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夫と離れ、東京から南の島に期間限定移住!「スマホがつながらなくなった瞬間、安堵する自分がいました」

水上賢治映画ライター
「夫とちょっと離れて島暮らし」のイラストレーター、ちゃず 筆者撮影

 奄美地方で公開が始まると、異例の連日満員御礼!その反響から、全国各地での公開が始まったドキュメンタリー映画「夫とちょっと離れて島暮らし」。

 奄美群島の加計呂麻島に期間限定移住していたイラストレーターのちゃずの島暮らし生活をみつめた本作は、いろいろな視点から語れる1作といっていいかもしれない。

 それこそ島暮らしに憧れている人にとっては、その生活のひとつの指針になるかもしれないし、夫とちょっと離れて暮らすという観点から、夫婦関係の在り方について考える人もいるかもしれない。

 もちろんInstagramのフォロワーが10万人を超す人気イラストレーターのちゃずが、島でどんな生活を送っていたかに興味を抱く人もいることだろう。

 夫と離れて島暮らしをはじめた、ちゃずの何に心惹かれ、彼女との日々から何を感じたのか? 

 手掛けた國武綾監督に訊く全四回インタビュー(第一回第二回第三回第四回)に続く、ちゃず本人のインタビューの第二回に入る。(全四回)

築いたキャリアを失う可能性への恐れはなかったのか?

 前回(第一回)は、加計呂麻島の西阿室集落へ期間限定での移住を決めるまでの

経緯について訊いた。

 期間限定の移住を決めたところでききたいのが、仕事について。

 東京から遠く離れた地へいくというのは、それまで築いたキャリアを失う可能性があるということでもある。

 その心配はなかったのだろうか?

「どこかの会社に属しているわけではない。フリーランスの身ですから、東京を離れてしまって、仕事を失う怖さは確かにありました。

 東京在住だからいただけている仕事もあるのは確かで、それを手放していいものか、と心配にならなかったといったら嘘になる。

 でも、そういうことよりも、島で暮らしたい気持ちが上回ってしまったんですよね。

 加計呂麻島の西阿室集落は、港からいくとなると山をひとつ越えていく場所なんです。

 その山を越えたところから、わたしのスマホはつながらなくなったんです。

 いまはつながるのかもしれないですけど、当時はつながらなくて仕事の連絡がとれなくなってしまった。

 そのとき、『ああ、これからどうしよう』と思ったんですけど、一方でちょっとほっとする自分もいたんです。

 『これで仕事に追いかけられないですむかも』と、安堵する自分がいた。

「夫とちょっと離れて島暮らし」より
「夫とちょっと離れて島暮らし」より

 振り返ってみると、その時期というのは、わたし自身が仕事の仕方をちょっと変えようと思っていた時期でもありました。

 わたしは、相手に必要以上に合わせすぎるところがあって。たとえば急に呼び出されたりすると、用事があっても断れない。

 深夜に電話がかかってきて、急を要することでないことがわかっていても、相手に合わせて対応してしまう。

 仕事がなくなってしまうと困るので、どうしてもそうせざるをえなくなってしまう。

 その結果、フリーランスの方はわかるところがあると思うんですけど、プライベートと仕事をうまく線引きできない。

 どうしても仕事優先になってしまって、自分の時間は後回しになってしまう。気づくと心の休まる時間がなくなっている。

 その状況に疲れを感じはじめていて、もっと自分の時間や暮らしを大切にしたいなと思い始めていたんです。

 そういう気持ちがあったからか、スマホがつながらなくなったとき、ひとつ踏ん切りがついたというか。

 つながらないものはしょうがない。

 自分の仕事の向き合い方を一度見直すいい機会になると、思い切れた。

 といいつつ、電波の入るところに戻って、連絡が入ってないか確認しにいっちゃったりもしたんですけどね(苦笑)。

 でも、すぐに、いままでとは違う新しい生活をスタートさせる気持ちに切り替えることができました」

ちょっと途方に暮れ始めたぐらいのときに……

 とはいえ、仕事が軌道にのるには少し時間がかかったという。

「移住した当初は、レギュラーの仕事はなかったので、安定した収入があったわけではありませんでした。

 正直なところ、途中でバイトをしなくては……という時期もありました。ただ、期間限定だとなかなか雇ってくれるところがない。

 で、ちょっと途方に暮れ始めたぐらいのときに、島暮らし日記としてインスタグラムにあげていた漫画のフォロワーが4万、5万と増えていってくれたんです。

 そのおかげでわたしの絵を気に入ってくれた方が絵を買ってくださったり、島暮らし中に仕事のパートナーとして支えてくださった方のサポートもあったりして、なんとか生計を立てられるようになりました!

 ほんとうに有難い環境だったなと思います」

「夫とちょっと離れて島暮らし」より
「夫とちょっと離れて島暮らし」より

自分の絵は漫画に向いていると思っていなかったんです

 これは映画の中でも明かしていることだが、漫画はあまり得意としていなかったという。

「自分の絵は漫画に向いていると思っていなかったんです。

 だから、インスタグラムに掲載したものの、ここまで反響があるとは夢にも思いませんでした。

 いま振り返ると、気取らずに、自分の島暮らしを素直に自分が描きたいように描いたのがよかったのかなと思います。

 それが、いい意味で、気軽にみていただけるものになって、みなさんに楽しんでいただけたのかなと思っています」

(※第三回に続く)

【ちゃずインタビューの第一回はこちら】

【國武綾監督インタビューの第一回はこちら】

【國武綾監督インタビューの第二回はこちら】

【國武綾監督インタビューの第三回はこちら】

【國武綾監督インタビューの第四回はこちら】

「夫とちょっと離れて島暮らし」ポスタービジュアルより
「夫とちょっと離れて島暮らし」ポスタービジュアルより

「夫とちょっと離れて島暮らし」

監督:國武綾

プロデューサー:中川究矢

出演:ちゃず、マム、ヘイ兄、加計呂麻島 西阿室集落のみなさん、

けんちゃん ほか

4/20(水)まで 沖縄 シアタードーナツにて公開中

4/16(土) 第14回沖縄国際映画祭にて上映@桜坂劇場

4/30(土)〜5/6(金) 名古屋 シネマスコーレにて

5/6(金)〜8(日) 鹿児島 ガーデンズシネマにて公開

新潟シネ・ウインドにて公開予定

公式サイト https://chaz-eiga.com/

場面写真はすべて(C)「夫とちょっと離れて島暮らし」製作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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