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女性料理人が強制送還寸前の少年たちの未来を変える!「10代で一人異国へ渡る決断を想像してほしい」

水上賢治映画ライター
「ウィ、シェフ!」のルイ=ジュリアン・プティ監督 (C)Naïs Bessai

 腕は確かながら、我が強くシェフの指示に素直に従えず、一流レストランを飛び出した女性料理人カティは、移民の少年たちが暮らす自立支援施設の食堂を任されることに。

 しかし、質より量が重要で、予算もわずかと、当然のことながら高級レストランとは別世界。

 食材の調達もキッチンの用具も人手も足りない状況に不満が爆発したカティに、施設長は少年たちを調理アシスタントにしてはと提案。

 このことがカティの人生と、移民の少年たちの未来を変えていく!

 映画「ウィ、シェフ!」は、このようなストーリーが進展していく。

 作品自体は、どん底にいるシェフと、フランスでの生活を望む強制送還寸前の少年たちが人生を好転させようと悪戦苦闘するコメディ仕立ての人間ドラマ。

 ただ、その背景にフランスという国が抱える厳しい現実や世界的な移民の問題などを忍ばせ、内容としてはひじょうに骨太の社会派作品にもなっている。

 この作品を通して、何を伝え、何を描こうとしたのか?

 フランスの新鋭、ルイ=ジュリアン・プティ監督に訊く。全四回

リモートでの取材に応じてくれたルイ=ジュリアン・プティ監督 提供:アルバトロス・フィルム 
リモートでの取材に応じてくれたルイ=ジュリアン・プティ監督 提供:アルバトロス・フィルム 

移民・難民に対するネガティブな問題を

少し解消するアイデアを示せるような物語を描けないか

 前回(第一回はこちら)の話で、監督は、紹介で出会った脚本家でドキュメンタリー作家のソフィー・ベンサドゥンが、家族も親類もいない、未成年の移民の存在を、料理を通じて描くという映画のアイデアを持っていて、そこに興味を持っていたと明かしてくれた。

 訊くともともと移民の問題には興味があったという。

「日本のみなさんもご存知の方がいらっしゃると思いますが、フランスは移民大国として知られています。

 多くの移民を受け入れている国であることは、もちろんわたし自身も知っていました。

 そして、今回、焦点を当てることになった、親や保護者のいない未成年の移民の存在がいることも、もともと知っていました。

 ですから、今回、ソフィーのアイデアをきいたときに、ひじょうに興味をもったわけです」

 その上で、こんなことを考えていたという。

「移民大国ではありますが、移民の受け入れに否定的な声もあるのは確か。

 今日のフランスにおいて、ひとつの社会問題になっていることも否めません。

 ただ、こういったネガティブな問題を少し解消するアイデアを示せるような物語を描けないかと考えていました。

 で、カトリーヌ・グロージャンに出会い、彼女の活動を知り、同伴者のいない移民の若者たちの存在を前にして、描けるのではないかと思いました。

 フランスにやってきて学び、自身の未来を切り拓こうという移民の若者たちがいる。

 そういう彼らに手を差し延べて、きちんとした技術を体得させて自立させようとする人物がいる。

 そして、いまフランスの現実として、人手不足という問題があります。

 たとえば建設現場や外食産業、農業といった分野で人材が不足している状況がずっと続いている。

 これらことを結びつければ、なにか移民に関する問題の解消の糸口になるような物語ができるのではないかと考えました。

 今回の『ウィ、シェフ!』の脚本は、そういう考えのもとに練り上げたものになります。

 移民に対する理解が進み、いま起きている問題が少しでも好転するような形になればとの思いを込めて書き上げました」

「ウィ、シェフ!」より
「ウィ、シェフ!」より

想像してほしい。10代で母国からひとりで他国へいくことを

 前作の「社会の片隅」でのインタビューにおいて、プティ監督は、社会において「透明人間」、つまり現実問題として社会にいるのだけれども、社会から見放され、時には見向きもされず、見過ごされてしまう人々を作品でクローズアップしたいと話していた。

 それが自分の映画作りにおいて、ひとつの使命でもあると語っている。

 今回、クローズアップした、同伴者のいない移民の少年たちというのも当てはまる。

 リサーチして、どんなことを感じたのだろうか?

「みなさんも想像してほしい。10代で母国からひとりで他国へいくことを。

 親も保護者もいない、つまり頼れる存在が誰もいない状態で、言葉も違えば、生活習慣も違う国にいくという決断は並大抵なことではありません。

 わたしが今回、出会った移民の少年たちに一番感じたのは、勇気と力強さです。

 彼らの境遇というのは決して恵まれたものではない。でも、しっかりと前を向いている。

 カトリーヌ・グロージャンのもとで学ぶ若者たちは実に活き活きとしていました。

 真摯に学び、この国で自立して生きていこうという意思の感じられる若者ばかりでした。

 その彼らのポジティブさが印象に一番残りました」

 実際のカトリーヌ・グロージャンが教師を務めるフランスで暮らすために必要なCAP(職業適性能力資格)の取得を目的とする学びの場のカリキュラムはどのような形になっているのだろうか?

「実際のレッスンは期間が3年間になります。

 カリキュラムとしては、いわゆる講義と実習の2つが主体となって学ぶことになります。

 それから実際の店舗での研修もあります。

 で、前回お話したように、カトリーヌ・グロージャンのこのレッスンを受けた生徒は100%CAP(職業適性能力資格)を得ていて、仕事についています」

(※第三回に続く)

【ルイ=ジュリアン・プティ監督インタビュー第一回はこちら】

「ウィ、シェフ!」ポスタービジュアル
「ウィ、シェフ!」ポスタービジュアル

「ウィ、シェフ!」

監督:ルイ=ジュリアン・プティ

出演:オドレイ・ラミー、フランソワ・クリュゼほか

公式HP:ouichef-movie.com

全国順次公開中

場面写真及びポスタービジュアルはすべて(C)Odyssee Pictures - Apollo Films Distribution - France 3 Cinéma -Pictanovo - Elemiah- Charlie Films 2022

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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