いまはもうこの世にいない、池田英彦。映画「愛について語るときにイケダの語ること」は、彼の最後の願いから始まった。

　四肢軟骨無形成症だった彼は、40歳の誕生日目前でスキルス性胃ガンステージ４と診断され、「今までやれなかったことをやりたい」と思い立つ。

　その性愛へと向かい、自分と女性のセックスをカメラに収める、いわゆる「ハメ撮り」をはじめると、自らの死をクランクアップとし、その映像を自身主演の映画として遺すことを望んだ。

　その遺言を託された池田の親友でドラマ「相棒」などを手掛ける脚本家の真野勝成は、「マイノリティとセックスに関する、極私的恋愛映画」や「ナイトクルージング」などを発表している友人の映画監督、佐々木誠に池田の映像を託す。

　こうして池田英彦企画・監督・撮影・主演、初主演にして初監督にして遺作となった映画「愛について語るときにイケダの語ること」は生まれた。

　大きな反響を呼ぶ本作については、これまで撮影・脚本・プロデュースを担当した真野勝成（前編・後編）と、共同プロデューサー・構成・編集を担当した映画監督の佐々木誠（第一回・第二回・第三回・第四回）、そしてキーパーソンを演じた毛利悟巳（第一回・第二回・第三回・第四回・番外編第一回・番外編第二回・番外編第三回）のインタビューを届けた。

　今回は、反響がいまもやまず、ロングランが続く現状からどういう声が届いているのかを、真野プロデューサーと佐々木監督に訊くインタビューの第三回（第一回・第二回）に入る。（全五回）

実は真野とイケダの愛について語っているんじゃないかと、言う人がいる

　前回の最後で、「観客によって自分の人生をどう終うのかは、いまの社会において切実な問題で。『愛について語るときにイケダの語ること』には、そういうことに対するメッセージが含まれていることに、みなさんによって教えられた」と語った二人。

　ほかにもまったく予期せぬ感想で気づかされたことがあったという。

真野「イケダは、真野の愛があったから、ああいう最期を迎えられたんじゃないかと、よく言われるんですよ。

　僕の愛のもとで、看取られて『イケダさん、幸せですね』みたいな受け止め方をされる人がいる。

　そういうことじゃないと思うんですけどね（笑）」

佐々木「この映画は、実は真野とイケダの愛について語っているんじゃないかと、言う人がいる。

　そういわれると、あながち間違っていないと、僕も最近だんだんそう思えるようになってきた。

　真野さんとイケダさんの関係って入る隙がないわけではないけど、入れないというか。

　もし自分が知り合ったとしたら、あえてそこに自分も加わろうと思わなくなっちゃうような出来上がった関係がある。

　この関係の在り様は男性は比較的わかると思うけど、女性はわからないところがあるんじゃないかなと。

　もし、当時、真野さんにちょっと嫉妬深い彼女がいたりしたら、対抗心を燃やしてイケダさんを敵視していたかもしれない（笑）。

　それぐらい入り込めないところがある。

　そもそも、死ぬ前に自分を撮ってくれとか、風俗で遊ぶから手伝ってくれとか、よっぽどの関係性ではないと言い出せない。

　そう考えると、この映画は『真野とイケダの愛について語っている』というのもある意味、納得と最近感じ始めています」

最後まで変わらなかったイケダと僕のテンションについて

　さらに、こう尋ねらることもしばしばあるという。

真野「なんで、最後まで二人の向き合うスタンスが変わらなかったんですか？とよく聞かれます。

　なぜ、死を前にしていながら、お互いに軽口をたたき合ったりできるのか？取り乱すことはなかったのか？

　僕とイケダのテンションが最後まで変わらないのが不思議だと。

　そこはすごくいろいろな人に言われます。

　『悲しくて泣いたりとか、そういうことがほんとうになかったんですか？』と。

　いや、『ほんとうになかったんですよ』と返すんですけど」

佐々木「映画をみて、ボロボロ泣かれている方もいっぱいいらっしゃる。

　結構、目を真っ赤にして出てきて、『いまはちょっと何も言えないです』とサインだけもらって帰る人もかなりいらっしゃった。

　そういう方からすると、『真野さん、ほんとうに悲しくなかったの？』となる」

真野「亡くなったときは、悲しくないわけがない。

　ただ、ある意味、覚悟はしていたから。

　それまではもう普段通りに接するだけのことで。

　というか急によそよそしくなるのもおかしいでしょ。長く付き合ってきたわけだから、逆に急によそよそなるのはむしろ難しい。

　みなさんも気ごころ知れた友人や知人に接するときに、いちいち改まったりしないでしょ。それと同じだと思うんですけどね」

リピーターのみなさんは『イケダさんに会いに来ました』とおっしゃる

　何度も劇場に足を運んでいるリピーターもよく見うけられると訊く。実際はどうなのか？

真野「ありがたいことに何度も見てくださる方がいらっしゃるんですよね。

　それがアンコール上映にもつながっていると思うんですけど」

佐々木「この前、『8回目です』と言う人がいらっしゃいました。

　で、みなさん『イケダさんに会いに来ました』とおっしゃるんですよね」

真野「いや、これはお世辞ではなく、『イケダって、たいした男だな』と思います。

　いま何度もスクリーンで『会いたい』と思わせる人物は、有名な俳優さんでも、そうそういませんから（笑）」

佐々木「あと、正直に話すと、作品をみて、すごく怒った女性にも出会っています。

　彼女は、『もっとセックスシーンがあると思ったのにほとんどない』と。

　その点で期待させてしまったのならば、もう僕らとしては『申し訳ない』というしかない」

（※第四回に続く）

「愛について語るときにイケダの語ること」

企画・監督・撮影・主演：池田英彦

出演：毛利悟巳

プロデューサー・撮影・脚本：真野勝成

共同プロデューサー・構成・編集：佐々木誠

公式サイト　→　https://ikedakataru.movie

３月４日（金）より　シネマ映画.comにて先行独占配信スタート！

プレミアムスクリーン

配信期間： 2022年3月4日（金）～ 4月3日（日）

料金：1000円

詳しくは　→　https://cinema.eiga.com/titles/336/

場面写真はすべて（C） 2021 愛について語るときにイケダが語ること