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「妻として」という考えをやめたら、意外と夫もわたしも自由に!夫と離れての島暮らしは夫婦の選択で

水上賢治映画ライター
「夫とちょっと離れて島暮らし」のイラストレーター、ちゃず 筆者撮影

 奄美地方で公開が始まると、異例の連日満員御礼!その反響から、全国各地での公開が始まったドキュメンタリー映画「夫とちょっと離れて島暮らし」。

 奄美群島の加計呂麻島に期間限定移住していたイラストレーターのちゃずの島暮らし生活をみつめた本作は、いろいろな視点から語れる1作といっていいかもしれない。

 それこそ島暮らしに憧れている人にとっては、その生活のひとつの指針になるかもしれないし、夫とちょっと離れて暮らすという観点から、夫婦関係の在り方について考える人もいるかもしれない。

 もちろんInstagramのフォロワーが10万人を超す人気イラストレーターのちゃずが、島でどんな生活を送っていたかに興味を抱く人もいることだろう。

 夫と離れて島暮らしをはじめた、ちゃずの何に心惹かれ、彼女との日々から何を感じたのか? 

 手掛けた國武綾監督に訊く全四回インタビュー(第一回第二回第三回第四回)に続く、ちゃず本人へのインタビューの第三回に入る(第一回第二回)。(全四回)

『妻として』という考え方をやめてみたら、

意外と夫もわたしも自由ないい感じになれた

 引き続き、島暮らしについて訊いていくが、それにしてもこの「夫とちょっと離れて島暮らし」というタイトルには、ちょっとドキッとするのではないだろうか?

 どちらかというと、旦那に愛想をつかせて離島にいってしまったような、ネガティブなものを想像してしまうかもしれない。

 でも、これはちゃず自身が発表していた漫画や今回の映画をみればわかるように、まったく違う。

 この期間限定移住は、夫婦合意での選択。二人はそれぞれに新たな夫婦生活として前向きにとらえている。

 あまりあるケースではないので、「夫婦はいつでも一緒にいないと」と眉をひそめる人がいてもおかしくはないだろう。

 ただ、これまでの型にとらわれない、こういう夫婦の関係や生活があってもいいのではないか?そう思わせる新しい夫婦の在り様にも映る。

「字面だけでイメージすると深刻な感じを受けますよね。それはわたしもわかります(笑)。

 確かにはじめはネガティブな受け止め方をされることが多かったです。『どうせ浮気されるよ』とか、『夫婦生活が終了するのでは?』とか。

 でも、だんだんとそういうことを言われなくなっていきました。

 それは、だんだんと『こういう夫婦の関係があってもいいのでは』と受けとめてくださる方が多くなったからのような気がします。

 前も少し話しましたけど、わたし自身が『夫に常についていかなくてはいけない』『妻なんだから夫についていくべき』と思っていた。

 そうメンタルに刷り込まれていたんですね。だから、島で暮らしたいとは思っていましたけど、夫と離れてというのは想定していなかった。

 でも、夫の後押しがあったのは大きかったですけど、その刷り込まれた『妻として』という考え方をやめてみたら、意外と夫もわたしも自由ないい感じになれた(笑)。

 あと、これはのちのち気づいたことなんですけど、『夫についていかなくてはいけない』というのは、自分には選択権がないと思っているということなんですよね。

 夫に自分の人生をどこか託してしまっていた。『だから、夫と離れて島暮らしなんてありえない』となる。

 でも、ほんとうは人生の選択権は自分にあるんですよね。わたしはありがたいことにそのことに夫が気づかせてくれた。『ああ、自分で選択していいんだ』って。

 そういうことも含めて、わたしにとってこの島暮らしというのは、公私ともにいろいろなことに気づかされた大きな経験になりました」

「夫とちょっと離れて島暮らし」より
「夫とちょっと離れて島暮らし」より

國武さんの熱意が伝わってきました

 では、本格的に密着取材を受けたことについての話に入る。

 國武監督からの密着取材の申し出を受け入れた決め手はどこにあったのだろうか?

「國武さんからお話をいただいたときはシンプルにうれしかったです。まさか『自分を撮影したい』って言ってくださる方がいるとは思わなかったので。

 それまでもいくつか取材は受けていたんですけど、1日、長くて2日ぐらいで、『しばらくの間』というのはなかった。それもしっかり撮影したい気持ちが伝わってきました。

 さらに、國武さんは、きちんと付き合い、向き合う中で関係性をしっかり築いた上で『わたしを撮っていきたい』といった主旨のことをおっしゃってくださいました。

 そのことでも信頼が置けるなと思いました。

 それからわたしがなにかする必要は一切ない。ふだんどおり過ごせばいいとのことで、それも気が楽でした。

 あと、國武さんと旦那さんの中川さんとでいらっしゃったんですけど、二人の醸し出している空気がすごく親しみがわいたというか。

 なんか家族みたいな親しみを感じたんです。

 うちに泊まって撮影されるときもあったんですけど、冷蔵庫にあるものでご飯作ってくれたりとか、壊れかけていたトイレのドアを直してくれたりとか、そういうことを二人ともあくまで自然にさらりとされるんですよ。わたしとしては心をギュッとつかまれてしまう。

 そういう國武さんと中川さんの人間性も大きかったです。

 あと、國武さんの熱意にも心が動かされました。

 インタビューでもお話しされていましたけど、取材の申し出のときの説明の際は、かなり緊張されていましたが國武さんの熱意はものすごく伝わってきました。

 それでぜひということで取材していただくことになりました」

途中からカメラの存在はもう忘れていました(笑)

 「トイレとお風呂以外は撮影OK」と伝えたとのことだが、実際の撮影はどう感じていたのだろうか?

「はじめはやはり『撮られているな』とカメラの存在を感じていましたけど、途中からもう忘れていましたね(笑)」

 作品内には、ちゃずがイラストや絵を創作する姿がふんだんに盛り込まれている。

創作をしているところの撮影はOK。

見られている方が逆にやる気が、がぜん出てくるんです!

 アーティストによっては、自分の創作しているところは集中したいのでNGという人もいるが、そういう感じはなかったのだろうか?

「わたし、見られてほめられて伸びるタイプというか。

 見られている方が逆にやる気が、がぜん出てくるんですよ(笑)。

 宿題とかもひとりだとさぼりがちだけど、誰か隣で見ているとすごくやる気になる。

 だから、カメラというか國武さんとかがいてくれたほうがすごく集中できてやる気もアップしてました。

 なので、まったくいてくれて問題なかったです」

 國武監督に訊いたところによると、ちゃずは、出会った人にすぐ似顔絵を描いて渡したりするとのこと(※ちなみに筆者も描いていただいた)。

 みんなが喜んでくれるなら出し惜しみなしの姿勢に感銘を受けたと明かしている。

「わたしが人を喜ばせるのは、絵しかないから。

 なにかそうやって描ける機会があって出会いがあったら、描きたいなというだけなんです」

(※第四回に続く)

【ちゃずインタビューの第一回はこちら】

【ちゃずインタビューの第二回はこちら】

【國武綾監督インタビューの第一回はこちら】

【國武綾監督インタビューの第二回はこちら】

【國武綾監督インタビューの第三回はこちら】

【國武綾監督インタビューの第四回はこちら】

「夫とちょっと離れて島暮らし」ポスタービジュアル
「夫とちょっと離れて島暮らし」ポスタービジュアル

「夫とちょっと離れて島暮らし」

監督:國武綾

プロデューサー:中川究矢

出演:ちゃず、マム、ヘイ兄、加計呂麻島 西阿室集落のみなさん、

けんちゃん ほか

4/20(水)まで 沖縄 シアタードーナツにて公開中

4/30(土)〜5/6(金) 名古屋 シネマスコーレにて

5/6(金)〜8(日) 鹿児島 ガーデンズシネマにて公開

新潟シネ・ウインドにて公開予定

公式サイト https://chaz-eiga.com/

ポスタービジュアルおよび場面写真はすべて(C)「夫とちょっと離れて島暮らし」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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