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魔性の女に翻弄される小説家を演じて。役作りは居候生活から始まっていた?

水上賢治映画ライター
「ボディ・リメンバー」に出演した柴田貴哉 筆者撮影

 虚実入り混じり、真実が曖昧になる謎めいた大人のラブ・サスペンス・ストーリーが展開する映画「ボディ・リメンバー」。

 これまで俳優として活躍してきた山科圭太が映画監督に初挑戦した本作は、彼が大いに影響を受け、もっと映画界でも知られていいと思った演劇界の実力者、田中夢、奥田洋平、古屋隆太、鮎川桃果らをキャスティングし、脚本もまた山科が信頼を寄せる劇作家、三宅一平が書き上げた。

 いわば演劇界の才能が力をひとつに結集してできたといっていい。

 本作については、監督を務めた山科圭太(前編後編)と主演の田中夢(前編後編)、共演の鮎川桃果(前編後編)、それぞれのインタビューを届けてきたが、最後に登場いただくのは三宅唱監督の作品などで知られる柴田貴哉。

 田中夢が演じた妖しい魅力を放つヒロイン・ヨウコに気づけば惑わされる作家のハルヒコを演じた彼に訊く。(全二回)

山科さんとはデビューしたころからの付き合い、お互い切磋琢磨してきた

 まず、柴田は1988年生まれ、山科は1985年生まれと年齢は違うが二人は旧知の仲。俳優デビューしたころに出会い、ここまで互いに切磋琢磨してきた。

 山科の印象をこう明かす。

「山科さんの印象は、もう最初に出会ったときからずっと変わらない。

 なんかはじめから気が合ったんですよねす。

 最初に出会ったのは久保田誠監督の2009年の作品『気楽な商売』だったのですが、当時、僕は20歳を過ぎたばかりで、まだ思春期が抜けきれていないというか。

 自分から積極的に誰かとコミュニケーションをとって話したりということがまったくできなかった。

 映画の現場にいても、なんかひとりで殻に閉じこもって、誰とも会話しないような人間だったんです。

 いま振り返ると、北海道から出てきたばかりで、すごく都会や周囲の大人にびびっていたんだと思います。

 それで勝手に閉じこもっていた(笑)。

 でも、山科さんだけはなぜか、心を開くことができて信頼できて、話すことができたんです。

 話し出したきっかけは、確か携帯ゲーム。他愛のないことから会話が始まったと思うんですけど、なんか気づいたらよく話すようになって。

 その関係が10年以上たった現在も続いている感じです」

山科さんがで映画監督デビューしたことに驚きはなかった

ついに『そのときがきたんだ』と思いました

 これまで俳優をメインに活動してきた山科が映画監督に臨んだことに驚きはなかったという。

「僕は映画学校に通っていたこともきいていたし、僕が出演している三宅唱監督の『Playback』で、山科さんは助監督として参加していた。

 めちゃくちゃいろいろな映画も観ていて、『いつか自分も』といった話もきいていたので、どこかでクリエイターとしての力を発揮するときが来るんだろうなと思っていました。

 それで、その作品にはなんとか自分も出たいなと思っていました。

 ですから、今回の映画監督への挑戦は驚かなかったです。ついに『そのときがきたんだ』と思いましたね」

 それだけに出演のオファーが来たときは喜びもひとしおだった。

「『よっしゃ、来た』って感じでしたね。

 いつか、こういうときがくるかもしれないと思っていて、そのときがきたので、断る理由はなかったです。

 たしか地元の北海道に帰っているときに、電話をもらって。山科さんからいろいろと作品について、ハルヒコ役について話された気がするんですけど、ちょっと興奮していたのか、そのときのことをあまり覚えていないんですよ(苦笑)。

 それぐらいうれしかったです」

「ボディ・リメンバー」に出演した柴田貴哉 筆者撮影
「ボディ・リメンバー」に出演した柴田貴哉 筆者撮影

ハルヒコが住んでいるアパートは、山科さんの自宅なんです

 柴田の場合、撮影に入る前から役作りがはじまっていた。

「撮影裏話になりますけど、ハルヒコが住んでいるアパートは、山科さんの自宅なんですよ(笑)

 それでちょうど撮影に入る前に、僕が部屋を探していて、ハルヒコとして家になじむのにいいんじゃないかということで、山科さん宅にしばらく居候していた。

 なかなかいい物件がみつからなくて、結果的に長く居座ったところもあるんですけど(苦笑)。

 なので、そこから役作りがはじまっていたといえばはじまっていました」

これまでのキャリアを考えると、僕には絶対とはいわないけど、まず来ない役

チャンスをくれた山科さんの期待に応えたいと思いました

 ハルヒコという役については「驚いた」という。

 山科監督はハルヒコを柴田に託した理由を、「これまで彼がやったことのない役にチャレンジさせて。こんな役もできるという彼の新たな側面を引き出したかった」と明かしている。

「脚本に最初目を通したときは、期待と不安が半々でした。

 最初、正直なことを言うと、脚本を読んだときは、怖かった。『自分がこんな役を演じられるなのだろうか』と。

 でも一方で、ワクワクしました。こんな役はやったことがないので、新たなチャレンジができるなと。

 どういうことかというと、たぶん、これまでのキャリアを考えると、僕には絶対とはいわないけど、まず来ない役だと思うんです。

 僕のことを昔から知っている人は、僕が小説家役を演じたときいたら、おそらく大爆笑すると思うんですよ。『お前の柄じゃないだろう』と(苦笑)。

 僕自身もそう思う。でも、ひとりの役者としてはいろいろな役にトライしてみたいし、どんな役もできる俳優になりたい。

 だから、山科さんが、そういう役に僕を抜擢してくれたことがうれしかった。

 このチャンスを大事にしたかったし、山科さんの期待に応えたいと思いました」

(※第二回に続く)

「ボディ・リメンバー」より
「ボディ・リメンバー」より

「ボディ・リメンバー」

監督・脚本・編集:山科圭太

脚本:三宅一平、山科圭太

出演:田中夢、奥田洋平、古屋隆太、柴田貴哉、鮎川桃果、上村梓、神谷圭介、

影山祐子

場面写真は(C)GBGG Production

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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