重要な要素だったようで、ため息が大事ということは言われました(笑)。

 だから、ため息に関しては、かなりいろいろなバージョンを撮っていて、なおかつシーンによってはテイクも重ねました。

 いまとなっては覚えていないぐらい、いろいろなパターンのため息を撮りました。

 たとえば、ごはんをちゃんと食べることができておなかいっぱいで食事後にふっと出る満足のため息とか、なにかうまくいかないことがあって残念なときにもらすため息とか。

 実際、劇中には随所にため息をついているシーンがあるので注目していただければです。

 で、監督から具体的な指示があったのは、ため息と、あとは指差しはNGで、ため息や首を傾げるのはOKといったことぐらい。

 この不思議な指示以外は、具体的に言われたことはなかったです」

(※第四回に続く)

【「映画(窒息)」和田光沙インタビュー第一回はこちら】

【「映画(窒息)」和田光沙インタビュー第二回はこちら】

「映画(窒息)」メインビジュアル
「映画(窒息)」メインビジュアル

「映画(窒息)」

監督:長尾元

出演:和田光沙、飛葉大樹、仁科貴、寺田農ほか

全国順次公開中

公式サイト:http://www.tissoku.com/#home

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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