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サスペンスの神様の全53作品をすべて見直しての新たな発見。イメージにないが意外と彼は社会派かも?

水上賢治映画ライター
「ヒッチコックの映画術」より

 アルフレッド・ヒッチコック。彼の名は映画ファンならずとも、耳にしたことがあるだろう。

 「サスペンス映画の神様」と称される彼は、「サイコ」「裏窓」「鳥」など映画史に刻まれる名作を数多く残した。

 映画『ヒッチコックの映画術』は、2022年に監督デビューから10年が経ったヒッチコックの映画を再考察。

 ヒッチコック本人が自身の監督作の語り明かすというユニークな手法で、彼の映画の魅力に迫るとともに、名作の舞台裏を紐解く。

 そこからは、ヒッチコック映画の新たな魅力や発見が浮かびあがる。

 手掛けたのは日本でも話題となった「ストーリー・オブ・フィルム 111の時間旅行」で6年の歳月をかけ、約1000本の映画を考察しながら映画史を紐解いたマーク・カズンズ監督。

 今度は映画史に残る巨匠と向き合った彼に話を訊く。全六回。

「ヒッチコックの映画術」のマーク・カズンズ監督  筆者撮影
「ヒッチコックの映画術」のマーク・カズンズ監督  筆者撮影

キャリア当初から人間の心理や感情を巧みに描ける人であった

 前回(第五回はこちら)まで、いろいろと訊いてきたが、アルフレッド・ヒッチコックという監督と改めて向き合ってマーク・カズンズ監督自身はどんなことを感じただろう?

「お話ししたように、ヒッチコックは大好きなというか憧れの存在でした。

 これまで彼の作品は見てきていましたが、改めて向き合うとやはり新たな発見が出てきて楽しかったですね。

 まず、実は、1928年の『農夫の妻』はこれまで見たことがなかったんです。

 今回、初めて見たんですけど、サスペンス色はなくて、夫婦の間の愛というものがひじょうに丁寧に描かれている。これは素直に驚かされました。

 ヒッチコックというとどうしても卓越したサスペンス手法にすべてを集約させて語られがちですけど、映画の基本の基本といいますか。

 キャリア当初から人間の心理や感情を巧みに描ける人であったことがわかりました。

 それから『ロープ』ですね。

 この作品はこれまで何度か見てはいたんだけれども、思ってたよりもさらに素晴らしい作品だということに気づきました。

 ちょうど同時期に、たまたま僕はイタリアのファシズムに関しての映画を作っていたんです。

 その社会的な視点から見ると、『ロープ』はある種、白人至上主義について語っている。

 で、その視点から見ていくと、ヒッチコックという映画監督の新たな側面が見えてきたというか。

 おそらくヒッチコックを政治的な映画作家だと思う人は少ない。

 けれどもひとつひとつよく見ていくと、反ナチス主義的といった社会に対して鋭いメッセージの込められた映画も多く作っている

 意外と社会派の映画監督でもあったのではないかと、いま僕は思っています。

 あと、全監督作品を見て思ったのは、当たり前といえば当たり前なのだけれど、すごい映画監督だなぁと(笑)。

 全53作品の中で、少なくとも半分ぐらいは映画史におけるマスターピースと呼ばれるような傑作と言われている。

 これはシンプルにすごいと思いましたね」

「ヒッチコックの映画術」より
「ヒッチコックの映画術」より

僕にとって映画は人生のおいて欠かせない、すばらしいもの

 映画や映画人についての作品についての映画を作り続けるカズンズ監督。

 自身にとって映画とはどんな存在なのだるか?

「僕にとって映画は人生のおいて欠かせない、すばらしいもののひとつ。

 特に幼少期、僕にとって映画は友人のような存在で、多くのことを教えてくれました。

 自分はどう生きればいいのか、どんな道を進みたいのか悩んでいるときに、一歩踏み出す勇気をくれたのも映画でした。

 僕は映画のおかげで救われたことがいっぱいある。

 だから、僕の作品の多くは、映画へのラブレターなんです。自然な流れで映画についての映画を作っています。

 僕の映画についての映画を見て、今回の作品だったらヒッチコックの映画に改めて興味を抱いて、触れてもらえたらうれしいですね」

新作を日本のみなさんにも届けられたら

 ここまでの話で、いかにマーク・カズンズ監督が映画好きであるかは伝わると思う。

 今後も精力的に作品を作り続けていきたいという。

「とにかく僕が映画が好きなので、映画を作らないっていうことはあり得ないんです。

 いまも毎日のように撮影してるし、今3本編集中の作品があります。

 また近々、新作を日本のみなさんにも届けられたらと思っています」

(※本編インタビュー終了)

【「ヒッチコックの映画術」マーク・カズンズ監督インタビュー第一回はこちら】

【「ヒッチコックの映画術」マーク・カズンズ監督インタビュー第二回はこちら

【「ヒッチコックの映画術」マーク・カズンズ監督インタビュー第三回はこちら】

【「ヒッチコックの映画術」マーク・カズンズ監督インタビュー第四回はこちら】

【「ヒッチコックの映画術」マーク・カズンズ監督インタビュー第五回はこちら】

「ヒッチコックの映画術」メインビジュアル
「ヒッチコックの映画術」メインビジュアル

「ヒッチコックの映画術」

監督:マーク・カズンズ

公式サイト https://synca.jp/hitchcock/

全国順次公開中

筆者撮影の写真以外はすべて(C) Hitchcock Ltd 2022

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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